2021年4月8日 衆院本会議 受診抑制招く医療費2倍化 衆院審議入り

 一定所得以上の75歳以上の窓口負担を2倍にする「高齢者医療費2倍化法案」(健康保険法等改正案)が8日の衆院本会議で審議入りしました。日本共産党の宮本徹議員が質疑に立ち、「受診抑制が起き、国民皆保険制度が空洞化していく」と批判しました。
 宮本氏は、1割負担の現状でも現役世代より高齢者の負担は重く、2割負担の導入で受診抑制が起きると指摘。政府の推計では2倍化で1880億円の給付が削減されるとしており、そのうち受診行動の変化による削減額はいくらか質問しました。
 菅義偉首相は「受診行動の変化による減少は900億円と試算しているが、直ちに患者の健康への影響を意味するものではない」と強弁。負担が10万円以上増える高齢者が5千人に上ることを明らかにしました。
 宮本氏は、同法案で負担が減るのは国・自治体が980億円で最も多く、事業主は360億円だと指摘。現役世代の負担軽減は1人あたり年350円にすぎず、「総理は『自助』というが、国と事業主の負担軽減こそ本当の狙いではないか」と強調しました。菅首相は「多くの方に能力に応じた負担をしてもらい、制度の持続可能性が高まる」と答弁しました。
 また宮本氏は、負担増の対象となる人の年収は政令で定めており、「法改正を経ず、政権の判断で2割負担の範囲が拡大できる」と批判。医療費増加に対し、金融所得課税など課税強化で財源をつくるべきだと主張しました。
 宮本氏は、同法案は国民健康保険料(税)の値上げの圧力を市町村に加えるものだと指摘。国保に加入する自営業者やフリーランス、非正規雇用の労働者はコロナ禍で厳しい生活状況に置かれているとして、「こんな時に国保料の値上げへ圧力をかける法案など認められない」と強調。国保料引き上げではなく、公費を投入し、協会けんぽ並みに引き下げるよう求めました。

以上2021年4月9日付赤旗日刊紙より抜粋

≪2021年4月8日 第204回衆院本会議第19号 議事録≫

○副議長(赤松広隆君) 宮本徹君。
〔宮本徹君登壇〕
○宮本徹君 私は、日本共産党を代表して、健康保険法等の改正案について質問いたします。(拍手)本法案の最大の問題は、一定所得以上の七十五歳以上の高齢者の窓口負担を一割から二割、二倍にすることであります。年を重ねれば病気にかかりやすくなり、病院にかかることも増えます。一割負担の現状でも、三割負担の現役世代よりもはるかに高齢者の医療費の負担は重くなっております。年収比で見れば、四十代と比べ、八十五歳以上は何倍の医療費の自己負担をしていますか。総理は、多くの高齢者が切り詰めて暮らし、医療費負担に苦労しているという認識はお持ちでしょうか。政府の試算によると、負担増は平均三・四万円にも上ります。病気が多く、治療が長引くほど負担は増えます。二割負担導入で年十万円以上負担が増える方は、何人ぐらい見込まれるんでしょうか。自民党、公明党の合意で、二割負担の対象は、単身世帯でいえば年収二百万円以上からスタートします。なぜ二百万円から二割負担なのか。田村厚労大臣は、収入と支出を見ると十二万円余裕があると答弁しました。総理も、年収二百万円の高齢者の暮らしには、余裕があるとの認識なのでしょうか。そもそも、十二万円の収支差は、倹約生活が生み出したものであります。二割負担の導入で、受診抑制が起きるのではありませんか。七十五歳以上の窓口負担の二割導入で一千八百八十億円の給付費が減ると政府は推計しておりますが、そのうち、受診行動の変化によるものは幾らですか。窓口負担の増大が原因で受診を我慢するということになれば、国民皆保険制度が空洞化していくのではありませんか。総理は、現役世代の負担の軽減のためだと言います。しかし、現役世代も、いずれは高齢者になります。人生トータルで見れば、現役世代の方も本法案で負担は増えるのではありませんか。現役世代のためというまやかしはやめるべきであります。今回の改正案で負担が減るのは、国、自治体が九百八十億円で最も多く、事業主は三百六十億円です。一方、現役世代の本人の保険料の負担軽減は、一人当たり年三百五十円です。菅総理は、まずは自助と言いますが、国と事業主の負担軽減こそが本法案の本当の狙いなのではありませんか。さらに、本法案は、二割負担の対象について、所得金額を具体的に明記せずに、「所得の額が政令で定める額以上である場合」としております。つまり、本法案が成立すれば、法改正を経ずに、時の政権の判断で二割負担の範囲を広げることが可能であります。政令によっては、限られたごく一部の低所得者及び現役世代並み所得とされる方を除いて、原則二割負担にもできることになるんじゃないですか。自民党は、当初、年収百七十万円以上を二割負担の対象にすると主張していました。将来にわたって、二割負担の対象を拡大しないとこの場でお約束できますか。総理、増える医療費の負担を求める先は、年収二百万円の高齢者ではありません。現役世代の負担軽減というのであれば、減らし続けた国庫負担の比率を元に戻すべきです。今、アメリカでもイギリスでも、行き過ぎた法人税減税を是正しようとしています。富裕層課税の動きも生まれています。金融所得課税が低い日本でこそ、イの一番に、課税強化で財源をつくるべきではありませんか。保険料についても、後期高齢者医療制度への支援金に関わるところだけでも保険料の上限を引き上げればいいのではありませんか。本法案のもう一つの大問題は、都道府県国民健康保険運営方針に、都道府県内の市町村の保険料の水準の平準化や法定外繰入れ解消について定めることを求めている点です。自治体が行っている一般会計から国保会計への法定外繰入れをやめれば、これまで市民に寄り添ってきた自治体ほど、国保料は大きく値上げとなります。法定外繰入れを行っている自治体数とその総額、及び法定外繰入れをやめた場合、一人当たりどれだけ保険料が上がるのか、お答えください。今でも国保が健保組合、協会けんぽと比べても保険料が余りにも高過ぎるという認識を総理はお持ちでしょうか。国民健康保険料の滞納世帯は何世帯で、加入者に占める比率はどうなっていますか。税、保険料の過酷な滞納処分は、これまで、自殺や廃業に追い込まれる方も生み出してきました。総理、やるべきは、国保料の引上げではなく、国の責任で公費を投入し、せめて協会けんぽ並みに引き下げることなのではありませんか。コロナ禍の下で、国保に加入する自営業者、フリーランス、非正規雇用の労働者の皆さんは、とりわけ厳しい生活状況に置かれている方が多くいます。当初の国保料値上げ計画を見送った自治体も少なくありません。こんなときに、国保料の更なる値上げへ国が圧力をかける法案など、断じて認めるわけにはいきません。我が党は、国民健康保険料の子供の均等割について、負担能力に関係なく、人数に応じて負担が増えるのは、子育て支援に逆行すると廃止を求めてまいりました。今回、ようやく未就学児について、均等割を減額し、減額相当額を公費で支援する制度が創設されます。しかし、なぜ未就学児までなのか、なぜ廃止でなく五割軽減なのか。子供の均等割は十八歳まで全て廃止し、本気の子育て支援をすべきであります。以上、指摘し、質問を終わります。御清聴ありがとうございました。(拍手)
〔内閣総理大臣菅義偉君登壇〕
○内閣総理大臣(菅義偉君) 宮本徹議員にお答えをいたします。高齢者の医療費や生活実態についてお尋ねがありました。御指摘の年収に占める窓口負担額の割合について、平均的な年収や窓口負担のみを用いて機械的に計算しますと、四十代では一・一%、八十五歳以上はその五・五倍に相当する五・九%になります。なお、これらの比較は、今回の見直しの対象とならない、一定収入以下の方も含まれたものであります。また、医療の一人当たり国庫負担を見ますと、六十四歳以下では二万七千円ですが、七十五歳以上では三十二万八千円と、六十四歳以下の約十二倍となっております。また、家計の状況により医療費負担が大変な世帯もあると認識しておりますが、今回の見直しは一定の収入以上の方々に対して行うものであり、必要な受診が抑制されないよう、経過措置も設けることとしております。この見直しによって負担が年十万円以上増える方は、見直しの対象となる三百七十万人のうち、〇・一四%に当たる約五千人程度と見込まれます。二割負担の対象となる高齢者の生活実態と受診行動の変化についてお尋ねがありました。今回の窓口負担の見直しについては、後期高齢者のうち所得上位三〇%に相当する課税所得以上であること、四十年間、平均的な収入で厚生年金を納めてきた方の年金額を超える水準であることなど、高齢者の負担能力や家計への影響も考慮した上で決定をしたものであります。また、必要な受診が抑制されないよう、経過措置を設けるほか、施行時期も令和四年度後半を予定しております。御指摘の令和四年度満年度の給付費減のうち、受診行動の変化による減少は九百億円と試算しておりますが、このことが直ちに患者の健康への影響を意味するものではないと考えます。窓口負担の見直しの目的についてお尋ねがありました。今般の法案は、若者と高齢者で支え合い、若い世代の負担上昇を抑えるという長年の課題に対応するために、七十五歳以上の高齢者のうち、一定の収入以上の方々についてのみ、その窓口負担を二割とするものです。この結果、若い世代の保険料負担は七百二十億円減少するものと承知しております。また、少しでも多くの方に能力に応じた負担をしていただくことで、制度の持続可能性が高まると考えており、このことは、ひいては、高齢者となり制度に加入することとなる若者世代にとってのメリットにもつながるものと考えます。窓口負担の見直しの政令委任についてお尋ねがありました。窓口負担の基準については、従来から、法律には負担割合など基本事項を規定した上で、金額等の具体的な基準は政令で定めるのが一般的法形式となっており、今回の改正法案における負担の見直しについても同様の取扱いをいたしております。また、二割負担の範囲については、今回の見直しにまずはしっかりと取り組むことが重要であり、現時点で更に対象者を拡大することは考えておりません。なお、政令を改正する際には、社会保障審議会を始め、関係者との丁寧な議論を行うこととしております。後期高齢者医療制度の財源についてお尋ねがありました。高齢者の給付費に対する国庫負担について、各保険者からの拠出金に対する国庫負担は、後期高齢者支援金への総報酬割の導入時に伴い、これまで減少しておりますが、その際には、例えば国民健康保険への財政支援の拡充や財政力が弱い健康保険組合への支援を併せて拡大するなど、必要な支援を行ってきたところであります。金融所得課税については、平成二十六年に見直しを行ったところであり、更なる見直しについては、経済社会情勢の変化を丁寧に見極めた上で検討していくべき課題であります。保険料の賦課限度額は、保険である以上、受益と負担が著しく乖離することは納付意欲の低下を招くために、保険料納付の上限として設けているものです。その見直しを行う場合には、関係者と十分に議論して検討すべき、重い課題だと認識をしております。国民健康保険の法定外繰入れ等についてお尋ねがありました。令和元年度で、三百十八市町村、約千九十六億円の法定外繰入れが行われたと承知しています。また、滞納世帯数は令和二年六月時点で二百三十三万世帯、加入世帯に占める割合は一三・三%と承知しております。なお、市町村ごとに保険料が設定されており、法定外繰入れ等を解消した場合の保険料への影響額をお答えすることは困難であります。また、国民健康保険については、高齢化の進行に加え、無職者など低所得の加入者が多いといった課題もあり、保険料負担が相対的に重くなっていると承知しています。このため、所得の低い方に対し保険料軽減措置を講じ、年間約三千四百億円の財政支援の拡充を行うなど、公費を他の制度より手厚く投入しており、引き続き、制度の安定的な運営に努めてまいります。国民健康保険の保険料についてお尋ねがありました。国民健康保険の健全な財政運営のためには、保険料を適切に設定し、受益と負担の均衡を図る必要があり、法定外繰入れ等の計画的な解消を行う必要があると考えております。このため、今般の改正法案では、都道府県と市町村が一体となってこうした取組を推進する観点から、国保運営方針に、必要な措置を定めるよう努力義務を課することにしたものであります。国民健康保険の子供の均等割保険料についてお尋ねがありました。国民健康保険制度では、全ての世帯員がひとしく保険給付を受ける権利があるため、世帯の人数に応じた応分の保険料を負担いただくことが基本であります。その上で、今般の改正法案では、子育て世帯の経済的負担軽減の観点から、未就学児の医療費の窓口負担割合が二割とされていることや、所得の低い方にも一定割合の負担をいただいていること等も考慮して、未就学児の均等割保険料を半額に軽減することとしているものであります。(拍手)