2022年3月11日 衆院厚生労働委員会 国庫負担本則に戻せ

提出資料 出典:厚生労働省
提出資料 出典:第173回労働政策審議会職業安定部会資料
提出資料 出典:第201国会閣法第12号 附帯決議
提出資料 出典:毎日新聞「政治プレミア」2020年7月2日
提出資料 出典:厚生労働省
提出資料 出典:OECD
提出資料 
提出資料 出典:財政制度審議会「令和4年度予算の編成等に関する建議」2021年12月3日

 宮本徹議員は11日の衆院厚生労働委員会で、雇用保険法改正案の最大の問題は「国庫負担の原則を40分の1へ引き下げ、失業者の生活安定への国の責任を逃れる点にある」と批判し、同案の撤回を求めました。
 宮本氏は、コロナ禍のもとでの生活保障のために雇用調整助成金の上限が引き上げられたと指摘し、「2003年の失業給付の改悪で、手当の日額上限は1万608円から8265円に下がった。生活保障の水準として不十分ではないか」とただしました。
 後藤茂之厚労相は「失業中の労働者の生活保障のみではなく、早期就職の促進を目的として行うものだ」と答弁。宮本氏は「生活を保障し、安心して職探しができるのが、失業給付の最大の目的だ」と強調しました。
 宮本氏は「国庫負担を本則の4分の1に戻せば、失業者と家族の生活を支えることができる」と指摘し、4分の1に戻すと基本手当がどれだけ増額できるかと質問しました。厚労省の田中誠二職業安定局長は「1人あたり1カ月3万5千円だ」と答弁。宮本氏は「給付水準が手厚いほど再就職後の勤続年数が長いとの研究もある。低いと不本意な就職先を選ばざるを得なくなるからだ。法案は向かうべき方向が全く反対だ」と批判しました。

以上2022年3月17日付赤旗日刊紙より抜粋

≪2022年3月11日 第208回衆院厚生労働委員会第5号 議事録≫

○橋本委員長 次に、宮本徹君。
○宮本(徹)委員 日本共産党の宮本徹です。まず、職安法について、一点お伺いします。見かけの賃金額を高く見せる固定残業代が横行しております。求人サイトでも、基本賃金額は残業代等を除いた所定労働時間に相当する賃金額の表示を義務づけるべきだと考えますが、いかがですか。
○後藤国務大臣 現在でも、職業安定法に基づく指針において、労働条件を明示するに当たっては、賃金形態や基本給、手当に関する事項について明示するとともに、いわゆる固定残業代を採用する場合は、固定残業代算定のための基礎となる労働時間や、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業代の対象となる労働時間を超える時間労働に対して割増し賃金を追加で支払う旨等について明示することとされております。労働条件の明示を行う前の募集情報についても、今般の法改正により、募集情報等の虚偽の表示や誤解を生じさせる表示を禁止しているところでございまして、法案成立後に、どのような表示が誤解を生じさせる表示に該当するのかお示ししていく中で、しっかりと取り組んでまいりたいと思います。
○宮本(徹)委員 よろしくお願いいたします。次に、雇用保険法についてお伺いいたします。今回の法案の最大の問題は、国庫負担の原則を四十分の一へ引き下げ、失業者の生活安定への国の責任を逃れようとしている点にあります。雇用保険部会でも、労使双方から納得できないという意見が噴出しておりました。資料の二ページ目を見ていただきたいと思います。雇用保険部会長が本法案について一月十三日に出した意見です。本部会として、雇用保険財政の在り方に関する今後の検討に際し、以下のとおり公労使一致の意見を付すと。財政を含めた雇用保険制度全体の在り方について、拙速に議論を進めることは避け、雇用保険制度の当事者たる公労使が一致して納得のいく結論を出せるよう、厚労省は必要な資料を時間的余裕を持って提示し、改正案の内容について明確かつ合理的な説明を行うなど、丁寧な会議運営を行うべきであると。裏を返せば、今回のやり方へのふんまんやる方ない思いがこもっているというふうに私は思いましたよ。こうした意見がつくのは、大臣、前代未聞じゃないですか。
○後藤国務大臣 過去二十年について確認しましたところ、丁寧な会議運営に関する御意見が付された例はないものと承知しております。
○宮本(徹)委員 前代未聞なわけですよね。本当に乱暴な会議運営で、結論ありきで押し切ったというのが今回の件だったわけでございます。労使参加で政策を決める労政審を形骸化させるもので、極めて重大なやり方だったと思いますよ。加えて、資料の三ページ目につけましたけれども、国会の附帯決議です。国会との関係でも本当に問題があると思いますよ。この附帯決議の中でも、前回、二年前ですけれども、時限的な国庫負担率の引下げの継続ですね、四十分の一は、令和三年度までの二年度間に厳に限った措置とするというふうにしていたわけでございます。ということは、もう次は引き上げる、四十分の一はもう続けないというのが、これは後藤大臣も賛成された附帯決議だったんじゃないんですか。覚えていますよね。国会附帯決議違反じゃないですか。
○後藤国務大臣 今回、全体として、こうして新しい四分の一、四十分の一、そして、機動的な国庫繰入れという形で新しい雇用保険の財政の議論をお示ししたところでございます。
○宮本(徹)委員 誰がどう見ても、これは本当に附帯決議違反で、何のために附帯決議を上げたのかという事態だと私は言わなければならないと思います。その上で、今日議論したいのは、失業給付の水準の問題でございます。コロナ禍の中で、国はもっと失業者の生活支援に責任を果たす必要があるということが私は浮き彫りになったと思います。資料の四ページ目に、自民党の高鳥修一元厚労政務官のインタビュー記事を載せておきました。政治的スタンスは私はかなり違うところが多いわけでございますけれども、この中では、失業給付の増額を、困っている人を助けるのが政治の使命だということをおっしゃっています。雇調金は日額上限を引き上げたのに、失業給付は低いままだ、給付率も改善すべきだと。この点では大変賛同できる意見を述べていらっしゃいます。大臣にお伺いしますけれども、コロナ禍で、雇調金の助成率と日額上限が大きく引き上げられました。この背景には、従来の雇調金の水準では生活保障に欠ける、こういう国民の声があったからではないのか。そして、日額上限を引き上げたことでどのような効果があったのか。この点、大臣の認識をお伺いしたいと思います。
○後藤国務大臣 雇用調整助成金の原則的な日額上限は、雇用保険の基本手当日額の上限額に基づき定めております。雇用調整助成金の助成率と日額上限の特例的な引上げは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、全国規模で急激な経済活動の低下が生じ、雇用環境が悪化する中で、休業手当を支払って雇用を維持する事業主の負担を軽減することにより、休業を余儀なくされた労働者の雇用の維持と生活の安定を図るため、実施してきたものでございます。日額上限引上げの効果でございますけれども、令和三年版労働経済白書で推計を行っておりまして、これによると、一定の仮定の下ではあるものの、二〇二〇年四月から十月の完全失業率が二・六%ポイント程度抑制されたと分析されております。
○宮本(徹)委員 失業に陥らせないという効果もありましたし、何よりも、生活の安定を図るためには引き上げるしかないんだと。これは本当に与野党一致した意見で、雇調金の上限は引き上がっていったわけでございます。そうすると、じゃ、問われるのは失業給付の方だと思うんですよね。資料の五ページ目につけました。これは、失業給付の基本手当日額の推移でございますが、二〇〇三年に大改悪が行われて、手当の日額上限は一万六百八円から、今は八千二百六十五円に下がっています。このときに、給付率も六〇%から五〇%に引き下げられました。その結果、一日平均受給額は、二〇二〇年度は二〇〇二年度に比べて八百八十円下がっている。月にすれば、一人当たり二万六千円失業給付が下がっているということになります。全労連の皆さんがハローワーク前アンケートに取り組んでいるものを拝見いたしましたが、とにかくもう給付額が少な過ぎて、生活や支払いがつらい、健康保険料、年金、住民税を払う余裕がない、厳しいんだ、こういう声があふれておりました。大臣、今の失業給付というのは、生活保障、生活安定の水準としては不十分なんじゃないですか。
○後藤国務大臣 労働者が失業した際に支給される基本手当については、失業中の労働者の生活保障のみを目的としたものではなく、その早期の就職を促進することを目的として行うものでございます。したがって、基本手当の水準は、労働市場における再就職賃金の水準とバランスの取れた給付水準に設定される必要があるとともに、失業者個人の再就職活動に要する期間を勘案して設定する必要があると考えます。こうした考え方を踏まえまして、基本手当の給付水準は離職前賃金の五〇から八〇%としつつ、年齢、離職理由など、再就職の困難度に応じた所定給付日数分を支給することとしておりまして、制度の趣旨も踏まえたものと考えております。
○宮本(徹)委員 生活保障のみを目的にしたものじゃないとおっしゃいますけれども、やはり生活保障が最大の目的なわけじゃないですか。安心して就職活動ができる、職探しができるようにしようというのが失業給付の最大の私は目的だと思います。資料の六ページ目を見ていただきたいと思いますが、これはOECDが発表している比較でございます。仕事に就いていたときの所得に対する失業者への給付水準は、OECD平均は五三%、日本は四八%。日本より低い国もありますけれども、日本はOECD平均以下ということになっているわけです。恐らく与党の多くの皆さんも、このコロナ禍の中で、住宅ローンや子供の教育費や生活費や、失業者の皆さんが本当に困っているという話を聞いていらっしゃったんじゃないかというふうに思います。私は、本当に今の失業給付の水準で妥当なのかというのは、今回のコロナ禍の多くの皆さんの悲鳴の声を踏まえて、いま一度考える必要があると思うんですよね、実態調査も含めて。そういう考えは、大臣、ございませんか。
○田中政府参考人 先ほど大臣からお答えしたとおり、失業給付については、生活の保障とそれから再就職をしっかり促していくという機能がございます。そういう観点から、再就職後の賃金とそれから失業給付の比較において、就職をちゅうちょするような高いレベルになりますと、失業期間が長期化するというような弊害もございます。雇用保険の制度設計においては、そういった様々な面があることを慎重に考えながら、現在の水準を定めております。今回の改正におきましても、その点について、基本手当の内容についてどうすべきかということを労政審で議論をしました。その結果、現段階においては、様々な暫定措置は据え置きつつ現状を維持するという結論になったところでございます。
○宮本(徹)委員 しかし、それは多くの国民の皆さんの実感と違うと思いますよ、私は。再就職をちゅうちょするような水準では決してないですよ、今のは、今から少し引き上げたとしても。本当に低くて生活できないような状況にあるわけですから、ここは本当に考えていただきたいと思います。この失業給付の水準を引き下げることと併せて、並行して行われてきたのが、暫定措置として国庫負担割合の引下げであります。本則である国庫負担割合の四分の一から引下げが行われた二〇〇七年度から二〇二〇年度までの間において、本則の四分の一で算出した額と実際に支出された国庫負担額との差額、この合計額というのは幾らになりますか。
○田中政府参考人 雇用保険の国庫負担額について暫定的な引下げ措置を開始した平成十九年度から令和二年度の間の決算額と、同期間について本則の負担割合により算出した額との差額を機械的に算出いたしますと、約二・二兆円となります。
○宮本(徹)委員 約二・二兆円、国庫負担が入ってこなかったわけでございます。その上で、二〇二〇年度の国庫負担は二百三十億円ですけれども、仮に、国庫負担が原則の四分の一だとして、その差額を基本手当の増額に均等に当てたとしたら、一人当たり一か月、どの程度の基本手当の増額が可能になりますか。
○田中政府参考人 二〇二〇年度の基本手当の国庫負担割合が本則の負担割合であった場合の所要額を機械的に算出しますと、約二千二百億円となり、実際の国庫負担額との差額は約二千億円となります。この二千億円を基本手当の年間の延べ受給人数で除した場合、一人一月当たりの額は約三万五千円程度となります。
○宮本(徹)委員 つまり、国庫負担を、四分の一、本則どおりとすれば、一人当たり月三・五万円増やせるだけのことができるわけですよね。ちょっと前に申し上げましたけれども、法の改悪によって二〇〇三年に大きく給付が下げられたわけですけれども、そのときから今下がっているのが平均二万六千円だと。それを上回る額の給付の引上げが、国庫負担を四分の一にしていればできるということなわけですよ。私は本当に、国庫負担を四分の一に戻す、そして、もっと失業者とその家族の生活を支えて、安心して就職活動できるようにすべきだというふうに思います。資料の七ページ目を見ていただきたいと思いますが、これもOECDの資料でございます。OECD諸国の中で失業者への公的支出のGDP比を出しておりますが、残念ながら日本は下から四番目ということになっております。かつてはそうじゃなかったわけですよね、四分の一出していた頃はこうではなかったわけですけれども、今は四十分の一ですから極めて低い水準に世界の中でもなっているわけであります。こういう状態を固定化していいのかと思います。ちょっとお伺いしたいと思いますけれども、OECD諸国は、日本よりも失業給付が手厚いところもあるわけですけれども、一般的に言って、失業給付の水準が高いことにはどういうメリットがあるとお考えですか。
○田中政府参考人 雇用保険の基本手当は、失業中の労働者の生活の安定を図るとともに、その早期就職を促進することを目的としております。一般論としては、給付水準が高い方が生活を安定させる効果が高くなると考えますが、一方で、再就職後の賃金との差が小さくなり、あるいは逆転する可能性もあり、就職促進効果が損なわれるおそれがあると考えております。こうしたことも踏まえ、基本手当の制度設計は、離職前賃金の低い方ほど給付が手厚い制度設計とした上で、再就職時賃金との乖離の状況も必要に応じて確認し、給付と負担のバランスも踏まえて行っているところでございます。
○宮本(徹)委員 私たちの国は、コロナ禍で大変な事態になっても、生活の水準を維持できるようにしようじゃないか、消費の水準を維持できるようにしようじゃないか、こういうことで、雇調金について本当にみんなで努力したわけでございます。しかし、失業された方々は、もちろん失業給付の延長というのをやりましたけれども、しかし金額自体は低いままで大変苦労されるということになったわけですよね。やはり失業給付は手厚い方が生活の安定に資すると。さらに、海外の研究を見ますと、失業給付の水準が手厚いほど再就職後の勤続年数が長い、こういう研究もございます。給付水準が低いと、どうしても次への就職がせかされていく、不本意な就職先を選ばざるを得ない、こういうことも起きていることの裏返しだと思います。そういうことを考えると、私は本当に、国庫負担の原則を引き下げる本法案は、向かうべき方向が全く反対だということを厳しく指摘しておきたいと思います。資料の八ページ目を御覧いただきたいと思います。これは財政審の十二月の建議でございます。これは今回の国庫負担の考え方と共通するのかなと思いますが、国庫負担割合については、社会保険制度における雇用保険制度の相対的な位置づけを踏まえる必要があるとして、我が国の社会保障制度は、自助、共助、公助の最適な組合せに留意して形成すべきとされており、国民皆保険、皆年金に代表される共助としての社会保険制度が基本であり、国の責務としての最低限度の生活保障を行う公的扶助等の公助は自助、共助を補完するという位置づけとされている、こういうふうに書いているわけですよね。つまり、公助は自助、共助の補完なんだ、まさに今回の法案の中身は、本則四分の一を原則四十分の一に引き下げて、自助、共助を補完するところまで公助を引き下げるものになっているのではないかと思いますが、大臣はこの財政審とは全く同じ考え方なんじゃないですか、大臣の立っている立場は。
○後藤国務大臣 御指摘の令和三年十二月三日の財政制度審議会の建議については、平成二十五年の社会保障制度改革国民会議報告書において、主として年金制度や医療保険制度に代表される社会保険制度における公費投入の考え方を踏まえたものであると理解しております。雇用保険制度の国庫負担については、雇用保険の保険事故である失業が政府の経済政策、雇用政策とも関係が深く、政府もその責任を担うべきという考え方によるものでありまして、今回の改正によってもその考え方は変わらないものと考えております。
○宮本(徹)委員 この考え方とは若干違うんだということを大臣はおっしゃいますけれども、実際、しかし、やっていることはこの財政審に書かれていることそのままじゃありませんか。失業が政府の経済政策、雇用政策の失政の結果だ、だからこそ責任を負わなきゃいけないという考えがあるのであれば、私は、今回の法案は撤回して、出し直すべきだというふうに思います。そのことを申し上げまして、質問を終わります。