2020年4月17日 厚生労働委員会 年金受け取り75歳繰り延べも低水準

 公的年金の受け取り開始を75歳まで繰り延べ可能とすることなどを盛りこんだ年金制度改定法案の審議が、17日の衆院厚生労働委員会で始まりました。政府は“75歳まで繰り延べると月々の受給額が8割余り増える”とけん伝していますが、厚労省の高橋俊之年金局長は、「マクロ経済スライド」を発動し続ければ、“8割増”しても現在の水準より低くなることを認めました。日本共産党の宮本徹議員への答弁。
 受け取り開始は現行、「60~70歳まで」で選択でき、65歳より遅らせると年金額が増えます。政府は、75歳まで遅らせると月額が84%増えると説明。遅らせて働き続けることを推奨しようとしています。
 宮本氏は「マクロ経済スライドのもとでは、将来世代ほど受給開始時点から年金額は実質減り、基礎年金(国民年金)の所得代替率は今より約3割減る」と指摘。「現在70歳まで繰り延べた場合の支給水準と、マクロ経済スライドによる調整終了後、75歳まで繰り延べた場合の水準はどちらが高いか」とただしました。
 厚労省の高橋俊之年金局長は、調整終了後75歳まで繰り延べた方が「所得代替率は低くなる」と認めました。
 宮本氏は、生活できる水準の年金をめざして75歳まで働いても、それだけの年金は得られないことになると強調。「基礎年金部分ほど削減幅の大きいマクロ経済スライドを続けるには無理がある。国民年金と厚生年金の財政統合を検討するべきだ」と主張しました。

以上2020年4月19日付赤旗日刊紙より抜粋

≪第201回2020年4月17日衆院厚生労働委員会第9号 議事録≫

○盛山委員長 次に、宮本徹君。
○宮本委員 日本共産党の宮本徹です。法案について質問します。今度の法案は、これまで七十歳だった年金の受給開始時期の選択肢を七十五歳開始まで広げるということです。本会議では、高齢者が意欲を持って働ける環境整備なんだ、こういう説明がありました。本当にそうなのかな。年金がふえたら、年金にかかる税金や社会保険料も当然ふえるわけですよね。ちょっと計算を出してほしいんですけれども、例えば、単身者で、六十五歳から八十五歳まで月十五万円の年金をもらう場合と、七十五歳から八十五歳まで、その一八四%の月二十七万六千円の年金をもらう場合で、もし仮に年金所得のみの場合、それぞれ、年金にかかる所得税、住民税の負担はどれぐらいで、負担総額はどれぐらいふえるんでしょうか。
○高橋政府参考人 年金額にかかります所得税、住民税の計算でございますが、御指摘の要件で機械的に単純に計算を申し上げますと、例えば、六十五歳から月額十五万円の年金額を受給する場合には、所得税、住民税の月額は所定の要件で約千八百円程度でございます。年金を七十五歳に繰り下げて八四%増額して月額二十七万六千円の年金額を受給する場合には、所得税、住民税の月額は約一万九千円程度となるものでございます。また、八十五歳まで総額で幾らになるのかというお尋ねでございます。六十五歳の平均余命は二十一・八歳でございますし、また、もっと長生きされる方も多数おられますので、八十五歳までの総額で比較するということは適切ではないと考えてございますけれども、お求めでございますので計算を行いますと、六十五歳から八十五歳までの二十年間、十五万円の年金を受給すると、総額で三千六百万円、所得税、住民税の総額は四十二万円、一方、七十五歳から八十五歳までの十年間、月額二十七万六千円の年金額を受給すると、総額が三千三百万円、所得税、住民税の総額は二百二十五万円となります。これは単純に比較すべきものではございませんで、どのくらい長生きするかわからない中で、増額した年金を終身で受け取るということが保険としての意味が大きい、そういった点がこの繰下げの時期の選択肢の拡大といった趣旨であることを御理解いただきたいと思います。
○宮本委員 ちょっと早口だったんですけれども、つまり、六十五歳から八十五歳までもらったら、かかる税金はその二十年間で四十二万円だ、同じ年金を繰り下げて七十五歳から八十五歳まで受け取ったら、かかる税金は二百二十五万円だと。百八十万円ぐらい、年金にかかる税金だけでもふえる。さっき、平均二十一・八歳ですか、もらうのは。もしこれを、六十五歳から八十五じゃなくて、六十五歳から八十七でとったら、その差はもっと大きくなるわけですよね。年金だけにかかる税金ということで見れば、二百数十万、実際は繰延べした方が多くなるということになるわけですよね。延びれば延びるほど、長生きすればするほど、当然、かかる税金もどんどんどんどん、もっとたくさん払っていくということになるわけですよね。ですから、ちょうどバランスがとれる同じ金額になるところまで年金を受給したとしても、実際の手取りは減る。税金、所得税、住民税だけでもそれだけかかるわけですよ。これに介護保険料や国民健康保険税というものも含めたら、年金から引かれるものはもっと多くなるということになるわけですよね。ですから、高齢者が意欲を持って働ける環境整備だと言いますけれども、引かれるものは物すごく桁違いにふえるということですよね。もう一点お伺いしたいんですけれども、今七十歳まで年金支給の繰下げを選んでいる方は、どういう理由からこれを選んでいるのか。主な理由を教えていただけますか。
○高橋政府参考人 年金局で行いました年金制度に関する総合調査というのがございまして、公的年金を六十五歳よりも後から受け取りたい理由、又は実際に受け取った理由につきましての質問を行いましたところ、生きている限り受け取ることができる年金の額が高い方が安心できるからというのを選んだ方が四一%、六十五歳以降も働くつもりだからを選んだ方が三七%、また、配偶者などの収入や自分の貯金などがあるからが六・六%、自分は長生きすると思うからが五・七%ということでございます。
○宮本委員 つまり、貯金があって余裕があるからということじゃなくて、将来の安心のために選んでいる方が一番多い、四一%という話です。私の知り合いなんかでも、離婚して蓄えも少ない、年金も少ない、体が動くまで働かないと将来が見通せない、そういう方で、年金を我慢して七十歳まで頑張って働く、あるいは七十歳を過ぎても働く、こういう方は結構たくさんいるんですよね。ですから、結局、年金が不十分だから繰延べして働かなきゃいけないという方がかなりいらっしゃるということだと思うんですよね。今マクロ経済スライドをやっているわけですけれども、これから先どんどんどんどん年金を減額していくということになったら、今は七十歳まで繰延べというのは一%ちょっとということになっていますけれども、年金がどんどんどんどん減れば、やはり、将来の安心のためには、将来自分が生活していける年金を確保しようと思ったら、もっと頑張って働かなきゃいけないという方がどんどんふえていくということなんじゃないかなと思います。もう一点お伺いしたいんですけれども、今、七十歳まで繰り下げれば年金は一四二%になります、七十五歳まで繰り下げれば一八四%です、こういう説明があるわけですけれども、マクロ経済スライドの仕組みでは、将来世代ほどスタート時点から年金は実質減るわけですよね。所得代替率でいえば、基礎年金は今よりも三割減るということであります。すると、ちょっとこれはお伺いしたいんですけれども、基礎年金でいえば、今現在七十歳まで繰り下げて支給される年金と、あるいは、マクロ経済スライドで、ずっと先ですよ、全部調整が終わった後にその方が七十五歳まで繰り下げて受給した場合の年金、この水準を比べたらどっちが高くなるんですか。
○高橋政府参考人 マクロ経済スライドは、賃金や物価の伸びの範囲内で年金の伸びを抑えるというもので、年金額が減るわけではございません。その上で、将来の年金水準を見通す上で、現役の賃金との比較である所得代替率と、年金受給者の購買力を示す、物価上昇分を割り戻した実質価格、この双方を見ているわけでございますけれども、実質価格で見ますと、マクロ経済スライド調整期間の終了によりましては、おおむね横ばい、例えば、二〇一九年の基礎年金額六・五万円が二〇四七年度に六・二万円になる、こういった試算でございます。これに繰下げを組み合わせますとということでございますが、今の六・五万円の一・四二倍よりも、将来のマクロ経済スライド調整後の六・二万円の一・八四倍、七十五歳まで繰り下げた一・八四倍の方が当然明らかに大きいわけでございます。
○宮本委員 じゃ、購買力の方で見たらどうですか。
○高橋政府参考人 今申し上げたのが、物価上昇で割り戻した、購買力であらわす実質価格での比較でございまして、六・五万円、将来六・二万円というのがそのものでございます。
○宮本委員 所得代替率で見たらどうですか。
○高橋政府参考人 所得代替率は現役との比較でございますので、年金額が減るか、どちらが大きいかということでいきますと、実感に合うのは、物価上昇率で割り戻した、購買力である実質価格での比較が正しいかと思います。
○宮本委員 いや、そういうことを聞いているんじゃなくて、所得代替率で見たらどういうふうになるんですか。七十五歳まで繰り延べた場合、マクロ経済スライドが全部調整し終わった後、七十五歳まで繰り延べた場合の所得代替率と、現在の七十歳まで繰り延べた場合の所得代替率は、どちらが大きいですか。
○高橋政府参考人 所得代替率で申すと、将来は所得代替率が低下していくものでございますから、それで増額した場合の所得代替率は低くなるというものでございます。
○宮本委員 ですから、今の年金のもとで七十歳でもらう所得代替率よりも、将来、マクロ経済スライド調整後、七十五歳でもらう所得代替率の方が低い、そういうことでよろしいですか。
○高橋政府参考人 代替率ベースでの比較ではそのとおりでございます。
○宮本委員 つまり、所得代替率ベースで見ると、結局、マクロ経済スライドでどんどん年金を目減りさせていくということは、今の年金制度のもとで七十歳まで頑張ろうと思った人は、七十五歳まで頑張らなきゃというか、七十五歳まで頑張ってもそういう所得代替率の年金は得られないということになってしまうわけでありますよ。そういう中でどうするのかということが問われていると思うんですね。初めに桝屋議員との議論の中で、大臣も、今のままの基礎年金の削減のやり方でいいとは思わないというニュアンスに、そうじゃなかったですか、そういうニュアンスで私は大臣の答弁を聞いていたんですけれども。基礎年金の方ばかり大きく減らしていくと、報酬比例部分ではなくて基礎年金の方ばかりどんどんどんどん減額が続くと、やはりこの仕組みを続けていくということには大変無理があると思うんです。これは秋も議論させていただきましたけれども、私は、厚生年金と国民年金の財政統合をやっていくということが必要だと思っております。それで、きょうは厚労省の認識もお伺いしたいんですけれども、国民年金と厚生年金の財政統合を行った場合、私は大半のケースでモデル世帯でも単身者でも現状より年金給付はふえるというふうに思っていますが、減る世帯も若干あると思っているんですけれども、これはどういう世帯でどれぐらい減るという見込みでしょうか。
○高橋政府参考人 今御指摘いただいた、国民年金と厚生年金の財政統合をしたらどうなるかということでございますけれども、国民年金と厚生年金は保険料や給付の設計が全く異なってございますので、現在の仕組みを変更して財政統合を行うということにつきましてはさまざまな御意見があると承知しております。先般の財政検証の結果におきまして、当面は厚生年金、基礎年金双方にマクロ経済スライドが同時にかかっていく、また、マクロ経済スライド調整は時間をかけて徐々に給付水準を調整するという仕組みでございますので、今すぐ、直ちに指摘されるような財政統合を検討しなければいけない状態になっているということではないと考えてございます。したがいまして、御指摘いただいたような試算は現在行っていないところでございまして、試算を行うためには、さまざまな制度の考え方や具体的な仕組みを整理してからでないと行えないと考えてございまして、容易に行えるものではないと考えてございます。
○宮本委員 試算ぐらい、こっそりやっているんじゃないですか。だって、この間、新聞報道では、いろいろいろいろ、五年後に向けて検討課題だみたいなことが何回か報道でも出て、観測気球を上げているじゃないですか。何かやっているのかなと思うんですけれども。私たちもちょっと試算をしてみました。そんなに力があるわけでもないのでケース一しかしていないですけれども、単身者の平均月収を五万円刻みで試算したら、標準報酬月額の上限に近い人以外は、財政統合した場合は現状より年金給付はふえます。ただ、上限に近い人より上は若干減りますけれども、ケース一でいえば一%程度かなというのが私たちの試算なんですね。やはり、本当に、所得再分配をどう進めて低所得者の皆さんの基礎年金の水準が減っていくのを避けていくのかということを考えた場合に、私は財政統合は大変有力だと思いますので、ちょっと、至急、試算していないということじゃなくて、試算をするように、大臣、いろいろな学者の皆さんもいらっしゃいますし、力をかりて検討していただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。
○加藤国務大臣 私が先ほど申し上げたのは、削減の仕方、要するにマクロ経済スライド調整が問題だと言ったわけではなくて、そうした中で、基礎年金部分と報酬比例部分が二〇〇九年の財政検証からぐっと離れてきている、この状況をどう考えるか。ただ、その後について、最近においては、御承知のように、年金の調整の仕組みが変わりましたから、今以上に差が開くということはかなり解消されている。これは先ほど桝屋委員に答弁をさせていただいたということでありますので、そういうことを先ほど申し上げさせていただいた。それから、今お話があった統合するかしないか、これはいろいろな議論があると思いますが、ただ、どういうふうに統合するかという仕組みをつくらないと、それを抜きにして試算をするというのは不可能でありますので、まずは、これに対する、統合するかどうかも含め、幅広く、基礎年金というものをどう捉えるのか、こういった議論をしていくということが必要なんだろうと思います。
○宮本委員 ぜひいろいろな制度設計を考えていただいて、私たちとしてもいろいろな試算を示していきたいと思いますので、引き続き議論していきたいと思います。きょうは終わります。