2019年11月8日 衆院厚生労働委員会 ハンセン病元患者家族補償法案 丁寧な相談体制つくって

 衆院厚生労働委員会は8日、国の誤ったハンセン病隔離政策によって深刻な差別を受けた元患者家族に対して1人当たり最大180万円の補償金を支給するハンセン病元患者家族補償法案とハンセン病基本法改正案を、全会一致で採択しました。
 採決に先立つ質疑で日本共産党の宮本徹議員は、元患者の中には家族から離縁されている人や、家族への差別を恐れ直接の連絡が難しい人もいるなど、補償金の申請にあたり困難が生じると指摘。他方で、補償を通じて家族関係の回復のきっかけにもなり得るとして「全療協や弁護団の皆さんの知恵も借りて、入所者の気持ちに寄り添った、丁寧な相談体制をつくるべきだ」と主張しました。
 加藤勝信厚労相は「それぞれの家族の状況を想定し、家族の皆さんや活動に関わってきた方の話を十分に踏まえて取り組みたい」と答弁しました。
 同法案は国立ハンセン病療養所の医療・介護体制の整備充実を規定しています。宮本氏は、医師の確保と同時に、療養所職員を国家公務員の定数削減の対象からはずし、体制を充実するよう迫りました。加藤厚労相は「定員の問題を含めて努めていきたい」と答弁。宮本氏は、充実につながる結果を出してほしいと求めました。
 また宮本氏は、学校での元患者の語り部や、療養所への小学生の訪問などを紹介し、「国の隔離政策が生んだ偏見・差別の解消は国の責任だ。学校教育の場で真剣に取り組む必要がある」と訴えました。

以上2019年11月9日付赤旗日刊紙より抜粋

≪第200回2019年11月8日衆院厚生労働委員会第4号 議事録≫

○盛山委員長 次に、宮本徹君。
○宮本委員 日本共産党の宮本徹です。ハンセン病元患者家族補償法案、そして基本法改正法案を作成するワーキングチームには、高橋千鶴子衆議院議員とともに、私も日本共産党の代表として参加して議論してまいりました。今回、補償の対象となる家族の人数は、推計二から三万人ということでございます。国としてどうおわびを届けていくのか。先ほど来議論になっておりますが、申請には乗り越えなければいけないハードルがあるのも事実であります。今、療養所に入所されている方には、家族から縁を切られた状態で入所されている方も少なくありません。迷惑をかけるという思いから、なかなか入所者の側から言えない、こういうお話も伺います。また、退所している元患者でも、周りの方に知られないように、給与金関係の連絡が厚労省から直接行かないように、入所者の友人から届けていただいているという方も現にいらっしゃいます。そして最近も、聞いた話では、夫の家族に元患者がいるということを知った奥さんが子供を置いて出ていってしまった、こういうお話も伺いました。本当に丁寧にこれはやっていかなきゃいけないなと思っております。一方で、今回の家族訴訟の経緯を見ますと、今回の補償を通じて、家族関係の回復の契機にもなり得るのかなというふうに思っております。ですから、この補償金の申請でも、家族関係の回復のための支援についても、ぜひ、全療協や弁護団、原告団の皆さんの知恵もおかりしながら、入所者、元患者の皆さんの気持ちに寄り添った丁寧な相談体制をしっかりとつくっていただきたいと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○加藤国務大臣 私も家族の方とお話をする機会がありまして、今委員御指摘のように、さまざまな、本当に厳しい状況の中で、家族関係もなかなかつくれない、あるいは自分の伴侶に事実を明かすこともできない、本当にいろいろな状況があっているということは、そうした機会を通じて認識を深めさせていただいたところであります。私どもとしても、そうしたそれぞれの家族状況というのでしょうか、置かれておられるそれぞれの状況をしっかりと踏まえて丁寧に配慮をすると同時に、こうした申請に当たっても、そういう状況があるんだということを十分想定しながらやっていかなきゃいけないと思いますし、今御指摘のように、補償の支給、さらには特に差別解消、あるいは家族関係の回復、こういった議論については、家族の皆さん、あるいはこうした活動にかかわってこられた方々のお話、そういったものを十分踏まえながら取組をさせていただきたいというふうに思います。
○宮本委員 しっかりとお願いしたいと思います。そして、偏見、差別が解消してこそ最終解決ということになってまいります。国の隔離政策が生んだ偏見、差別の解消は、やはり国の責任であります。偏見、差別の解消にとって、やはり教育には大きな力があると思います。ハンセン病元患者の皆さんが学校などで語り部を行っております。子供たちは真っすぐ受けとめるという話をよく伺います。それで、多磨全生園には、地元の小学校はもちろんのこと、近隣市からも小学生がよく訪れて、歴史も含めて学んでおります。そして、小学生が来ると家でも話題になって親御さんの理解も広がる、こういう話も伺っております。ハンセン病を正しく理解し、ハンセン病問題の歴史について正しい知識を普及するために、学校教育の場での取組を真剣に進めていかなきゃいけないと思います。この点は、文科省、きょう来ていただきましたけれども、この間の取組の反省も踏まえて今後どう取り組んでいくのか、お話しいただきたいと思います。
○蝦名政府参考人 お答え申し上げます。本年七月の総理大臣談話におきましては、関係各省が連携協力し、患者、元患者やその家族が置かれた境遇を踏まえた人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化に取り組みますとされております。学校教育におきましても、ハンセン病に関する正しい理解を促進することはこれまで以上に重要であるというように考えているところでございます。文科省としては、これまで、関係省庁とも連携し、ハンセン病問題の歴史も含めた中学生向けのパンフレットの活用の促進でありますとか、ハンセン病に関する教育を含めた学校における人権教育の特色ある実践事例を取りまとめるなど、ハンセン病問題を含めた偏見や差別の解消に向けて、人権教育の推進に取り組んできているところでございます。加えまして、今般、熊本地裁の判決の受入れといったようなことも踏まえまして、八月三十日に、改めて、各都道府県の教育委員会や私立学校の担当部局等に対しまして、ハンセン病に対する偏見や差別の解消のための適切な教育の実施について通知を発出いたしますとともに、各種の会議の場等を通じた教育、啓発への協力要請を行っているところでございます。また、こうした問題の解決のためには教員の理解と努力というものが大変重要であると考えてございまして、独立行政法人の教職員支援機構が実施をする教員研修の内容の一層の充実についても検討をいたしているところでございます。また、佐々木文部科学大臣政務官を座長といたしますハンセン病家族国家賠償請求訴訟を踏まえた人権教育推進検討チームを文部科学省内に設置いたしまして、ハンセン病の患者、元患者やその御家族が置かれていた境遇を踏まえた人権教育を推進するための具体的な検討を行っているところでございます。御家族の皆様との協議も踏まえながら、関係省庁とも連携しつつ、取組の一層の充実を図ってまいる所存でございます。
○宮本委員 最近でも、学校の先生が全く反対の、間違ったことを伝えるということがあってしまったわけですから、そういうことの反省を踏まえて、しっかり取り組んでいっていただきたいと思います。この間、政府が、法務省なんかも含めてシンポジウムなど啓発活動に取り組まれておりますが、当事者の話を聞きますと、あの劇の「光りの扉を開けて」というのは非常に、何回見てもいいというお話を聞きますが、それ以外のシンポジウムの内容というのはおざなりだという話をよく聞きます。啓発活動の内容も、何か委託業者任せではなくて、当事者の声を聞いてしっかり進めていっていただきたいというように思います。そして、ハンセン病問題基本法の改正案では、療養所における医療及び介護に関する体制の整備及び充実のために必要な措置を講ずるということで、充実という文言が新たに加わりました。この充実という言葉が入った意味をどう受けとめているのか、これは大臣と人事院とにお伺いしたいと思います。
○加藤国務大臣 国立ハンセン病療養所に入所されている皆さんが安心して生活を営んでいただけるよう、これまでも医師、介護員の確保、処遇の改善には努めてきておりますけれども、しかし一方で、医師の確保等が十分に進んでいないという現状、そしてさらには、今後高齢化が進み、介護度がより高まっていく、そうしたことも踏まえて、医療及び介護に関する体制の充実が必要であるというふうに認識をしております。厚労省としても、今般の改正法案の趣旨を踏まえて、国立ハンセン病療養所の医療及び介護に関するさらなる充実に努力していきたいというふうに考えております。
○佐々木政府参考人 お答えいたします。ハンセン病療養所において、高齢化が進んでいる中、入所者の皆様が引き続き安心して豊かな生活を営めるよう、医療及び介護に関する体制の充実が必要であるという御趣旨と認識しております。ハンセン病療養所におきます医師等の人材確保の重要性を踏まえまして、人事院といたしましては、これまでもハンセン病療養所の医師等の給与改善に取り組んできたところでございます。引き続き、所管省であります厚生労働省のお考えを伺いながら、今回の改正法案も踏まえ、必要となる検討を進めてまいりたいと存じます。
○宮本委員 医師の不足は大変深刻であります。医師の確保の問題については、予算の分科会で加藤大臣とは以前議論させていただいたことがございます。そのときに、法務省の矯正医官と同様に兼業を可にできないかという提案もさせていただきまして、今回、法案に盛り込まれました。これまでよりリクルートしやすくなるのは間違いないと思います。同時に、民間病院との給与の差額というのはまだまだ大きなものがありますので、同時並行で、医師確保のためには、やはり処遇の改善を抜本的に進めていかなきゃいけないと思います。その決意について、大臣と人事院にお伺いしたいと思います。
○加藤国務大臣 今委員御指摘のような措置も、今回の法案を踏まえて対応していく。同時に、国立ハンセン病療養所の医師の処遇改善については、今年度より、園長、副園長についてということでありますけれども、俸給の調整額の適用対象となり、年額六十万円程度の処遇改善が図られたというところであります。引き続き、医師の処遇の改善、医師の確保を図っていくためにも必要でありますので、関係省庁ともよく協議をして対応していきたいと考えております。
○佐々木政府参考人 国の医師の給与については、医療職俸給表(一)が適用されました上で、勤務地域にかかわらず一六%の地域手当が特例的に保障されるほか、人材確保の観点から、初任給調整手当が支給されております。さらに、ハンセン病療養所の医師につきましては、職務の特殊性を評価いたしまして、俸給の調整額が支給されているところでございます。医師の給与につきましては、こうした人材確保の観点から、これまでも初任給調整手当の改善を行っております。また、今大臣からもお話ございましたとおり、本年度からは、ハンセン病療養所の所長及び副所長に対しまして、俸給の調整額を新たに支給しております。人事院といたしましては、こうした近年の給与改定の内容を踏まえつつ、厚生労働省のお考えを伺いながら、国立ハンセン病療養所の医師の給与につきまして、必要となる検討を進めてまいりたいと考えております。
○宮本委員 この後採決される法案では充実となりますから、充実につながるような結果を出していただきたいと思います。そして、職員の問題であります。隔離政策で家族を実質的に奪われ、そして断種で子供をつくれなくなった入所者の皆さんにとって、職員は家族のかわりであります。今、三交代勤務の導入が試みられております。職員数をふやさずにやると何が起きるのかというと、日中の人が減るわけですよね。松丘保養園ではこういう話があるというのをお伺いしました。入所者のお風呂を、以前は午前中に入ってもらっていたのが、午前午後、一日かけて入れることになった。入所者の方の生活リズムを変えることになってしまった。さらに、この十一月からはセンターを一つ閉めて集約した。このことによって、盲人の方が新しいセンターに移動したけれども、これまでの間取りとも違うし、広さも違うということでございます。高齢の盲人の方がずっと住みなれた部屋から間取りも広さも違うところに行って新たな生活をせざるを得ないというのは、これは結構大変なことだというのはもう想像にかたくないわけであります。今、大幅な国家公務員の定数削減計画というのが示されているわけですが、現状の職員の状況でも、職員をふやさずに今働き方改革として職員の三交代をやろうとしておりますけれども、こういうことを進めていくと入所者の皆さんの生活に影響が出る実態があるというのは、大臣は認識はございますでしょうか。
○加藤国務大臣 まず、三交代に関しては、これまで当直で対応していたものを三交代に変える。その背景においては、夜間における介護の必要性が高まって、それにしっかりと対応していかなきゃいけないということであります。今、六つの園において三交代が導入されているというふうに承知をしておりまして、そういう中で、今委員の御指摘もありますが、一方で、手当てがしっかりできるようになったという声も聞かせていただいております。具体的に、介護員については、全体の定員事情の中ではありますけれども、増員をさせていただいている。あるいは会議の集約、研修でより効率化を図るということで、できる限り入所者、昼の対応にも十分対応できるようにしているところでありますし、また、実際、三交代を実施するに当たっては、入所者の状況や介護員の夜間の業務内容、あるいは職員の意見などを確認しながら、入所者の方の安心、安全な生活ができるよう、それを第一に考えながら進めさせていただいているところでありますので、引き続き、入所者の皆さん方が昼も夜も安心して過ごしていただけるように努力をしていきたいと思います。
○宮本委員 充実をちゃんと進めていくんだ、医療、介護の体制、そのことについては大臣も言明されているわけであります。ですから、実態としてそれを充実していこうと思ったら、私は、先ほど議論がありましたけれども、ハンセン病療養所については国家公務員の定数削減の対象からは実質的に外していく、そして必要な人はしっかり配置していく、この立場をとることが必要だと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○加藤国務大臣 国立ハンセン病療養所の定員については、委員も御指摘のように、定員合理化の対象ではありますけれども、平成二十六年の八月の統一交渉団との間での合意書、あるいは入所者の療養環境の状況、これらを踏まえてこれまでも決定してまいりましたし、今後も決定していくことが重要だというふうに考えております。
○宮本委員 先ほど本多委員とのやりとりで、機械的に適用することはなくというお話がありましたけれども、それは、実質的には定員削減の対象から除外していくよという意味でよろしいんでしょうか。
○加藤国務大臣 あくまでも定員合理化の対象ではありますが、合意内容を踏まえ、あるいは入所者の療養環境、状況を踏まえ、毎年、統一交渉団と協議を重ねながら、療養所の療養環境をしっかり維持していく、そういう中で対応している、こういうことであります。
○宮本委員 では、こういう聞き方をします。では、実態として、充実という、この後採決されるであろう法律の趣旨を損なわない形で定員はしっかりと確保していく、こういうことでよろしいですね。
○加藤国務大臣 そうした定員の問題も含めて、今回、充実ということの中身が入っているわけですから、そうした定員の問題あるいは施設の問題、そういったことを含めて、しっかりと充実に努めていきたいというように考えております。
○宮本委員 しっかり充実の立場で、定員の問題も当たっていただきたいと思います。そして、この間、各療養所では、少しずつ期間業務職員や賃金職員の方の定員化を進めてまいりました。これが定員削減がやられるとできなくなるんじゃないかという心配の声もあるわけですよね。賃金職員、期間業務職員は、四、五年目ぐらいから正規の定数に入っている職員との賃金差が出てまいります。十八年で給与は頭打ち、日額単価は九千七百円、調整額は八百五十七円。十九年以上勤めている方も、賃金職員の方、昨年の時点で五十二名いらっしゃいます。やはり、こういう賃金の格差というのは、同じ仕事をしているわけですから、職員のチームワークにとってもマイナスですし、入所者の皆さんにとっても、介護でお世話になっているのに、そういう皆さんの処遇が悪いと大変気になるわけです。そして、昨年度一年間でやめられた賃金職員、期間業務職員の数を伺いましたら、五十九人と。もちろん、体調が悪くてやめられる方だとか、結婚で住む場所が変わって退職される方もいるわけですけれども、なれ親しんだ方が処遇の低さから離れざるを得なくなるというのでは、入所者の生活の質にも影響するというふうに思います。ですから、期間業務職員、賃金職員の皆さんはやはり全員定員化を図っていく必要があると思いますし、処遇を改善して正規職員との賃金格差も改善していく必要があると考えますが、その点、いかがでしょうか。
○吉田政府参考人 お答えいたします。国立ハンセン病療養所におきましては、常勤職員に加えまして、賃金職員あるいは期間業務職員という形での非常勤職員につきまして、入所者の介護業務等に従事しておりますので、療養環境の確保のために必要な職員でございます。これまで、常勤職員が退職した後、非常勤の介護職員を常勤職員として採用しておりまして、令和元年度は五十七名を採用いたしました。また、非常勤職員の処遇改善につきましては、令和元年度において日額単価の改善を行いまして、職員一人当たり、これは平均ではございますが、年間五万円程度の処遇改善を図ったところでございます。今後も、定員あるいは予算の範囲内で、常勤職員としての採用や処遇改善に努めてまいりたいと考えております。
○宮本委員 しっかり進めていっていただきたいと思います。そして、医療、介護の体制の充実を図るためには医師と職員をどう確保していくのか、この問題を考えた場合には、もう一点大事なことは、職員の皆さんから伺っているのは、やはり将来の展望という話でございます。入所者の平均年齢は八十代後半であります。国として最後の一人まで責任を持つということははっきりしているわけですが、療養所で働いている職員の中でも、将来が見えないという不安があるというお話を伺います。そして、この間、新入職員確保のために一生懸命頑張っていた職員の方でも、先が見えない中で知り合いを誘いづらい、こういう話も出てきているわけであります。そして、お医者さんが他の病院を蹴ってまで療養所に行く上でも、やはり将来の見通しというのも大変大事だと思います。給与などの待遇をよくするというのは当然前提なわけですけれども、やはり、将来も国が責任を持つから思う存分療養所で働いていただきたい、こういう姿勢をしっかり国が示していく必要があるんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
○加藤国務大臣 その前提として、まず、ハンセン病療養所のあり方というのが問われるわけでありますけれども、これについては、ハンセン病問題の解決の促進に関する法律第十条において、国は、入所者の意思に反して、現に入所している国立ハンセン病療養所から当該入所者を退所させ、又は転所させてはならないとされておりますし、平成二十三年度また平成三十年度においても、統一交渉団と国の交渉の場で確認をされているわけであります。こうした方針のもとで、これからも療養所の職員が安心して勤務をしていただける、そして入所者が将来にわたって安心して生活ができるよう、入所者の療養環境の整備にしっかりと取り組んでいきたいというように考えています。
○宮本委員 若い職員の皆さんにも将来展望をしっかり示せるようにしていっていただきたいと思います。時間になってしまいましたので、最後に一問、介護員の手当の引上げも必要じゃないかというお話をしたかったんですけれども、時間になりましたので、その点は要望にとどめさせていただいて、終わります。ありがとうございました。