2022年11月16日 衆院厚生労働委員会参考人質疑 障害者支援法改定案 医療保護入院増える懸念
精神福祉法や難病法など五つの法案を束ねた障害者総合支援法改定案の参考人質疑が、16日の衆院厚生労働委員会で行われました。日本共産党の宮本徹議員は、精神障害者を本人の同意なく強制入院させる医療保護入院について、家族がいない場合に市町村長の同意で良いとする制度の形骸化が指摘されている問題を質問しました。
桐原尚之・全国「精神病」者集団運営委員は、改定案で家族の意思表示がなくても強制入院が可能となることから「いままでなかった市町村長同意の層をつくることになり、医療保護入院が増える懸念がある」と指摘しました。
日本弁護士連合会の池原毅和弁護士は、市町村長同意させるために「市町村職員が患者に会いに行くことは乏しく、半年に1回の人は1%にとどまる。形骸化した同意で入院させられる患者の権利を欠いてはならない」と述べ、市町村による必要な措置の努力義務化などを求めました。
また、宮本氏は精神医療審査会が患者の人権を守る役割を十分に果たせていない問題をどう改善していくべきか質問。藤井千代国立精神・神経医療研究センター部長は「審査会委員は非常勤で、できることに限りがある。事務局も人手不足で運営している」と実態を語り、人権擁護にかける予算や人員の少なさを指摘しました。
池原氏は、障害者権利条約のパリ原則に基づいて国内に独立公正な人権擁護機関を創設する必要性を訴えました。
以上2022年11月17日付赤旗日刊紙より抜粋
≪2022年11月16日 第210国会衆院厚生労働委員会第9号 議事録≫
○三ッ林委員長 これより会議を開きます。内閣提出、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案及び道下大樹君外十名提出、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。本日は、両案審査のため、参考人として、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部長藤井千代君、全国「精神病」者集団運営委員桐原尚之君、一般社団法人日本難病・疾病団体協議会常務理事辻邦夫君、一般社団法人全国地域で暮らそうネットワーク代表理事岩上洋一君、日本弁護士連合会高齢者・障害者権利支援センター精神障害のある人の強制入院廃止及び尊厳確立実現本部本部長代行池原毅和君、以上五名の方々に御出席をいただいております。この際、参考人の方々に一言御挨拶を申し上げます。本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。次に、議事の順序について申し上げます。最初に、参考人の方々から御意見をそれぞれ十分以内でお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。なお、発言する際はその都度委員長の許可を受けることになっております。また、参考人は委員に対して質疑することができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。それでは、まず藤井参考人にお願いいたします。
○藤井参考人 このような意見陳述の機会をいただきまして、ありがとうございます。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の藤井です。今回の法改正に向けた検討会に構成員として参加いたしました。法改正に全体として賛成の立場から意見を述べさせていただきます。私は、今回の法改正に向けた検討会の前年に開催された、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会にも構成員として参加しておりました。その中では、精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう、包括的な支援体制を確保する、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを構築することの必要性が示されました。精神障害にも対応した地域包括ケアシステムは、地域共生社会の実現に向かっていく上では欠かせないものであるとされております。現在、日本の各地域では、地域共生社会の実現に向けた取組が始まっておりますが、メンタルヘルス不調や精神疾患、精神障害を持つ人など、精神的な不調を抱えた方々に対するスティグマはいまだに根強くあり、真にインクルーシブな社会を目指す上では、精神的な不調を抱えた方たちが社会に包摂されることが重要です。スティグマは、社会構造レベルのスティグマと個人レベルのスティグマに大別されます。社会構造レベルのスティグマとは、精神科医療の提供体制が身体科医療の提供体制と比較して不十分であったり、精神保健や精神医療に関するシステムが一般の地域保健や医療とは別に扱われたりといった、社会や制度の仕組みにおける差別のことを指します。個人レベルのスティグマとは、精神疾患は怖いといった誤った認識や、一緒に働きたくないといった心理的抵抗感など、個人が持つ認識や態度などを指します。現在の日本の状況を見ると、関係者や当事者、御家族の努力により、医療や福祉の質、メンタルヘルスリテラシーの向上が一定程度進んできておりますが、精神の不調に対するスティグマは、個人レベルのみならず、社会構造レベルにおいても今なお存在しています。私は、今回の法改正を、このようなスティグマの解消に向けてのステップとして生かしていかなければならないと考えております。精神障害のあるなしにかかわらず、地域には様々な生きづらさや困難を抱えた方がいらっしゃいます。地域住民全てが、制度の隙間に陥ることなく、必要なときに必要な支援を過不足なく受けられることが必要です。そのためには、住民の身近にあって福祉の支援体制を既に構築している市町村が、こうした支援ニーズを取り込んで支援できる体制の強化が重要であると考えます。本改正案において、精神障害者等に対する包括的支援の確保の必要性を明記していただいたことや、精神障害者のみならず、精神保健に関する課題を抱える方についても自治体における相談や援助の対象者として明記していただいたことで、地域全体の支援強化につながるものと考えております。一方で、市町村が義務として行っている様々な地域保健福祉関連業務の多くが精神保健と関連していることは、私どもの研究からも明らかです。今回、市町村の精神保健業務に関する規定を設けていただきましたが、これを是非実現した上で、今後は、市町村間の支援に格差が出ないよう、精神保健業務に必要な人員配置や予算措置にも支援をお願いしたいと思います。市町村における精神保健業務のニーズが年々高まっていることも私どもの調査により示されておりますので、地域保健の中に精神保健をしっかりと位置づけていただけるように、予算措置や下位法令の整備などが必要であると考えております。これは、精神の不調を抱える人を別扱いしない社会構造を目指す上で非常に重要です。また、法改正で、都道府県は市町村の求めに応じてバックアップするよう努めなくてはならないと明記していただいたことはありがたいことなのですが、保健所、精神保健福祉センターも、市町村と同じく人的資源が不足していることに十分な配慮をお願いしたいところです。医療保護入院の在り方についてですが、今回の改正は、入院期間の法定化や入院理由の告知、退院支援措置の拡充など、医療保護入院をより適正に行う方向での見直しと理解しており、このような見直しは進めていただきたいと考えます。なお、医療保護入院の同意に関しては、家族等同意を維持せざるを得ないということであれば、今回の改正案のように市町村長同意となる要件を広げる方向で致し方ないと考えますが、従前から、家族等同意は、家族に過大な負担を強いるばかりでなく、当事者と家族の関係性にも悪影響を及ぼしかねない制度であるとの指摘もありますので、より適切な手続の在り方について引き続き議論を重ねる必要があります。改正案の附則第三条にあるとおり、当事者等の意見を聞きつつ、検討すべきと考えます。障害者権利条約の対日審査では、総括所見において、実際の障害又は危険であると認識されることに基づく障害者の強制入院を認める全ての法的規定を廃止することとされました。非同意入院に関しては、精神科臨床における倫理課題の中でも最も重要なものの一つであり、国内外で様々な立場から長年にわたり議論されています。障害者権利条約の第十四条ガイドラインあるいは国連障害者権利委員会からの勧告を受けて、批准国では、非同意入院の在り方についてこれまで以上に真剣な検討が行われています。ですが、私が知る限り、非同意入院に代わる具体的かつ現実的な対応策については、現在までのところ、まだ模索が続いている状況です。注目に値する取組として、北アイルランドでは、非同意入院を行うに当たって、精神障害があることを前提とするのではなく、本人が自律的とみなされる意思決定ができない場合であって、非同意入院が本人にとっての最善の利益であると判断された場合にのみ容認する法律の運用が開始されています。すなわち、精神障害のみを別扱いとせずに、原因のいかんを問わず、自律的な意思決定ができるか否かを前提とした、かなり画期的な法律です。この法律の運用はまだ段階的に始まったばかりですし、ほかの国でも障害者権利条約に可能な限り準拠するための努力が続けられているところですので、そのような海外の動向も注視しつつ、附則第三条に基づく検討を進めていただきたいと思います。その際には、できれば、精神保健福祉法に規定される範囲の検討にとどまらず、保健医療福祉体制全体において、精神障害者等が精神障害を有するがゆえに別扱いとなる仕組みをなくしていくと同時に、精神疾患、精神障害という疾患特性、障害特性に配慮した仕組みとなるように、関連法を含めて検討することが望ましいと考えます。次に、入院者訪問支援についてです。精神科病院では、職員が治療や支援に真摯に取り組み、法令に基づく権利擁護が行われています。当事者と医療従事者が治療方針について話し合いながら決定していく共同意思決定についても、まだ十分とは言えないながらも、精神医療現場で進みつつあります。それでも、入院医療の特性上、患者さんはおのずと外部と隔てられ、集団生活の規律を守り、医療機関の職員の指示に沿って治療を受けないといけない立場にあり、孤独、孤立感や自尊心の低下が起こりやすく、本来その人が持っている権利の行使が難しいことがあります。こうした方が、病院外の常識から見れば当たり前の権利を行使できるためには、本人の立場に立った味方が必要です。こうした支援のことはアドボカシーと呼ばれています。アドボカシーは、医療機関などの支援提供側が行うフォーマルアドボカシーや、家族や友人によるインフォーマルアドボカシー、同じような属性を持つ仲間によるピアアドボカシーのみならず、独立した第三者が行う独立アドボカシーがあることが望ましいとされています。今回、入院者訪問支援事業が改正案に盛り込まれましたが、こうした独立アドボカシーの考え方が一定程度反映されたものと考えております。この事業が御本人の力を引き出し、権利擁護に資することが重要であり、より広く普及することを期待しています。障害者虐待防止の義務化や通報については、今回、精神科病院においてそれらが制度化されたことに賛同したいと思います。前に述べましたとおり、精神科病院では職員による様々な権利擁護の取組がなされていますが、非常に熱心な病院から、そうでもない病院まで、その取組状況には差があります。今回、虐待防止の取組が義務化されることにより、病院間の取組状況がよい方向に均てんされることを期待したいと思います。障害者虐待防止法の附則第二条において、医療機関などにおける障害者虐待についても、施行後三年をめどに必要な措置を講ずるとしていることや、医療機関における虐待は精神科病院だけで生じているわけではないことなどもあり、将来的には、より広く、医療機関における虐待防止の規定を設けることについて引き続き検討していただきたいと考えておりますが、まず精神保健福祉法に規定されることで、早期に実効性ある執行体制が整うという利点があるものと考えます。最後に、今のコロナ禍において、精神的な不調を抱える方が増えていることを鑑みても、精神保健医療福祉の取組は、国民全体の生活と健康を守る上で極めて重要です。法案の内容の実現を望むとともに、精神保健医療福祉について、国を挙げての一層の取組をお願いしたいと思います。以上です。ありがとうございました。(拍手)
○三ッ林委員長 ありがとうございました。次に、桐原参考人にお願いいたします。
○桐原参考人 全国「精神病」者集団の桐原です。全国「精神病」者集団は、一九七四年に結成した、精神障害者個人及び団体で構成される全国組織です。結成当初から、精神障害者への保安処分や精神衛生法に基づく入院制度の撤廃を求めてきました。この度の束ね法案は、障害者を分断するものです。難病の仲間にとっては、待ちに待った改正であり、我々、精神障害者にとっては、参議院先議でありながら廃案という前代未聞の末路をたどった精神保健福祉法改正法案の五年ぶりの出し直しということになります。参議院先議の法案が廃案になるのは憲政史上初のことであり、前代未聞の出来事でした。私たちは、難病法改正を否定したいなどとこれっぽっちも思っていないのですが、仮に法案に反対しようものなら、難病の仲間からはそのように見られてしまうことになります。まさに、当事者間の評価が真逆の法案を束ねて、障害者同士の分断を誘発するものでした。全国「精神病」者集団は、唯一、賛否を決める基準として、障害者権利条約の総括所見に基づく法制度の見直しの検討を附則で担保することを示し、それをしなければ反対すると主張してきました。しかし、附則には、障害者権利条約の実施について精神障害者等の意見を聞きつつ検討するとあり、ここで言われている障害者権利条約の実施が総括所見を含み得るのかどうかは、条文上からは分からないようになっています。先日の加藤大臣の答弁で初めて、総括所見を踏まえることが明らかになりました。ただ、附則第三条の、精神障害者などの意見を聞きつつの部分は、病院団体側からの意見も含まれるのだと思います。結局、総括所見の内容や精神障害者、障害当事者の意見よりも、最終的に病院団体側の意見が優勢になってしまうのではないかと憂慮します。この度の参考人でさえも、当事者の数は少ないです。障害者権利条約の監視機関とされる内閣府障害者政策委員会の中にも、精神科病院を代表する団体の構成員が入っているのに、精神障害や知的障害の当事者は構成員として入っていません。厚生労働省の地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会は、当事者の構成員が数の上では増えましたが、常に病院団体側の意見が優位との印象を拭えませんでした。特に日本精神科病院協会は、与野党の国会議員に影響力を持っています。省庁からの提案は、政党の政調部会や総務会において反対意見が出ると白紙になると聞きます。それを恐れて、省庁は忖度します。国会議員の中には日精協から献金を受けている者もいるため、立法府内も病院団体の優位に陥りやすい構造があります。私は、検討会において、当事者としての立場に依拠しつつも、病院側も含めた他団体とのコンフリクトを回避できるように論理を組み立てて意見を出したのに、日精協から、全くかみ合ってもいない、根拠に基づかない意見によって議論の蓄積を全否定されました。具体的には、医療保護入院について、将来的な廃止が、誰もが安心して信頼できる入院医療が実現されるようへと大幅なトーンダウンをしたことが挙げられます。私は、同検討会において医療保護入院の廃止を主張した際に、非同意だから廃止すべきなどとは一言も言いませんでした。あくまで、精神保健指定医と家族等という二者に負担が集中した現行の医療保護入院制度のたてつけの困難さを廃止という形で乗り越え、同意によらない医療開始の手続を一般医療と同質にしていくことを当面の方策として望んでいるのだと意見しました。すなわち、非同意の入院が必要であることと、医療保護入院が必要であることを切り分けた上で、非同意の入院自体は必要だが、医療保護入院は廃止すべきであると主張したわけです。しかし、日精協は、非同意の入院が必要だから医療保護入院が必要であるとし、医療保護入院が廃止されたら精神医療が崩壊すると言いました。このことは新聞誌面でも取り上げられました。当事者は、医療保護入院が廃止されても医療が受けられなくなる不安は感じていません。むしろ、医療保護入院によって医療不信になり、かえって医療保障が遠ざかると感じています。改めて医療保護入院の廃止に向けて検討することを確認してほしいと思っています。身体的拘束の告示改正の検討では、事前に日精協と調整した新要件案が事務局案として出されました。その内容には多くの構成員が反対し、修正を求める意見が出ましたが、検討の中で形を変えて残り続けました。不透明なところで不透明な形の合意が図られ、その内容が公開された検討会の中で覆らないことに対し、当事者の無力さを感じました。精神科病院における虐待についてです。精神科病院における虐待事件は、神出病院事件を始め、枚挙にいとまがありません。精神保健福祉法の枠組みでは自浄作用が働きにくく、明るみになっていない虐待も数多く存在するものと思われます。私は、二〇一八年から二〇一九年にかけて厚生労働省が行った障害者虐待防止法附則第二条に基づく検討について納得していません。検討の結果、二点の理由で法改正をしないこととなりました。一つは、障害の有無に関係なく利用する機関においては、障害者への虐待のみが通報対象となる不整合が生じるということ、もう一つが、各機関における虐待に類似した事案を防止する学校教育法や精神保健福祉法等の既存法令と重複する部分の調整の必要性が生じることでした。しかし、現行の使用者による虐待は、障害の有無に関係ない職場を対象とした制度なので、現行の法律と検討結果の間に深刻な矛盾が生じています。また、医療機関には通報義務こそありませんが、通報自体はできることとされているため、通報義務に伴って新たに重複する部分の調整が必要になるはずもなく、現行の法律との間に深刻な矛盾が生じています。精神保健福祉法に精神科病院における虐待の通報義務が設けられたことで、障害者虐待防止法の改正が行われなくなることがないよう、障害者虐待防止法附則第二条の再検討を求めます。私は、当事者も病院団体も立法も行政も、知性に基づく論議によって解決しようとする姿勢を見せる必要があると思います。いかに強い立場の人であったとしても、当事者の意見をないがしろにした知性によらない要望は堂々とはねのける勇気がなければ、この社会を変えることはできません。障害者権利条約に基づく日本政府への勧告には、精神保健福祉法に基づく非自発的入院や身体的拘束を含む行動制限、医療観察法の廃止、精神保健福祉法の廃止を含む精神医療の一般医療への編入、成年後見制度の廃止などが書かれています。国連が廃止を勧告している政策は、障害者と他の者を分け隔てる考え方の上に成り立っているものであり、これらを廃止して、障害者を包摂する社会モデル的な政策へと抜本的に見直す必要があります。精神保健福祉法の場合、精神障害者が病状のために治療の必要性を判断できないという病気の特性があるという医学モデル的な前提に立ち、その上で、医療保護入院、措置入院、任意入院という精神障害者だけを別の枠組みに位置づけた入院制度と病床の位置づけ、そして報酬体系があります。精神障害者は、池田小学校事件や津久井やまゆり園事件のような事件が起きると、度々、犯罪素因者のような扱いを受けて、医療観察法や退院後支援ガイドラインといった制度がつくられてきました。偏見が助長されないようにするためにも、退院後支援の警察参加は、全国に不安を抱える仲間がいるので、警察は参加しないようにしてほしいです。医療観察法は、長期入院の問題が指摘されている中、当初予定されていた以上の病床が整備されていることから、病床整備を凍結させるとともに、法律の廃止に向けた検討を開始してほしいです。医療計画には、非自発的入院を縮減できるよう、指標例を実数で補足してほしいです。この社会における精神障害者を取り巻く問題の根本は、精神障害者と関わろうとせず、病院に入れておけばいいのだという市民の意識にこそあります。精神科病院は、こうした市民の意識を引き受けて精神障害者を入院させていきます。すると、地域から精神障害者がいなくなっていき、地域の人々が精神障害者と関わり合いを持たなくなっていきます。精神障害者との接し方が分からない中で長期入院者を受け入れていこうとはならず、現状の問題を帰結しています。私たちは、先に市民の理解を得てから、それから地域移行を進めるという順番ではなく、病床を減らすことで入院者を減らし、地域で精神障害者と実際につき合っていくことを通して、包摂に向けた創意工夫が実践されていくことになると考えています。精神科病院が市民の要求に応えているのは事実だと思います。しかし、そのようなところに自信を持ってほしくはないです。そうではない社会を目指すための議論を共にしてほしいです。本日は、貴重な場を設けてくださったことに感謝を申し上げます。どうもありがとうございました。(拍手)
○三ッ林委員長 ありがとうございました。次に、辻参考人にお願いいたします。
○辻参考人 日本難病・疾病団体協議会の辻邦夫と申します。本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。私ども日本難病・疾病団体協議会、JPAは、資料一にございますように、昭和四十七年の難病対策要綱の前後に、続々と難病の患者団体が誕生し、その全国組織が幾つか集まった中で、二〇〇五年に大人や子供の難病それから長期慢性疾患の団体が一つに集まった、加盟、準加盟、今九十八の団体で構成される全国組織でございます。本年も貴院で採択いただきました国会請願や難病患者サポート事業などを始め、個別の患者団体や地域難病連単体では解決が難しい課題について様々に活動しており、先週末も難病フォーラム二〇二二を開催し、たくさんの議員の先生にも御参加いただきました。誠にありがとうございます。私自身は、JPAで常務理事をしておりますが、指定難病の一つである慢性炎症性脱髄性多発神経炎という神経難病の一患者であり、また、全身性エリテマトーデスという指定難病の娘を持つ当事者の家族でもあります。さて、今回の難病法、児童福祉法の改正案では、患者も参加いたしました難病対策委員会等で検討が進められた結果をおおむね反映しており、治療研究と福祉の両面の推進を図る点が盛り込まれている点で、その成立に患者としても大変期待をしております。また、コロナ禍で、当初の五年以内の見直しが、ほぼ七年後の見直しになっている点にも鑑み、早急に御審議をいただきたいと考えております。一方、まだまだ積み残された課題が多いのも現状です。本日はこれらの点につき、意見を述べさせていただきたいと思います。最初に、難病法の成立経緯でございますが、若干振り返らせていただきます。資料二の、二〇一一年の十二月、中間的な整理、また、厚生労働大臣の基本方針にもあるように、難病は、その確率は低いものの、国民の誰にでも発症する可能性があり、難病の患者及びその家族を社会が包含し、支援していくことがふさわしいことを基本認識とするとされております。また、資料三にありますとおり、治療研究の推進と、なかなか光の当たってこなかった難病患者への福祉、両面の推進を基本理念として法制化が進められました。その過程で、患者の意見はもちろん、医療、福祉、行政の担当者や有識者、そして超党派の議員の皆様の御支援、後押し、御賛同を得て成立に至ったものです。そして、今回の五年以内の見直しにつきましても、コロナ禍により何回か中断を余儀なくされましたが、難病対策委員会とそのワーキンググループでの検討、各地でのヒアリングや患者へのアンケート、医療者、支援者、行政担当の意見なども踏まえた上で、制定時と同様、検討が進められた結果である点は評価できるものというふうに考えております。では、今回の改正案の具体的なポイントについてですが、まず一点目、資料四にございます、重症化した際に迅速に医療を受けられる制度については、発症後、更なる重症化を防ぐ、あるいは遅らせる治療をできるだけ早く開始することが、医療の観点からも、本人の日常、療養生活の観点からも大変重要であることは、医療関係者、患者双方が認めるところであります。今回、医療費助成の開始を、申請時から重症化時点まで一定期間遡ることは、実際に助成が治療開始に間に合わないという例が多くある中、重症化や治療控えを避けるためにも法の趣旨に沿う改正であり、患者としても早急に是非実現していただきたいと考えております。ただし、資料では、遡りの期間の案が原則一か月となっており、患者が安心して適切な治療が開始できるよう十分な期間が保障されるよう設定していただきたいと考えております。といいますのは、指定医が申請に必要な臨個票というものを作成する期間は、通常二週間から一か月かかると言われており、指定医のいる病院は決して身近な医療機関ではないことを考えますと、とても一か月では余裕がないことは明らかです。患者としては、原則三か月をお願いしたいところでございます。二点目として、資料五になりますが、各種支援を円滑に利用できるようにするための登録者証を発行する点につきましては、患者としても、生活の質の充実と向上、治療研究や根治療法の研究促進に資するものとして、こちらも大変期待するものです。なお、登録証の情報を基に、希少疾患への偏見や差別などにつながらないように十分配慮するとともに、個人情報の保護と安全管理措置を十分に行っていただきたいと思います。その点からも、法案説明にありますマイナンバーカード連携への不安はまだまだ大きく、そのデメリットやメリットの丁寧な説明を行い、しっかりとした検討の上で、慎重に進めていただく必要があると強く考えております。また、今回の登録証は、指定難病ではない総合支援法の対象疾患の患者は含まれておりません。それらの患者も同様の利便性が持てるよう施策を早急に考えていただき、同じ法律での支援に差異や谷間が生じないよう、十分な対策を講じていただきたいというふうに考えます。そのほか、資料六にあります、難病患者の療養生活支援の強化などなどについては、福祉と治療法開発の研究の両面を推進するものとして、患者の立場からも是非お願いするものです。さて、以上、改正案について述べてまいりましたが、そのほか、前回の附帯決議も多くが現在課題として残っており、今回の法改正に盛り込まれていない点や、法の運用面についても、これから述べる点について、課題として残っていることを述べたいと思います。これらの点については、五年以内の見直し規定を再度定めていただくとともに、資料七、八の難病法制定時の附帯決議を引き続き継続して政府に要請していただきたく、また、資料九の点について政府に検討を要請していただきたいと強く考えております。一点目は、トランジションの問題始め小慢対策についてです。トランジションの問題始め小慢における医療や福祉に対する対策について、患者やその家族の要望の多くは、今回の改正法案には反映されない、若しくは不十分なものでした。要望は、他の法律との関係や福祉政策とのバランスなど、難病法、児童福祉法だけでは解決できないものも多いため、大変難しい課題ですが、是非、患者、家族の声に耳を傾け、引き続き早急に小慢対策の充実を図るようお願いいたします。難病患者の約半数は、障害者手帳等の手帳を未所持でございます。そのため、法定雇用率の対象とならず、特にその就職時の困難性は一律に非常に高いと考えております。難病患者を法定雇用率の対象とし、難病患者の特性を踏まえた就職支援、就労継続支援を、また、他の病気を持つ者への支援策との連携を図るなどして、適切に講じていただきたいと考えます。また、難病患者就職サポーターは、概して県に一人しかおらず、その質のばらつきも、多くの患者団体が指摘するところです。増員のほか、身分、処遇の改善、支援の質と量、双方の向上を図るとともに、ハローワークでの難病患者支援の充実を図っていただきたいというふうに思います。国民皆保険の下、国民目線に立った医療政策や欧米に負けない研究開発、患者本位の医療を実現するためには、医療全般へ広く患者参画を進め、健全な患者視点を入れることが必須と考えます。難病法の下であれば、難病患者の日常生活又は社会生活の支障の評価ですとか、難病ゲノム医療等新たな医療の進展への対応などへの患者参画を推進するとともに、社会資源としての患者活動を適切に支援して、産官学に患が加わった連携かつ協業して医療の健全な発展に寄与するよう、有効な施策立案が必要と考えます。難病患者の最も身近なところにあるべき難病相談支援センターですが、保健師や看護師である支援員とピアサポーターの連携が薄かったり、行政や医療、福祉、また就労や教育等の機関との連携についても地域差があるのが現状です。患者の意見を十分に反映して、地域格差のない質の高い支援につながるよう、職員の増員、身分や処遇の改善、福祉専門員の配置なども行っていただきたいと考えます。指定難病の中でも、比較的希少な疾患や歴史の浅い疾患は、一時的であれ、その治療法や適応薬が、そうでない疾患に比べて非常に少なかったり、研究者も少なく、研究が進みにくいという点が挙がっております。比較的希少な疾患に対する治療法研究を促進するよう、予算と施策の充実を検討していただきたいと思います。最後に、地域においては、障害者基本法に基づく障害者施策推進協議会はもとより、総合支援法に基づく自立支援協議会においても、難病患者は当事者としてほとんど参加できていません。支援法と同様に、障害者基本法にも難病等が対象であることを明記し、国の障害者に対する諮問委員会や地域の協議会等において、目標設定や実現への道筋を明らかにするなどして、当事者としての難病患者の参加を促進し、真の共生社会の実現を目指せるようにしていただきたいと思います。意見は以上となります。その次に、参考資料として、法改正を速やかに実施していただきたいという本年四月の要望書を添付しておりますので、御参考にしていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。(拍手)
○三ッ林委員長 ありがとうございました。次に、岩上参考人にお願いいたします。
○岩上参考人 皆さん、こんにちは。一般社団法人全国地域で暮らそうネットワーク、通称チイクラネットというんですが、その代表をしております岩上でございます。本日は、貴重な機会に出席をさせていただきまして、本当にありがとうございます。私ども全国地域で暮らそうネットワークは、社会的な支援が必要な精神障害者の地域移行に向けた課題の解決及び未来の創造の下、希望する地域で自分らしく生活することができる持続可能な社会づくりに寄与することを目的として活動しております。また、私自身は、埼玉県の南埼玉郡宮代町で社会福祉法人じりつという法人を経営しております。委員長の幸手市、杉戸町も私どもの地域でございまして、基幹相談支援センター、地域生活支援拠点も受託をさせていただいているところでございます。資料を御用意させていただきましたので、御覧いただければと思います。最初に写真が載っておりまして、これはキャンドルナイトという、私どもの事業所で、法人でやっているイベントなんですが、障害者の皆さんが町内の七つの小中学校に出向いて、障害当事者のお話と、そして、感謝の気持ちを紙コップに書いてもらうということをお願いして、十六年たちました。私どもの町では、障害者の方が地域で暮らすということはごく自然なこととなっています。そんな中、三万人の町で三千個の紙コップですから、十人に一人は参加をしているということで、かるたを募集したところ、このキャンドルナイトが第五位で、「ろうそくに感謝を灯すキャンドルナイト」というのが、かるたになっております。何でこんなことをお話ししますかというと、私たちは、やはり、公的な制度を活用して障害のある人の暮らしぶりを支援する障害福祉サービス等には、こうした地域に必要とされ、地域を元気にする役割が求められていると思っております。そういったことを大切にして事業運営をしているところです。それでは、意見を続けて述べさせていただきたいと思います。今般、内閣提出の法改正案に対して、私は全体として賛成の立場で意見を述べさせていただきます。共同生活援助について意見を述べたいと思います。一年以上入院している長期在院者は、退院後の暮らし方について大変不安です。しかし、通過を前提としたグループホームがあると、これからの生活を病院で考えるのではなく、退院してから考えることができるので、絶好の機会となります。この考え方は、御本人の望んでいる暮らし方の選択の範囲を広げ、児童養護施設や社会的な支援が必要な若い世代の方々にも大変有効だというふうに思っております。私もそうしたことで実践をしております。独り暮らしのための訓練をすることは想定はしておりません。むしろ支援者の方が、彼らが地域で暮らすためにどのような支援をしていくかということを考える重要な機会で、訓練されるのはむしろ支援者だと思っております。次に移ります。市町村を基盤とした支援体制の構築ということで、基幹相談支援センターと地域生活支援拠点等、協議会プラス精神保健が柱となります。本来、これについては義務化が望ましいと考えているところです。基幹相談支援センターは、人材育成、相談支援体制構築、協議会運営を担う機関です。地域生活支援拠点は、地域生活の緊急時対応、福祉救急や地域移行を推進するサービスの拠点となります。これもサービスのありようを見直す絶好の機会となります。平時の対応を充実させることで、本人の一大事でも、緊急対応にはなりません。真に緊急とは、今までに関わりのなかった人の一大事のことです。そのためには、類型を問わず、地域のネットワークが要となります。地域移行を実効性のあるものにするには、地域移行支援を担うコーディネーターを地域生活支援拠点等と施設、精神科医療機関の双方に配置することが必要です。そして、地域生活支援拠点のコーディネーターには、平時、緊急時対応を行う者と、地域移行を専任で担う者の複数配置が必要で、地域移行を担うコーディネーターには一定の権限を与える必要があります。これは、私は精神科領域で仕事をしていますが、施設に対しても同様で、特に施設の地域移行についてはこのような配置が望ましいと思っています。また、地域保健、これについては健康と福祉を併せたもので、福祉との親和性は極めて高いものです。本人、家族、地域を包括的に支援することができますので、この精神保健を、市民の健康はもちろんのこと、孤立、孤独、生活困窮、引きこもり等の課題、重層的な支援体制整備事業等の基盤として位置づける必要があると思っています。ページをめくっていただきまして、今般の法律改正に当たって厚生労働省等が示しているポンチ絵ですけれども、この上に、「精神保健を基盤として」、そうした考え方を加えていただきたいと思っています。次に、就労支援です。私たちの支援の基本は、本人の意思を中心にした生活です。生活とは、命と暮らしと生きざまです。就労支援も、本人の望む幸せを上位概念に置いて就労を支援します。このため、就労選択支援は重要なサービスとなることが期待できます。一方で、事業所の囲い込みにならない仕組みが必要です。事業所を決める前に市町村に申請を行う。そして、中立公正である相談支援専門員に適切な権限を与える必要があります。協議会の評価も重要と考えます。次に、精神保健福祉法の改正です。私は、今回の法改正に向けた、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会に構成員として参加しました。私自身、この十年間、検討会に参加した経験がありまして、大変失礼ですけれども、あと三回法改正するつもりで取り組まないと山積する課題の合意形成は難しいという立場で議論をしました。つまり、地域では精神科医療機関を必要な社会資源と認識しながら、国レベルになるとどうしても、病院が悪い、国が悪いといったある意味偏見が根強くあり、議論がかみ合わなくなるんです。そんな中、今回の検討会では、多くの重要な課題に対して、構成員がその立場を超えて議論を深めてまとめることができたと思っています。障害当事者の立場からの積極的な提案もあり、精神保健医療福祉領域において長期にわたり議論が続けられていた課題について一定の方向性を共有でき、これからの取り組むべき方向性も共有できたと思っています。目指すべき方向性は、国民の精神保健の向上、良質な精神医療の提供、患者の権利擁護に資する法律体系にすることだと思います。医療保護入院の在り方です。今回の改正により、入院期間が法律に定められ、退院支援措置の拡充が行われるなど、医療保護入院が適正化されることとなり、人権擁護の要請に対しても、一歩前に進むことになると思います。長期在院者への支援については、市町村が精神科病院との連携を前提に、病院を訪問し利用可能な制度の説明等を行う取組を行う必要があります。患者の同意が得られない場合の入院医療の在り方などに関して、課題の整理を進め、見直しについて速やかに検討していくことが必要と考えています。入院者訪問支援事業の創設。精神科医療機関は入院患者の権利擁護を行っていますが、非同意入院では、その特性上、医療機関がその任務を全て行使することには限界があります。そのため、外部の第三者が面会に行く、この権利擁護に資する仕組みとなることを期待しています。医療機関が行う共同意思決定支援とこの外部機関が行使する必要がある入院者訪問支援は、権利擁護機能としては区別する必要があると考えています。今後の検討課題として、こうした支援を望む全ての非同意入院患者に支援がより広く普及する、そうした体制の構築が必要と考えています。個別給付の対応も考え方の一つだと思っています。精神科病院における虐待防止に向けた取組の一層の推進。最も重要なことは、虐待が起こらない組織風土を醸成することです。今回の法改正が、虐待防止法で培ってきた、虐待の深刻化を防ぎ、より軽微な段階で通報しやすい組織風土等の醸成を図り、障害者の権利利益の醸成に資する仕組みとなることを期待しています。今後の推進力として。地域生活への移行を推進するため、地域の基盤整備を着実に進めるための財政的な措置をお願いしたいと思います。障害者支援体制の更なる構築を考えると、社会保障審議会の障害者部会は、大局的な在り方を議論する場として、検討会等を併設して課題等の整理を行う必要があると考えます。また、国民の精神保健の向上、良質な精神医療の提供、患者の権利擁護に資する議論をするために、常設の検討の場が必要ではないかと考えているところでございます。以上でございます。本日は、貴重な機会を大変ありがとうございました。(拍手)
○三ッ林委員長 ありがとうございました。次に、池原参考人にお願いいたします。
○池原参考人 本日は、貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。最初に、お配りしてある資料について確認をさせていただきたいと存じます。資料一は、本年十一月九日付で日本弁護士連合会会長が発出いたしました精神保健福祉法改正案の見直しを求める声明でございます。資料二は、日本精神神経学会の委員会が医療保護入院の市区町村長同意制度を中心に調査、分析した報告でございます。資料三は、精神医療審査会による医療保護入院の定期病状報告の審査の資料ですけれども、衆議院調査局厚生労働調査室が作成された、先生方お持ちの白表紙の参考資料の二百七十六ページと同じ内容ですので、そちらを御覧いただきますとよいかと存じます。資料四は、日本が批准しております市民的及び政治的権利に関する国際規約、いわゆるB規約、それから拷問等禁止条約、そして障害者権利条約などにつきまして、各条約の委員会から日本に対して出された勧告の中から、精神保健福祉法に関するものをまとめたものでございます。そこで、まず最初に御覧いただきたいのは資料四でございます。国連の障害者権利委員会は、本年九月に日本に向けた総括所見で、強制入院は障害を理由とする差別的な自由の剥奪になるとして、強制入院を廃止することを要請しております。この総括所見に法的拘束力はないからそれに従う必要がないというような考え方は、国連の意義をないがしろにし、その機能をおとしめるものでありまして、法の支配を基本的な価値とし、国際社会で名誉ある地位を確保することを目指す日本が取るべき考え方とは言えないと思います。また、B規約については、非自発的入院の要件が極めて広範であると指摘をされています。強制入院を最小限の期間にすべきことも求めています。拷問等禁止条約については、医療保護入院の決定を民間の私立病院が行えること、そして、長期入院が続いていることに懸念が示されています。日本の精神科病床数はOECD諸国の三七%を占めていると言われまして、大量の入院者がおり、その約半分が医療保護入院を中心とした強制入院者です。白表紙の資料の二百六十四ページ、これを御覧いただきますと、医療保護入院者の約六三%が一年以上の長期入院者で、五年以上の入院者が三〇%以上もいらっしゃいます。他国に例を見ない長期で大量の入院者と強制入院を多用しているということについて、B規約の委員会は、強制入院の要件が緩過ぎるということ、それから、必要最小限度を超えた入院を許しているということに原因があるというふうに見て、改善を求めているわけです。拷問等禁止条約の委員会は、大量の強制入院者と入院の長期化の要因として、裁判所でも行政機関でもない民間の私立病院が医療保護入院を行えることに問題があると見て勧告をしています。そして、障害者権利委員会は、精神障害のある人だけを対象にする強制入院がそもそも差別的であるということを指摘しているわけです。自傷他害の危険性があっても一般の人は強制的に収容されませんし、内科や外科の患者さんを判断能力がないとして本人の意向に反してでも入院させてしまうという制度はないわけですから、障害者権利委員会の総括所見も、その意図を私どもは真剣に受け止める必要があるというふうに考えます。これらの条約は、批准によって国内法になっておりまして、法律より上位の法規範になっているということも忘れてはいけないと考えます。以上のように、日本が批准している各条約は、強制入院を少なくとも最小化すること、本来であればなくしていくことまで求めています。こうした大きな方向性から、今回の精神保健福祉法改正を検討していくことが必要だと考えます。そこで、資料一の日本弁護士連合会の会長声明を見ていただきたいと思いますが、第一に、医療保護入院の期間を限定しながらも、何度でも更新できるという点を問題にしております。問題は、更新の判断が公正かつ厳格に行われるかどうかにかかっています。現行法では、精神医療審査会が、十二か月に一度、各病院からの定期病状報告を審査して入院継続が不要であると判断すれば、都道府県知事等が退院命令を出すことになっております。その手続の流れは、白表紙の資料の二百七十三ページを御覧いただくと分かりやすいと思います。しかし、この二百七十六ページの表から分かるように、精神医療審査会が入院継続不要と判断した事例は、毎年、何とゼロ%ということになっています。精神医療審査会は、独立性に問題があるとされていますが、それでも病院とは別の機関です。その機関でさえも入院継続不要の判断をほぼしていないのに、改正法による入院期間の更新は、患者さんを入院させている病院が自ら行うわけですから、ほぼ自動更新になってしまうということが予想されます。少なくとも更新回数を一、二回に限定するぐらいの工夫をしなければ、強制入院の縮小化、長期入院の解消という効果は期待できないというふうに考えます。第二に、家族が医療保護入院の同意若しくは不同意の意思表示を行わない場合に、市区町村長の同意で医療保護入院を行えることにしてしまう点にも問題があります。資料二を御覧いただきますと、市町村長が同意して医療保護入院をさせた患者さんについて、本人への支援や主治医との連携、その他の担当者との連携を半年に一回以上はしたとする市町村は一、二%にとどまっています。適切な入院判断ができていない、形式的で形骸化しているという市町村担当者の回答が多く見られます。精神医療審査会の委員からは、市町村の担当者が入院後全然関わっていない、同意が形式化して無責任、制度そのものが形骸化しているなどが多かったとされています。市町村長同意の実態について十分な立法資料を集めずに、家族の同意が得られない場合に市町村長同意で代用するという改正は、形式的で形骸化した同意によって医療保護入院を拡大してしまい、入院をさせたまま放置して、長期入院を更に増やしていくという作用を果たすことになります。以上のような法改正の方向性は、強制入院の縮小化の方向性に逆行するものです。第三は、虐待防止についてです。問題点の第一は、障害者虐待防止法では市町村が虐待通報の窓口になっているのに対して、法改正案では都道府県だけが窓口になって、市町村の役割が抜けている点です。市町村は、身近で小回りの利く機関として、障害者福祉の第一線を支えており、障害者虐待についても第一次的な役割を果たしています。法改正案が、医療保護入院については市町村長に同意権限を拡張するということにしていながら、入院患者に対する虐待については市町村の権限を認めないというのは、制度的矛盾と言うべきだと考えます。問題点の第二は、都道府県等が指定する指定医に病院への立入りと診察の独自の権限を付与している点です。虐待の立件は、虐待の法的構成要件に該当する事実の確認が必要になります。その認定作業は、本来法的なものが、司法的なものが典型的になりますが、行政機関の職員も法的素養を備えて同様の対応をすることが期待できます。しかし、医師は、司法的な事実認定について専門性を有する職種ではありません。ですから、ここで指定医に独自の権限を与えるのは見当違いであり、むしろ同僚審査の弊害を招くおそれがあると思います。医学的所見が必要であれば、担当職員が医師を補助者とすれば足りるのであって、医師の所見は司法的、行政的事実認定の一つの要素になるにとどまると理解すべきです。障害者権利委員会への次回の日本からの報告は二〇二八年とされております。本年九月の総括所見の勧告について、二〇二八年までにどれだけ誠実な努力をしたのかが問われることになります。現在の法改正案では、残念ながら、強制入院をなくしていくべきであるとする障害者権利委員会の要請には全く届きません。強制入院の要件を厳格化し、強制入院は必要最少限度のものに縮小し、長期入院をなくしていくべきだとするB規約や拷問等禁止条約の委員会の要請にも応じることができていません。むしろ国連からの要請に逆行していると批判を受けることになってしまうでしょう。今回の法改正が小さな一歩であるとしても、それが向かっていく方向を誤ることがないように、市町村長同意の実態調査なども実施して、多くの国民の納得を得られる法改正を行っていただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)
○三ッ林委員長 ありがとうございました。以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。これより参考人に対する質疑を行います。質疑の申出がありますので、順次これを許します。川崎ひでと君。
○川崎委員 おはようございます。自由民主党の川崎ひでとです。本日は、初めて参考人質疑をさせていただきます。こうして参考人の皆様には朝早くから御参加いただき、本当にありがとうございます。この障害者総合支援法は大変多岐にわたる分野でございます。様々な観点から御見解を聞かせていただきました。本来であれば、皆様全員に質問させていただきたいところではございますが、質問の時間が限られておりますので、要点を絞って質問をさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。まず初めに、岩上参考人にお話をお聞かせいただきたいと思います。今回の障害者総合支援法の改正では、地域で暮らす障害者の支援を強化するというのが目的だと理解しております。精神障害者の支援については、福祉からの支援と、そして医療、保健からの支援、この両方が大事であるというふうなお話であると理解いたしました。今回の法改正の意義、特に福祉の関係者にとってどのような意義があるのか、岩上参考人のこれまでの実績に照らし合わせて、御見解をお聞かせいただければと思います。
○岩上参考人 御質問ありがとうございました。今回、法改正、総合支援法と精神保健福祉法ということだと思うんですけれども、まず、基盤として、市町村に精神保健を位置づけるということは非常に重要なことだと思っています。それが今まで位置づいていなかったのかというふうに思われるかもしれませんけれども、適切には、法的には位置づいてございませんでした。今回、精神保健法で精神保健として位置づけて、その中で市町村にも努力規定を課したということは非常に重要なことだと思います。先ほども申し上げましたように、様々な課題、引きこもりであるとか自殺であるとか生活困窮であるということで、それに対して福祉としては対応をしています。しかし、それは、後から出てきたことに対応するということになるので、基盤としての精神保健、そして地域保健の中の精神保健として位置づけることは非常に大きなことで、その保健と福祉が連携をしていくということが非常に重要なことだというふうに考えています。以上でございます。
○川崎委員 ありがとうございます。引き続き岩上参考人にお伺いいたします。地域で生活するためには、グループホームや、あるいはそこから独り暮らしして例えばアパート暮らしをするなど、いろいろな形があると思います。私自身も、自身の地元からお話を伺いますと、独り住まいをしてしまうとごみ屋敷になってしまう、又は近所においてトラブルを起こしてしまう、だからグループホームを選びましたなどといったような御意見もあります。長年障害者の地域生活を支援されてきた御経験から、グループホームが果たしていくべき役割や、地域生活を送る精神障害者等への支援の在り方について、改めて御見解をお伺いいたします。
○岩上参考人 ありがとうございます。グループホームは非常に重要な機関だと思います。先生方にも育てていただいたというふうに認識をしています。選択肢としてグループホームがあり、そこで暮らしていくということは、非常に重要です。あとは、独り暮らしをただ目指したいという方もいらっしゃるわけですから、そこを支援する必要がある。独り暮らしをした場合、非常に心配であるという御懸念がございますが、これについても、前回の総合支援法の改正で、自立生活援助というサービスをつくっていただきましたので、自立生活援助は、御本人がどのような生活をすると自分らしく生活できるかということについて適切にアセスメントして支援を組み立てるという、大変重要なサービスをつくっていただいたと思っています。それも利用していただくということになります。また、前回の報酬改定でピアサポートという位置づけをつくっていただきまして、当事者が当事者を支援するという枠組みをつくっていただき、全国で研修が今行われているところでございます。そうした当事者同士の支援も活用いただくと、自分がどういう暮らしをしていくのかということが非常に分かりやすくなると考えています。以上でございます。
○川崎委員 大変分かりやすい御見解、ありがとうございました。引き続きまた岩上参考人に質問になります。今回の改正法案において、基幹相談支援センターや地域相談支援拠点の設置が努力義務になったということは、私も非常に大きいことだと考えております。現在では約五割の自治体がこの支援センターや拠点整備などができている状況ではございますが、言い換えれば、できていないところが五割ある。ここのできていないところの御意見を聞くと、実は、こうした法律で明文化されていないから、地方自治としても予算が取りづらいんだ、だからこそ、今回こうして明文化されることには大変意義があるというふうに御意見もいただきました。一方で、もう一つの懸念点としては、しっかり予算措置ができても人員が確保できるのか、これが各自治体共通の言葉として出てきました。この分野においては、経験や知識に加えてコミュニケーションスキルの高さが必要になるのではないかというふうに考えております。そうした点においては、なかなか人材確保というものに本当に苦労すると思います。是非、この人材確保あるいは人材の早期育成という観点から、もし御見解があれば教えていただきたいと思います。
○岩上参考人 ありがとうございます。確かに、委員が御指摘のとおり、人材を確保するというのは非常に重要な課題だと思っています。少子化もございまして、福祉人材がなかなか集まらないということもございます。福祉は、ふだんの暮らしを福祉と申しますので、ふだんの暮らしの実践者は市民の皆さんですから、必ずしも従来福祉を勉強した方だけでなく、地域で暮らされている方で是非福祉に携わりたいという方にも参画をしていただきたい、そういう仕組みも必要ではないかと思っています。先ほど御指摘ございました基幹相談支援センターというのは、地域の相談支援体制をつくる機関になって、相談支援も、育成にも協力していくという形になりますので、是非いろいろな方に参画していただきたい、子供たちにも福祉に身近になっていただきたいと考えています。以上でございます。
○川崎委員 ありがとうございます。時間も差し迫ってまいりましたので、次は藤井参考人にお話をお伺いしたいと思います。入院者訪問支援事業についてです。入院者訪問支援事業として、患者の体験や気持ちを丁寧に聞くということが今回盛り込まれております。これによって、病院に入院される患者は具体的にどのような支援を受けることができるのか、また、入院患者にはどのようなメリットがあるのか、この二点について、今回の法定化に当たり、研究班の代表として御検討に携わられた立場から、具体的に御紹介をいただけますと幸いです。
○藤井参考人 御質問ありがとうございます。今回、入院者訪問支援事業が法制化、法案に盛り込まれたということで、今御指摘のとおり、傾聴、入院されている方のお話を十分に聞くということや、誠実に対応すること、あるいは情報提供をしっかり行うということが盛り込まれているかと思います。それによって、入院されている方、先ほど意見陳述の中でも申し上げましたけれども、特に精神科の病棟に入院されている方は、多くの方が閉鎖空間に入院することになります。そうしますと、おのずと外部と遮断された状況になりますので、いかに病院の職員の方が丁寧に話を聞き、真摯に支援を行っていても、やはり疎外感を感じてしまったり、孤独感を感じてしまったりということは少なからずあるというふうに考えられます。実際、そのような声が多く寄せられています。実際のところは、病院の職員がそのような話をしっかり聞いて情報提供を行う、それをすればいいのではないかというように考えられる向きもあるかと思いますけれども、先ほども申し上げましたように、実際に支援をする側とされる側とでは立場の違いもありまして、支援をされている側からすると、なかなか言い出しにくいことがあったりとか、特に強制入院をされている場合には、医療従事者の方に気持ちを開きにくいような状況にあることもございます。そのような場合に、外部から第三者的な立場の方が来てくださって、違う立場で話を聞いてくださることによって孤独の解消であるとか、しっかり話を聞いてもらう、外部の方から大事にされるという経験から自尊心の回復というものが期待されるというふうに考えます。それによって本人が元々持っている力を引き出して、いわゆるセルフアドボカシーと申しますけれども、そのような力を引き出すことによって、御本人が自ら自分の言葉で医療従事者の方に自分の意見や気持ちを伝えたりしやすくなるというような効果が期待されるのではないかというふうに考えております。
○川崎委員 御説明ありがとうございます。大変分かりやすいお言葉で説明をいただきました。ありがとうございました。引き続き藤井参考人にお伺いいたします。今回の法案では、メンタルヘルスに関する相談支援を身近な市町村で受けられるような改正法が、盛り込まれております。市町村では、子育てや介護、生活困窮等、各分野の相談支援が現在行われておりますが、メンタルヘルスに関する市町村の取組の重要性について、こちらも、研究班の代表として地方自治体のメンタルヘルスの相談支援について御検討に携わられていた立場からお話を聞かせていただければと思います。
○藤井参考人 御質問ありがとうございます。この点につきましては、先ほどの岩上参考人からのお答えに重複するところもございますけれども、市町村では、今御指摘のように、母子保健でありますとか、生活困窮者支援でありますとか、高齢者の支援でありますとか、ライフステージに沿ったような形で、様々な生活課題についての支援が、支援体制が今構築をされております。さらには、改正社会福祉法の規定に基づく重層的支援体制整備事業のようなものも行われつつありますので、そのような形で住民支援が行われていますけれども、その中で、非常に重要な視点として、メンタルヘルスがございます。これは、どなたでもメンタルヘルスの不調を抱える可能性があるということ、さらに、生活上の困難、生きづらさとメンタルヘルス不調というのは非常に密接な関係がございまして、例えば、経済的に困窮すれば誰でも精神的な不調になるというのは非常によく経験されることだと思いますし、想像に難くないと思います。ですので、生活上の課題とメンタルヘルスの支援というものは切り離して考えること自体が難しい、それは無理であるということです。これは、保健師さんの活動を思い浮かべていただければ非常によく分かると思うんですが、市町村の保健師さん、家庭を訪問されたりとか、様々な支援の中で、赤ちゃんから御高齢者の方まで世帯ぐるみに支援をされているわけです。その中では、メンタルヘルスの課題というのは必ず出てまいります。ですので、現時点でも、市町村の職員の皆さん、特に保健師の方々は、精神保健の支援だと明確に意識をしないままにメンタルヘルス支援を行っている状況だと思います。ただ、状況によっては、メンタルヘルス支援が、専門的な支援が必要とされる場合がありまして、その場合に、なかなか保健師の方が精神医療の専門職に相談ができなかったり、あるいは必要な連携が取れなかったりというような状況もございますので、生活に密着した課題であるメンタルヘルス支援を市町村の業務としてしっかり位置づけることによって、そのような住民支援の質の向上でありますとか、様々な支援の制度のはざまに陥るような方がこぼれないようにするというふうな効果も期待できるというふうに考えております。
○川崎委員 ありがとうございました。私、昨年、初当選をさせていただきました。今回のこの法案に携わらせていただくに当たって、現場からも様々な御意見をいただきました。引き続き、現場の、地元の皆様が様々な支援を受けられるように私も精いっぱいヒアリングを続けてまいりますので、また皆様からの御指導のほどよろしくお願いします。質問を終わります。ありがとうございました。
○三ッ林委員長 次に、早稲田ゆき君。
○早稲田委員 立憲民主党の早稲田ゆきでございます。今日は、参考人の皆様方には貴重な御意見を賜りまして、心から感謝申し上げる次第でございます。また、日頃より、JPAの辻さん、そしてまた日弁連の池原先生には御指導を賜りますことを心から感謝を申し上げます。本来ならば皆様に御質問させていただきたいところでございますが、時間の関係もございますので、桐原参考人に伺わせていただきます。よろしくお願いいたします。二〇一六年に、神奈川県の相模原市の障害者施設津久井やまゆり園で、大変多くの犠牲者を出した痛ましい事件がございました。安倍政権下では、措置入院歴がある精神障害者が起こした犯罪ということにフォーカスをしまして、入院措置解除後のフォロー、支援計画、それからまた監視を強める内容、これを都道府県に義務づける精神保健福祉法改正案を二〇一七年に参議院に提出をいたしました。先ほど桐原参考人からもお話がございましたとおりですが。その改正内容が精神障害者の人権を著しく侵害するおそれがあるとして、参議院では徹底した議論が行われ、そして最終的に廃案となったわけです。このことについても伺いたいと思います。この五年前に出た法案について桐原参考人の評価と、それからまた、参議院での議論を踏まえて、その後五年間、厚生労働省の取組、さらには今回の法案改正について、どのような評価をされているでしょうか、伺います。
○桐原参考人 ありがとうございます。廃案になった精神保健福祉法改正法案は、措置入院の運用の協議と退院後支援が規定されています。退院後支援は、津久井やまゆり園事件の再発防止策を契機としたものであり、精神障害者と犯罪を結びつける偏見が助長されて、医療現場が治安的にゆがめられてしまわないかと憂慮する声が高まりました。廃案になってからは、措置入院の運用に関するガイドラインと、地方公共団体による精神障害者の退院後支援ガイドラインという二つのガイドラインで運用される運びとなりました。退院後支援ガイドラインは、法案審査での指摘を反映して、医療保護入院や任意入院を対象としています。しかし、この五年で整備された、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築推進事業と診療報酬では、措置入院者の退院後支援だけを対象としています。また、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築支援事業により作成された、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築のための手引き二〇一九年度版には、退院後支援のモデル事例として鳥取県の取組が紹介されています。鳥取県措置入院解除後の支援体制に係るマニュアルは、精神保健福祉法改正法案の廃案になったものに則していて、治安的な印象を否めません。冒頭には、津久井やまゆり園事件を受けて作成されたとも書かれています。運用ガイドラインに規定された協議の場には、困難例という表記でグレーゾーン対応が残っており、退院後支援ガイドラインも、個別支援の警察参加を例外的に認めています。私は、検討会において、警察の参加しないことへの確認を求める意見を出しましたが、結果として退けられました。このことから、五年前と比較して改善された事項もありますが、今回の法案では解決されなかった課題も残されているものというふうに考えます。総括所見に基づき、関連法制度の見直しを始めとする必要な措置を講じることが不可欠であると考えます。
○早稲田委員 改善された部分もあるけれども、課題もまだたくさん残っているということを理解いたしました。それでは、閣法の五本束ね法案と一緒に並行審議をしております議員立法について伺います。重度訪問介護を就労と就学に拡大するこの議員立法について、参考人の評価をお尋ねいたします。
○桐原参考人 重度訪問介護を職場や学校で使えるようにすることを目指すとしたものであって、成立を強く望みます。特別事業については、使いにくさが指摘されており、実績も九十二名にとどまります。しかも、約半数は自営業で、そのうち決して少なくない数が介護事業所の管理者です。彼らは、所得を得るために事業所を立ち上げたのではなく、地域の介護体制が不十分であることから、地域生活を続けていくために自ら事業所を立ち上げて、利用者兼管理者になっています。それでも、重度障害者が事業所の管理者になることは社会参加の一つだと思います。しかし、管理者には常勤義務があって、それに相当する時間は、所得の有無に関係なく就業しているとみなされて、重度訪問介護の支給が認められないという問題が各地で生じています。管理者を辞めて社会参加の機会を失うか、管理者を続ける代わりに、特別事業と重度訪問介護のそれぞれの請求事務の負担を負うか、その二択を迫る状態になっています。加えて、重度訪問介護は、見守りを中心とした唯一の制度であり、介護保険では提供できないサービスのはずですが、重度訪問介護のニーズに対して介護保険を優先して適用する自治体が散見されます。例えば、要介護五に該当しないと支給決定しないという自治体もあって、介護保険優先原則によって重度訪問介護の利用が妨げられています。また、ALSなどの場合は症状が進行するため、申請時と支給決定時で障害の状態が違うので十分対応できていないし、精神障害の場合は、認定調査というのをやるんですけれども、その項目が対応していないため、見守りのニーズがあっても重度訪問介護の利用はできないといった問題があります。まだまだ必要な人が使えていないという問題はありますが、この度の法案は大きな前進であるというふうに考えています。
○早稲田委員 ありがとうございます。成立を目指して頑張ってまいります。それから、検討会の議論の運びについて伺いたいと思います。精神病院における身体的拘束について、検討会のメンバーとして御参加の桐原さんですけれども、参考人に伺いたいのは、検討会の報告書に、不適切な隔離、身体的拘束をゼロにするための取組として、大臣告示第百三十号の第四章、身体的拘束の対象となる患者については、不穏及び多動が顕著である場合ということがございまして、これについての改正についてですが、この改正後の文章はどのように提案をされて、そしてまたどのように報告書に記載をされたのでしょうか。
○桐原参考人 当初、私たちが不穏及び多動要件というものの削除を提案しました。事務局である厚生労働省からは、削除できないというふうに言われて、ほどなくして改正という方向になっていきました。改正後の要件の文案は、特に検討会には議論していた経緯とかはなかったと思うんですけれども、ある日突然、事務局から出てきました。聞くところによると、水面下で日本精神科病院協会の提案を受けて、事務局が起案したもののようでした。検討会の席上では何度も、反対意見や修正意見が出されたんですが、最後まで、表現を変えて同様の文言が残ったということです。
○早稲田委員 水面下でというお話もございましたが、事務局が関連団体にヒアリング、調整をするということはあり得ると思いますけれども、その検討会で反対意見が出ていたにもかかわらず変わらなかった理由をどのようにお考えでしょうか。また、これ以外にもそうしたことがあったのかどうか、また、桐原参考人以外にも異議を唱えたメンバーがいらっしゃったのかどうか、伺います。
○桐原参考人 変わらなかった理由ですが、どうも、日精協が自分たちの提案をのまなければ改正させないと言っているからだというふうに聞いています。ほかにもあったことですが、陳述でも述べたとおり、医療保護入院の将来的廃止のときがそうでした。将来的な廃止を支持する構成員というのが複数いたのに対して、修正を要求したのは、日精協の構成員、ただ一人でした。
○早稲田委員 それは大変ひどい話だと思います。これは看過できない問題だと思いますし、また、当事者参画といいながら、これが形骸化している、そういう事態はやはり改善をしなければならないと私は今強く思いました。そして、桐原参考人はこうした現状をどのように改善すべきとお考えでしょうか。
○桐原参考人 検討会には当事者を入れてほしいというふうに何度も何度も訴えて、ようやく入ることができました。合意形成に向けて建設的な議論をする場だと思っていましたが、実際は、意見を交わし合うことはほとんどと言っていいほどありませんでした。構成員のほとんどが医療関係者で、当事者委員はたった三人です。その中で意見を言うことは本当にしんどいことでした。さらに、理を尽くして意見を示してきたにもかかわらず、日精協から根拠のない理由で頭から否定され、理不尽さを感じずにはいられませんでした。当事者というのは本当に無力だなと感じました。現状を改善するためには、国会議員が、日精協を始めとするプロバイダーの意見を一方的に聞いて行動に移してしまうのではなくて、まず、プロバイダーに対して、当事者との合意形成を図るのはどうかというふうに促すことや、そのための場を確保するなど、当事者参画に実効性を持たせるための取組ということをしてほしいなと思っています。
○早稲田委員 ありがとうございます。当事者参画ということについて桐原参考人から切々と今御答弁をいただきましたが、同じ検討会のメンバーであられる藤井参考人にもこのことについて一点だけ伺いたいのですが、どのような御感想を、この検討会の運びとしてお持ちでしょうか。やはりここのところは大変重要だと思いますので、メンバーとしてお答えいただければと思います。
○藤井参考人 御質問ありがとうございます。検討会のメンバーとして、構成員として参加させていただいておりました。今回の検討会は、先ほど岩上参考人からも意見陳述の中でありましたけれども、様々な立場の方が立場を超えて話し合う場というふうに私も理解をしておりました。今回の検討会の前の検討会には当事者のお立場の方二名が参画してくださっていましたけれども、今回は三名に増えたということで、より当事者の意見が反映されやすい状況になったということは、私も非常に歓迎をした記憶がございます。先ほど桐原参考人からお話がありましたとおり、桐原参考人を含む当事者の構成員三名の方、それぞれに非常に聞くべきことの多い御意見をいただいたというふうに感じました。どうしても、まあ、プロバイダーと桐原参考人はおっしゃいましたけれども、医療従事者、福祉従事者、支援を提供する側だけの議論になりますと、当事者が、そのユーザー、実際に支援を受ける側にもかかわらず、支援者側のよかれと思っての理屈で制度ができてしまう。そこは変えていかなくてはいけないところでありまして、当事者の方が参画することに非常に意義があると考えた次第なんですが、実際に検討会での議論を伺いながら、我々がよかれと思って考えていたこと、当事者の構成員のお話を聞くと、あっ、そのような考え方もあったのかと、実際に支援を受ける方はこのように感じておられるんだということを、その場でお伺いして、その都度、考えを改めたり、自分の不明を恥じたりしたようなこともございました。それらの意見をどの程度反映されたかというのは、なかなか、実際のところ、十分に反映されたとは言い難い部分もあったかと思います。これは、私が構成員として参加していて、私が出した意見ももちろん全てを採用されたわけではございません。ですので、全て採用されたわけではないというのは構成員全員が感じているところだとは思いますけれども、当事者が参画してその意見をしっかり取り入れるというプロセスが、まだこの日本では十分に機能をしていないという側面は否めないかなと思います。これは、検討会だけではなく、この国会の場だけではなく、医療の現場であったりとか、地域の協議会であったりとか、様々なところで今、当事者の参画ということが進められていますけれども、そのプロセスというのはまだ発展途上であるというふうに感じております。ですので、いかに当事者の意見を取り入れて、それを政策に反映していくかということは、検討会での反省も含めて、これからもっと検討していかなくてはならないことだと思います。そのためには、検討会であるとかこの国会であるとか、いわばフォーマルな場だけで当事者の意見を聞くというのでは不十分だと思います。臨床現場でもケアサポーターの方の参画というものが進んできておりまして、私どももケアサポーターの方からたくさんのことを教えていただきます。私は研究者の立場でもありますけれども、研究の場でも当事者の方に参画をしていただいて、非常に有用な御意見をいただいているところです。様々な場で当事者の方が参画することを通じて、最終的に、このような、いわゆる平場と言われるようなフォーマルな場で当事者の方がしっかり発言をして、それをどのように適切に取り入れていくかということを今から更に進めていかなくてはいけないと思います。余り答えになっていないかもしれませんけれども。
○早稲田委員 藤井参考人、ありがとうございました。深い御考察を教えていただきました。まだまだ当事者参画が進んでいないことは否めないとおっしゃいましたけれども、その点も踏まえまして、また、皆様の御意見を踏まえて、審議に十分生かしてまいりたいと思います。これで質問を終わります。ありがとうございました。
○三ッ林委員長 次に、池下卓君。
○池下委員 日本維新の会の池下卓です。本日は、参考人の皆様、早朝から当委員会にお集まりいただきまして貴重な御意見をいただきまして、本当にありがとうございます。また、今回の法案、束ね法案ということでありまして、本日は精神関係の質問が多いなと思っておりました。私の方からは、一方、大変重要であります難病についてお伺いをしていきたいと思いますので、辻参考人の方に御質問させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。まず、今回の難病法の改正につきまして、原則五年、これを目安にこれまで行われていくということで、関係者の皆さんから大変期待も多かったわけでありますけれども、実際には七年の歳月というものがかかってしまいました。コロナの関係ということも多分にあるかと思いますけれども、改めて、参考人の方から、今回の法改正の遅れにつきまして、患者さん、そして当事者の皆さんからの御意見、これをお聞かせいただけたらと思います。よろしくお願いします。
○辻参考人 御質問ありがとうございます。難病法は、その制定の基本理念や基本的認識に従い、また、当時、多くの未指定の患者団体、それから超過負担となっている都道府県、こちらの方からの要請もあって、どちらかといいますと、大急ぎで作った法案という印象もあったかと思います。その意味で、附帯決議ですとか五年以内見直し、こういうものがついたと思っておりますので、そういう意味で、患者も参加して国民の皆さんの理解を得て作った法律なので、よりよくしていこうという気持ちは、患者ももちろん、医療者、行政の方にも大変強いものがあったというふうに考えております。疾患数も三百三十八まで増えましたし、運用のできる部分では、皆さんが努力していただいて、改善してきたと思うんですけれども、今回のポイントは、法の改正なしではかなわないものであり、本来カバーすべき部分であるのにカバーできなかった、例えば遡りの部分、また、本来、支援や研究開発に利用すべきだった軽症者の部分を登録証でなどの、議論を重ねた重要な点を改正する部分と考えておりますので、残念ながら、コロナの影響で二年以上、ひょっとすると三年は延びてしまうのかなというふうに思いますけれども、何とか速やかに実施していただきたいというふうに思っております。
○池下委員 ありがとうございます。経緯と、そして生の声を聞かせていただきまして、本当にありがとうございます。政府は、必要があると認めるときはその結果に基づいて必要な措置を講ずるものとするということで返してくるときもあるんですけれども、これを盾に取って、変えていかない、実際にやっていかないということでは、本当に駄目だと思っておりますので、我々も国会の立場からしっかりとこれを注視していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。そして、次に、今回の難病法改正の中身についてお伺いをしていきたいと思います。今日の話にもありましたけれども、医療費助成の開始時期の原則が一か月遡り、また、難病を抱える方への登録証の発給など、一見すれば、これまでの患者団体さんの御要望が反映された形に見えるかと思いますけれども、一方、やはりまだまだ、実際には、皆様の御要望とずれが生じているんじゃないかというお声も聞かせていただいているところであります。その点につきまして、辻参考人の方から御意見を聴取させていただければと思います。
○辻参考人 御質問ありがとうございます。遡りにつきましては、多くの難病が、重症化の際の早期治療をカバーするものとして、例えば、もやもや病などは、すぐに脳内出血が起きてしまう、早急な手術が必要な場合が多い、こういうふうに聞いておりますし、多くの自己免疫疾患では、その症状、重症化した症状を一気に抑えるために、血液製剤ですとか分子標的薬の投与でまずは抑え込むということが早急に必要になります。気になりますところは、やはり、一か月というところでございまして、遡り期間のところです。診断確定や重症化や再発などで気が動転している中で、患者や家族が治療とその医療費助成の申請をしなければならない、医療機関の診断書、いわゆる臨個票はまだかまだかというような、待っている患者の状況を少し理解をしていただければというふうには思っております。そういう点で、一か月というのはちょっと短いなというのが本音のところでございます。登録者証におきましては、今回、マイナンバーカード連携というところがつけ加えられております。この件は、難病対策委員会の意見書にもなくて、少しというか、大変不安を感じているところです。理由は主に三点ございまして、一点目は、国民の皆様が感じているものとほぼ同じと思いますが、マイナンバーカード自体、それから健康保険証との連携などについて感じている不安と同じものでございます。二つ目は、希少な疾患ということで、どうしてもまだ理解がされにくい、差別につながりやすいというものですので、より高度な保護をお願いしたいと思っているところなんですけれども、今回は、どのような情報が連携されるのか、どうやってきちんと保護されるのか、説明がなくて、よく分からない、こういう状況です。三点目は、難病患者は、障害者でもあり、病気を持つ者でもあります。障害者の方で、例えば手帳のマイナンバー連携をどうするのかという議論が行われているのかどうか。それから、他の医療費助成、例えば障害者の、例えばHIVですとかの医療費助成ですとか自立支援医療、あるいは原爆被爆者の医療などをどうするのか等を議論し、そこら辺での議論の上で決めていくのが先ではないか。それに従って、難病の特性を踏まえてどうするのかを決めるべきと思いますので、そういう意味でも、慎重に進めていただきたいというふうには思っております。
○池下委員 ありがとうございます。もやもや病のお話もしていただきました。医療費助成について、やはり医療現場のずれ、また生活の現場とのずれというのも感じましたし、また、マイナンバーカードにつきましては、私も予算委員会の方でもこの安全性について質問させていただきましたけれども、医療における個人情報の漏えいについては特に厳格に監視していかなければいけないと思いますので、引き続き議論していきたいと思います。次に、難病患者の当事者参加についてお伺いをしていきたいと思います。今回の難病法の改正におきましても、患者団体さんからも御意見をいただきながら進めていったと聞いておりますが、一方で、国の重要な医療制度を決めていく際に、当事者である患者団体さんの声が反映されていないというケースも聞き及んでいます。そこで、辻参考人にお尋ねいたしますけれども、難病等を抱える患者さん、当事者が、具体的にどのような検討会や審議会に参加することに、国の医療政策において効果があるのかというのを一点お伺いしたいと思います。また、そのような専門的な検討会におきまして、患者さんが当事者として参加されるに当たりまして、準備といいますか、それまでのやり方といいますか、そちらの分の用意というのができているのかについても併せて、二点お伺いをしたいと思います。
○辻参考人 ありがとうございます。難病対策委員会を始め、ゲノム医療の進展に関する委員会等、難病患者もしっかりと参加できているところはあるんですけれども、例えば、最近は限られて傍聴ができることになりましたが、指定難病委員会、指定難病を決める委員会ですね、こちらの方で患者の生活の困難度なども決めているようでございます。生活の困難度の議論を医療者だけで決めていいものか、あるいは決められるものなのかというのは素朴な疑問としてございます。また、先ほども述べましたとおり、地域における障害者関係の協議会、これには障害者の範囲に入っているんですけれども、難病患者が入っている例はほとんど全く聞かない、こういうような状況です。国の障害者関連の委員会にどこまで参加できているか、ちょっと調べていないので分かりませんが、そういう点からも疑問が少しございます。そういう意味では、病気を持つ者、難病患者に限らずですけれども、例えば中医協ですとか、そういうところに市民が参加できているのかどうか、まあ労働組合さんなんかは参加しているということですけれども、患者若しくは市民として参加する必要があるのではないかと強く思っております。しかしながら、意見を言うべき難病の患者団体は、私どもも含め多くは、人、物、金が貧困でございます。JPAは、欧米の同様の団体の十分の一にも二十分の一にも満たないという財政規模であります。貧すれば鈍するということで、患者側も成長しなければいかぬというふうに思っておりますが、欧米では、政府が、患者をそのような委員会に出せるように、あるいは研究に貢献できるように育成プログラムをしっかり立てているというふうにも聞いております。健全で目の肥えたユーザーがおりませんと、業界は発展せず、例えば衣食住でもエンターテインメントにしても、そのようなユーザーがいないところでは他国との競争に負けてしまうというところは必然でございますので、患者、市民参加はもちろんですけれども、そのための土壌づくりにつきまして皆保険制度の中で何ができるのかというところを、国の重要な方針として考えていただきたいというふうに思っております。
○池下委員 ありがとうございます。医療関係につきましては、やはり科学的な見地からという視点が非常に重要になってくるかと思いますけれども、ただ一方、やはり、障害を持つ方そして難病の方といいますのは自分たちの生活があるわけですから、この生活の質の向上を考えるときに当事者の皆さんの御意見というのは非常に貴重なものになってくるかと思います。それがなかったら、やはり、仏を作って魂を入れずということにもなりかねませんので、しっかりとそちらの方、御意見を聞かせていただきました。次に、難病患者の就労環境について、最後、お伺いをしていきたいと思います。私もちょっと難病を持っている一人なんですけれども、難病を抱えながらも普通にお仕事を続けておられる方や、また、突然、難病を発症した方も多くいらっしゃいます。そういう中で、就労環境というのは非常に重要になってくるわけですけれども、難病を抱えられている方がその治療のため一定期間、仕事を休まなければならなかったり、それを理由に希望する部署から異動させられたり、若しくは解雇をされるようなケースはあったりするものなのでしょうか。私はやはり、雇用側、そしてもう一つ職場の仲間、こういうとこら辺にも難病に対する認識と理解というものが非常に重要だと考えておりますけれども、制度面も含めまして、辻参考人から御意見を伺いたいと思います。
○辻参考人 御質問ありがとうございます。難病法だけではなくてそのほかの法律にも関係するところですので、いろいろ御調整も大変かと思いますけれども、難病患者の就労課題につきましては、前に述べましたとおり、ほとんど解決できておりません。難病を発症すると入院などをしなければならないので、会社や企業などにはそこで分かってしまうわけなんですけれども、そういう場合が多いわけなんですが、現状では、病気を隠していらっしゃる難病患者さんは約四割に達しております。手帳を持たない患者さんも、難病患者は約半分と言われておりますので、彼らのニーズに合った、利用できる支援制度やそれから支援機関はほとんどないというのが現状です。法定雇用率への算入は難病患者の望んでいるところで、現在、JEEDさんによる調査も行われていますが、残念ながら、症状が軽いとか重いにかかわらず、難病患者の就労の一律の困難性の原因は、現状の制度と社会の側にあるのではないかというふうに思っております。社会に理解されにくい希少な疾患を持つ難病患者が、新卒を含む就職については、法定雇用率が最大の効果を生むと考えておりますが、途中で発症するなど、就労継続については雇用率以外にも有効な方法があると考えています。これは難病患者に限ったことではなくて、がんなど病気を持つ者全般に言えると思うのですが、例えば病気の休暇、短時間労働、それから治療と仕事の両立支援、この三つだけでも、本人にも企業にも大きなメリットが生まれると考えております。さらに、この三つと補助金や助成を組み合わせることで効果は更に上がるのではないかと思っておりますが、企業の任意の取組であるですとか、縦割り行政などによって、なかなか推進が難しいところでございます。同僚や上司はもちろん、経営の方にも自分が病気であるということが伝わっていると、本人の働きやすさというのは格段に上がることが調査で分かっております。病気を隠して無理をして体調を壊して退職するという話は、本当に今でも絶えません。障害者として、また病気を持つ者として、病気を開示して周囲の理解を得て治療と仕事の両立を図って、本人にも企業にもよりよい結果が出るような難病患者の就労支援の制度設計と運用を今後しっかり望んでいきたいというふうに思います。以上です。
○池下委員 ありがとうございます。非常に状況が分かりました。私も心を打たれるところがあります。まさに治療と仕事の両立を図れるような仕組み、しっかりとつくっていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。以上で質問を終わります。ありがとうございました。
○三ッ林委員長 次に、佐藤英道君。
○佐藤(英)委員 公明党の佐藤英道です。参考人の先生方、本日は、お忙しい中、大変にありがとうございます。まず、藤井参考人にお伺いさせていただきたいと思います。国連障害者権利委員会の対日審査の総括所見におきまして、障害者の強制入院による自由の剥奪を認める全ての法的規定を廃止すること、精神障害者の強制的な扱いを正当化する全ての不当な法的規定を廃止することなどが指摘されました。このような指摘への受け止めと今後の対応について、藤井参考人の御意見を伺いたいと思います。
○藤井参考人 御質問ありがとうございます。この点、先ほどの意見陳述で述べましたとおり、精神科臨床における極めてセンシティブかつ重要な課題であると受け止めております。国連の障害者権利条約の勧告をまつまでもなく、非同意による入院というのは最小限度にとどめるべきということ、これは関係者の異論がないものというふうに考えております。私は、精神保健指定医の立場でございますので、非同意入院を行うときの判断をしなければならない立場にもあります。非同意入院の判断をするというのは非常にジレンマを伴うものでございまして、実際に入院をしたくないとおっしゃっている当事者の方のその意思を覆して、それでもこの方の健康や生命あるいは生活を守るためには非同意入院しかないというぎりぎりのところで、医療資源でありますとか御本人の価値観でありますとか、自分自身の専門家としての判断、あるいは治療の可能性、治療の必要性に関してのエビデンス等々を総合的に勘案して判断しなくてはならない、極めて重い判断でございます。正直申し上げて、できれば非同意入院の判断はしたくないとも思うわけですね。当然、医師であれば、患者さんの同意を得て治療をしたいと思うわけです。ですので、できることなら、可能な限り非同意の入院は減らしていきたいし、そのような局面に至らないように、入院の必要性に至らないような早期の支援を提供できるような体制をつくっていくということがまずは重要だというふうに考えております。その上で、先ほど桐原参考人からもお話がありましたけれども、この法改正に係る検討会の中で、医療保護入院の廃止ということが当初出されました。それに関しては、非常な混乱があったと私自身は考えております。というのは、先ほど桐原参考人がおっしゃっていたように、非同意入院ということと医療保護入院ということがほぼイコールで語られていたというところがあると思います。実際には非同意入院イコール医療保護入院とは限らないわけなんですけれども、私ども、医療現場で非同意入院の判断をする立場にいますと、非同意入院イコール医療保護入院ということがほとんど固定観念のようにインプットされております。ですので、医療保護入院廃止ということが前面に出たときに、イコール非同意入院の廃止というふうに自動的に捉えてしまう方は多いかと思います。その点を踏まえて申し上げますと、私自身は、非同意入院は、時によってはどうしても避けられないことはあるというふうな立場でおります。現行の医療技術でありますとか支援の状況を見て、非同意の入院以外にはその方の利益を守る方法がないという局面は、ここで具体的なケースを挙げることは適切ではございませんので控えますけれども、そのようなケースは臨床現場では多々経験するもので、先ほど申し上げたとおり、重い判断であるけれども判断しなくてはならないというのは、医師としての責任において行わざるを得ない局面というものはございます。ですので、全面的な廃止というのは、現時点では、非同意入院ですね、それは厳しいというふうに言わざるを得ないと考えております。ただ、まだまだ削減できる余地はたくさんあると思っておりますし、そもそも入院に至る前の適切な支援、その支援体制の構築というものは、まだこれも発展途上と考えております。精神科医療でいえば、入院医療に比べると、外来医療の体制というのはまだ脆弱でございます。本来であれば多職種で支援をしていくべきようなところであっても、なかなか多職種支援に対して診療報酬上の手当てがまだ不十分です。徐々に改善されてきておりますけれども、例えばケースマネジメントをしっかり行うということが包括的支援においては重要なんですけれども、多職種によるケースマネジメントを十分に行える体制にはないということでありますとか、そのような点に改善の余地もありますし、できるだけ支援を必要としている人に早期に支援を届けるためのアウトリーチの体制、そのようなものもまだ不足をしております。まずそういう体制をきちんと整備をしていくということが必要です。さらには、今長期に入院されている方の中には、実際には地域で生活できる方もたくさん含まれていると思いますけれども、住まいの手当てができないであるとか様々な理由で入院されている方がいらっしゃる。それをできる限り解消していくということは、引き続き全力で取り組んでいかなくてはいけないと考えております。以上でございます。
○佐藤(英)委員 次に、岩上参考人にお伺いします。ただいまの国連障害者権利委員会の総括所見では、精神科病院や入所施設からの地域生活への移行が進んでいないとして、障害者が地域で自立した生活ができるよう政府の予算配分を変えるべきとの指摘もなされているところであります。このような指摘への受け止めと、今後、地域生活への移行を更に推進するためにどのような取組が重要と考えているのか、精神障害者の方々の地域生活の支援に取り組まれている岩上参考人の御見解を伺います。
○岩上参考人 御質問ありがとうございました。まず、総括所見についてでございますけれども、非常に重要な指摘を受けていますので、先ほども申し上げましたように、適切に議論を進めていく必要がある。その際に、今、入院されて一年未満で退院される方が大体九割なんです。ここが一年に移行しますので、そこの部分の対応もきちんとしていかなくてはいけないということと、病床の在り方等も議論が必要だというふうに認識しています。また、今御質問いただきました、施設や病院からの地域移行についてどこに力を入れるべきかということについては、今回、地域生活支援拠点でコーディネーターを配置して地域移行に携わるといった方向性が示されておりますので、そこは非常に重要だと思っています。私は、精神障害については粛々と地域移行は進めていけると思っています。そのための手だてをいろいろ打っていただいている。むしろ、施設からの地域移行についてもきちんと議論が必要で、施設関係者の皆さんは、やはり、地域でなかなか暮らせなかった方を幸せにするのが自分たちの使命だというふうな認識をされておりますので、その辺りは、その中で、地域で暮らすことを望んでいる方がいるということを、施設にも地域移行を進める職員を配置し、地域の側でも拠点にコーディネーターを配置して、ここが連携することによって地域移行は進めることができる。そのためには、先ほど申し上げましたように、財源的な措置も必要ではなかろうかと考えている次第でございます。以上でございます。
○佐藤(英)委員 次に、難病関係について辻参考人にお伺いします。本法律案においては、医療費助成の基準を満たす指定難病患者さん等について、医療費助成の開始時期が、申請日から、重症化と診断された日に前倒しをされます。まず、医療費助成の開始時期が前倒しされることについて、患者さん方の受け止めについて、辻参考人のお考えをお聞きしたいと思います。それからもう一問、本法律案におきまして、指定難病の患者さんや小児慢性特定疾病の児童の皆さんたちがデータベースに臨床データを登録した際に、地域における自立した日常生活の支援のための施策を円滑に利用できるようにするために都道府県などが登録者証を発行することとしておりまして、登録者証の交付対象者は、指定難病患者については軽症者も含めて全員を対象としております。登録者証が普及することで期待される効果や交付対象者の範囲について御意見を伺いたいと思います。また、データベースについては、法的根拠を新設し、医療費助成の申請をしていなかった軽症の指定難病患者についてもデータ登録をすることとしております。このデータベースが充実することで期待される効果について、辻参考人の御見解を伺いたいと思います。
○辻参考人 御質問ありがとうございます。まず、前倒しにつきましては、先ほども申し上げましたとおり、非常に濃厚で高額な治療をやって早期に重症化を抑えていくというところは、医療従事者につきましても患者につきましても同じような認識を持っております。そういう意味では、すぐに治療開始できる。例えば血液製剤などですと、一回の治療に百五十万ぐらいかかるということになりますので、そういう意味では、そこでちゅうちょをさせないという意味でも、是非、確定診断が助成の開始時期となるようにお願いしたいと思っております。実際に、私も娘のときに、全身性エリテマトーデス、大分腎臓をやられまして、すぐにパルスを行わなければいけないということで、すぐにパルスを行ったわけなんですけれども、当然臨個票は後から出てくるわけで、当初の助成は全く間に合いませんでした。そういう意味でも、遡っていただくことは非常にありがたいですし、法の趣旨にかなっているというふうに考えております。一か月というのが適当かどうか、これについては、省令で決めるということですので、更に議論をしていただきたいなというふうには思っております。続きまして、データベースの登録につきましてですが、今回、今まで医療費助成を受けていなかった者も登録される、登録できるということでございますが、実は、難病法が成立して三年経過措置ということで、今まで医療費助成を受けて対象になっていた方がどなたでも一応継続するという形の経過措置が取られました。その三年後どうなったかといいますと、約十五万人ほど受給者が減っております。要するに、軽症で重症度基準に満たなかった方たちが約十五万人以上、新規の方が毎年五万人ぐらいいらっしゃいますので、予想としては二十万人ぐらいがそこで抜けているわけです。その方たちが重症化した際の利用の迅速性、それから、その方たちのデータベース、医療データが全く活用されなくなったというところは、福祉の点からも医療の点からも、非常に残念なことだというふうに思っております。今回、そのような方が是非登録いただきまして、医療の、特に重症化を抑える、あるいは根治療法につながる軽症者のデータを活用できるという点は、非常に医療側としても評価が高いというふうに聞いておりますし、さらに、最後の御質問がございましたけれども、登録することによって福祉のサービスが非常に利用しやすくなる、あるいは、今ある制度だけではなくて、官民含めて登録者証による福祉サービスが広がるということも期待できますので、そういう点につきましても、是非患者側も協力して、データベースへの登録、それから登録者証発行への協力をしたいというふうに考えております。以上でございます。
○佐藤(英)委員 貴重な御意見、ありがとうございました。終わります。
○三ッ林委員長 次に、田中健君。
○田中(健)委員 国民民主党の田中健です。今日は、参考人の皆さん、朝からありがとうございます。早速質問をさせていただきます。まず、桐原参考人に伺いたいと思います。今回の障害者権利条約に基づく国連の総括所見では、精神保健福祉法に基づく強制入院や無期限の入院の廃止という勧告が出ています。この精神保健福祉法に基づく入院についてはどのように改善していけばよいと思っていらっしゃるか、検討会に出られて、また、対日審査にも参加をした当事者の立場からお聞きをさせてください。
○桐原参考人 精神科医療は一般医療から隔絶された政策体系に位置づいており、その中心に精神保健福祉法が存在しています。このような政策構造を変更させずして精神保健福祉法のマイナーチェンジを繰り返しても、問題の解決にはならないと考えます。例えば、精神科医療は地域医療構想や病棟機能報告制度の対象外とされていて、新型コロナウイルス感染症対策をめぐっては、一般医療との連携ができずに、多くの、市中感染の六倍の死者を出すに至りました。地域医療構想と病院機能報告制度は医療の可視化に資するものですが、精神科病院こそ最も求められている科の一つではないかと思います。入院制度については、非自発的入院だけではなく、任意入院も極めて問題があります。任意入院は長期入院の温床となっている嫌いが否めません。任意入院は、精神障害者本人の同意による入院とされていますが、任意で入院しても、任意で退院できない制度となっています。任意入院できないけれども入院の必要性がある人は医療保護入院、同意をしたら任意入院、同意をしなければ医療保護入院と、結局は入院することになるわけです。そのため、実態としては、任意と称して事実上の強制的な入院のようなケースも散見されます。むしろ、医療保護入院のようなチェック機能が存在しないため、半ば無法化しているような状態の病院もあります。中には、任意での入院が長期化している病院や、八割が死亡退院というような病院もあります。一般医療での自由入院とは性格が異なる制度ともなっています。
○田中(健)委員 ありがとうございます。精神福祉法の課題、これは委員会の中でも議論をしておりますけれども、その現実、また、今、任意入院の現実についても、また課題についてもお聞かせをいただきました。しっかりとこれについても議論していきたいと思っています。引き続きまして、桐原委員にお聞きしますが、医療計画と障害福祉計画について。今回の国連からの障害者権利条約の勧告を踏まえ、この医療計画と障害福祉計画、どのようにこれを反映をさせていけばいいのか、当事者の立場からまたお聞かせいただければと思います。
○桐原参考人 国連からの勧告を実現するには、精神障害を理由として、精神障害者だけを切り離して特別な枠組みで扱うこととしている精神保健福祉法の廃止が前提となります。このことを確認した上で進める必要があると考えます。医療計画と障害福祉計画の話が出ました。この関係は、障害福祉計画が、いわば、岩上参考人からも話があったように地域移行とかそういう出口の部分なのに対して、医療計画は、入院していく人たちの病床とかを定めています入口のものと言ってもいいと思います。医療計画には、精神科医療を一般医療と同質のものという位置づけで基準病床算定式を定めて、地域医療構想によるダウンサイジングを行い、非同意入院のゼロ化に向けて指標例を定めるべきであると考えます。障害福祉計画は、総括所見に書かれた漸進的措置に関わる勧告の内容について、具体的な数値目標を掲げていくような形が望ましいと考えます。精神障害の場合は、一年以内退院を九二%とする目標値が現行の計画に立てられていますが、言い換えれば、新規入院者の八%が長期入院になるという計算ということになります。十二人中一人が一年以上長期入院するという目標値、これは見直されるべきだと思います。より積極的に病床を削減して地域移行を進めるとともに、訪問系サービスを充実させる必要があります。特に、長期入院の見守り介護が可能な重度訪問介護を精神障害者にも利用しやすくすること、精神科病院に入院中でも申請や利用を可能にすることが求められます。それから、障害当事者として、ピアサポートの活動が重要であると考えます。研修のシラバスなどをブラッシュアップしていくことを通じて、多様なピアサポート活動が評価されるようにしていくことが望ましいと考えます。
○田中(健)委員 ありがとうございます。精神科病院の病床数の話も出ました。これが多いことは大変に課題であるということは、もうこの委員会でも議論が出ていますし、国内外からも批判が出ているのも事実であります。そこで、今度、池原委員にお伺いをしたいと思うんですけれども、先ほど医療保護入院の話がありまして、今回、家族同意なしでも市町村で入院の判断ができるということでありまして、弁護士会としましては、これが適用拡大につながるんじゃないかということを御提言いただきました。これは前回の委員会でも議論になった話であるんですが、大臣は、医療保護入院が増えるとは一概に言えないと、一言この答弁をしました。私は、この根拠は何なんだろうということを午後の委員会でも質問をしたいと思うんですけれども、先ほどお示しいただきました、精神医療審査会のチェック機能が働かないと。さらには、市町村同意においても不同意になった数というのは把握していないと厚労省は言いまして、更に言えば、入院患者に対する面会、これによってどのような変化が起き、退院につながったのか、こういった各自治体や市区町村のデータもないと。それにおいて一概に増えると言えないという発言が、私はとても整合性もないし理解ができないと思っておるんですが、これについて、池原参考人として、どのように御理解し、また課題があると思っていらっしゃるか、お聞かせください。
○池原参考人 御質問ありがとうございます。資料でお配りしていますように、市区町村長同意というのはとかく形骸化しているということが古くから指摘されているところで、その後、ここ数年間の調査というのは正確にはなされていないので、いわば、家族が同意できない場合に市区町村長の同意を代用するというか、そういうことにすることが立法事実として妥当なのか、許されるのかということは、今のところ分からないということになってしまうわけですね。だから、そこはやはり、しっかりした制度をこれからつくっていくのであるとすれば、基本的には厚生労働省なりでその前提事実をしっかり調べて、市区町村長に委ねても十分制度として適正に運用できるという前提が確保できて初めてその改正が認められるということになるでしょうし、あるいは、市区町村長の同意が形骸化しているという事実が分かったら、むしろ、じゃ、どうすれば形骸化しないような市区町村長の同意の関わり方ができるのかということを考えるべきだと思うんですね。ただ、この医療保護入院について、医療者以外の人の、家族なりあるいは市区町村長なりの同意というものを要件に加えるべきかどうかということについては、前回の法改正のときに議論があって、むしろ、保護者、当時は保護者制度でしたけれども、保護者の同意を撤廃すると。要するに、医療者でない人の同意ということを前提条件として医療保護入院を運用するという制度を大幅に変えていこうという提案が、厚生労働省の検討会でもなされたところです。そのためには、逆に、同意要件が抜けるわけですから、要件がある意味では緩んでしまうので、では、どうするのかというと、理想的には、措置入院と同じような形で指定医二名の判断を大前提にするというのが一つの考え方でしょうし、あるいは、入院期間を極めて限定されたものにすると。今回の改正案では更新ができてしまうので、形の上では限定しても実質的には自動更新になってしまうという危険性が高いわけですね。だから、そういう形で医療保護入院の枠組みを狭めていくというような工夫が必要だと思います。以上です。
○田中(健)委員 ありがとうございます。もう一点お聞きをいたしますけれども、この精神科病院の病床数の中には、今言いました医療保護入院とともに医療観察法に基づく入院もありまして、この議論はまだまだ、なかなか議論が進んでいません。病床数においても当初の規定よりも増えているというのが実態でありまして、これが今減らしていこうという中にあって、現状は逆行しています。この理由を含めて、医療観察法における見解というのもお聞かせいただければと思います。
○池原参考人 ありがとうございます。御指摘の医療観察法という制度も、措置入院、医療保護入院と並んで強制入院をつくっているわけで、これはやはり権利条約の観点から再検討するということが非常に重要だと思います。ところが、残念ながら、先生御指摘のように、医療観察法における入院病床は増え続けている、入院者が増えているという実態があります。これがなぜそうなのかということについては、いろいろな要因があると思うんですね。私が一番大きな要因であるというふうに思っておりますのは、退院することが困難になっている方が少なくないという、困難なというか、別の言い方をすると、病院に滞留してしまう人がいらっしゃるわけですね。当初の、制度をつくるときは、十八か月で退院ができるようにする、一年半で治療が終わって地域に戻るというモデルで制度を構築した、それを前提にして病床数を考えたわけですけれども、実際には、やってみると、十八か月で退院できるという人はむしろ少数派で、平均すると、大体その二倍近い三十数か月は、平均の在院日数になっているわけですね。ですから、病院に残っていくという人が多いので、結局は、病院のベッドがより多く必要になるということになると思います。この病院に残ってしまう人がどうして発生するのかというと、やはり一番大きな理由は、一般の精神科と同じ、いわゆる社会的入院という現象が起こっているということですね。結局、退院した後に地域で生活する場所とか、あるいは地域で支えてくれるネットワークとか、そういうものが十分に供給されていないので、絶対量としてそれが利用しにくいということがあります。さらに、残念ながら医療観察法の退院者という方にはある種のスティグマが貼られてしまうので、地域の側がどうしても引いてしまって、そういう方の地域での生活を支えるのには特段の何か配慮をしないとできないのではないかということになって、なかなか地域の積極的な協力が得にくい、ほかの、医療観察法以外の入院者の方に比べるとそこのハードルが高いということがありますね。それからさらに、三番目は、医療観察法はかなり制度的な枠組みが、何というんですかね、融通が利かないところがあって、例えば、入院している人の退院先というのは、基本的には、対象行為を行った場所とかでなければならないということになっていまして、そうすると、退院先の地域を自由に選ぶということができないわけですね。ですから、その地域の中にグループホームなり、あるいは日中活動の場所なりが少なかったりなかったりすると、とても難しいことになりますし、まして対象行為を行った地域住民の人は、あの人が帰ってくるのは困るみたいなことを言われる方もなくはないので、なおさら退院が難しいということになります。更に言うと、医療観察法の退院というのは、裁判所の許可が必要なわけですね。裁判所の許可というと、裁判所に申し立てても数か月の時間がかかるわけです。ところが、地域の側で、じゃ、退院したらグループホームで受け入れますよと言っても、裁判所の三か月後の判断までそのグループホームの部屋を空けて待っているということはできないわけですから、裁判所の退院許可の申立て手続をしている間に入るはずだったグループホームの部屋がなくなってしまって、結局、やはり退院できないというようなことも起こってくるというようなことがあります。最後にもう一点だけ申し上げますと、入口が広がっているという点がありまして、元々、医療観察法がスタートした頃は、入院処遇というのは全体の六割ぐらいだったんですけれども、今七割を超えているんですね。だから、裁判所の判断も、原因はよく分かりませんが、入院に傾いていて、入ってくる人が多くて、出ていく人が少ないというのが一番の原因だということになると思います。
○田中(健)委員 ありがとうございます。 済みません、最後、一問だけ藤井参考人に伺います。先ほど入院訪問支援事業のお話がありました。傾聴するということ、孤独感、自尊心の低下の軽減というお話がありましたけれども、これは、入院者の人権を守るアドボケートの制度というふうに理解をしてよろしいんでしょうか。最後、お願いします。
○藤井参考人 御質問ありがとうございます。まさにアドボケートの制度と私は理解をしております。入院者訪問支援事業でアドボケート全てをカバーするものではないと思いますが、アドボケートは一定程度カバーするものと考えております。もちろん、まだまだ課題はございまして、例えば、今回は市町村長同意の方中心ということになっておりますが、もちろん、それ以外の入院の方を排除するものにはなっていませんけれども、当初はかなり限られた方に対しての制度になってしまうということがございますが、本来、このアドボケートというのは入院されている方全員に届くべきものでありますので、今後は、支援員となる方の養成であったりとか、制度を運用していきながら、よりよい制度にしていきつつ、全ての方に普及していくということが必要だというふうに考えております。ありがとうございます。
○田中(健)委員 参考人の皆さん、ありがとうございました。以上で質問を終わります。
○三ッ林委員長 次に、宮本徹君。
○宮本(徹)委員 日本共産党の宮本徹です。今日は、五人の参考人の皆さん、大変貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございます。まず、辻参考人にお伺いしたいと思います。先ほど、お話で、登録者証がマイナンバーと連携することについて不安があるということをおっしゃっておられました。具体的に、どういうリスクがあるという懸念があるんでしょうか。
○辻参考人 御質問ありがとうございます。いまだ詳細については、厚労省の説明等は受けておりませんので、ちょっと分かりかねるところもあるんですけれども、一番患者の声で多いのは、やはり個人情報のところ。疾患名でありますとか、あるいは症状の状況等がどういうふうにつながっていくんだろうか、つながらないんだろうかというところが心配の声として上がっております。疾患名を聞いただけで、例えば、行政の担当者はそうではないかもしれませんけれども、支援機関の方は、聞いたことがない難病だ、病気だ、私たちはどうしていいのか分からないとか、そういうような反応につながるのではないか、あるいは、それがもし漏れてしまったらどうすればいいのか等々、自分の疾患名若しくは症状についての保護のところが非常に気になっているというところが、患者の個人としては多いように感じております。また、先ほども申し上げましたように、障害者の方々とか、あるいは他の医療費助成を受けている方々とのバランスといいますか、そちらの方で大枠も決まっていない中で、何で難病なのというところは、難病の患者団体の方から声は上がっております。非常につけやすいところからどんどんつけていくというような方法もあるかとは思うんですけれども、そうではなくて、健康保険証との連携についても、国民の間で、できるだけ丁寧な説明が必要ではないかというような声が上がっておりますので、それ以上に配慮をしていただきたい難病関係の情報でございますので、是非丁寧な説明と、それから慎重な運用をしていただきたいというふうに思っております。以上です。
○宮本(徹)委員 ありがとうございます。続きまして、今度は辻参考人以外の四人の参考人の方にお伺いしたいと思いますが、医療保護入院の市町村長同意というのが形骸化しているという指摘が先ほどあったわけですけれども、今回それを、ある面、拡大していくということになるわけですけれども、この点について、どういう懸念があるとお考えなのか、四人の参考人それぞれの方にお伺いしたいと思います。具体的にどういう問題が起き得るのか。
○藤井参考人 御質問ありがとうございます。先ほどから話題になっておりますとおり、市町村長同意に関しては、本来であれば、事務処理要領に基づいて、市町村の職員が入院者を訪問するなどして状況を把握するということが求められているわけなんですけれども、現実には、なかなかそのような適切な対応がされていない現実があるというふうには伺っております。ですので、これをしっかりと、市町村長同意になった方に対して市町村が状況を把握していく、訪問して御本人と面談をし、本当に入院が適切なのかどうか、あるいは退院後の支援も含めて対応していくということが本来求められていると思います。ただ、現実問題として、市町村のマンパワーを考えたときに、そこまでできるのであろうかというのは非常に懸念はするところではあります。ですので、そこは、市町村長同意の要件を広げていくに当たっては、市町村がしっかりと本来求められている対応をできるような何らかの措置が必要であるというふうに考えます。市町村長同意の要件の拡大に関しましては、私どもの研究班で、調査の一部ですけれども、御家族と御本人の利害関係があり、例えば御家族から何らかの暴力であるとかDVの被害を受けている方であっても同意者に今現状ではなれるということが問題であるというような意見が多数寄せられておりましたので、現状のままの運用ではかなり厳しい側面もあるかと思いますので、法改正自体に関しては私は賛成する立場ではございますが、今申し上げたような、本来の市町村の役割が取れるように何らかの対応をしっかりとしていくということは必須であろうというふうに考えております。
○桐原参考人 今回改正される予定の、家族等が不同意の意思表示をした場合とか、そういった場合については市町村長同意になるわけですが、これは今までなかった市町村長同意の層をつくり出すわけなので、医療保護入院が増えていくのではないかということを懸念しております。また、この制度は家族会からの提案でできたというような話なわけですが、少し文脈がありまして、家族会の方々は、医療保護入院の廃止をまず第一に主張なさいました。その上で、廃止しないのならせめて家族の負担を減らしてほしいということで、あくまで廃止を前提に、廃止までの間こういった形でというふうな話でした。ただ、医療保護入院自体は、医療保護入院の市町村長同意に関しては形骸化しておりまして、例えば、具体的な話なんですが、なぜか市町村長同意なのにもかかわらず家族がいて、その家族が入院させているような状況になっていて、ただ同意者は市町村長、家族が退院に反対するので病院としては動けなくて、市町村長同意のままずっと続いている、そういうようなケースがあります。さらに、そういったケース、何件か知っているんですけれども、そのうちの一つ、後見制度を使ってそれで退院させるというような話が出て、後見制度の申立てをしたんですけれども、後見人がちょっと外れというか、退院に対して余り意欲的じゃない人で、結局入院を追随してしまったみたいな、そういったケースも相談を受けています。なので、この改正の流れというのは、とにかく廃止するということであればという括弧つきのものであったわけであって、それまでの間の制度としても、これは医療保護入院を拡大してしまうのではないかという懸念は拭えないなと思っています。
○岩上参考人 御質問ありがとうございます。私は、今回の医療保護入院については、従前よりは適正化されるという立場でございます。懸念していますのは、入院者訪問支援事業というのは非常にいい事業だと思っています。元々私も手がけさせていただいて、日本精神科病院にも調査研究をしていただいて、その後、藤井参考人の方で様々な意見を取りまとめていただいたという経過がございます。ただ、この事業が都道府県の事業としてスタートする関係で、適切に予算措置をして体制を整えていただきませんと、医療保護入院患者に入院訪問支援事業が入れないという事態が生じますので、まずはこの事業を適切に行うことによって、従前、医療保護入院者に速やかに市町村が会いに行っていなかったのではないかという懸念を払拭する絶好の機会にもなりますので、この事業をきちんと都道府県で実施できるような措置をお願いしたいと思います。以上でございます。
○池原参考人 ありがとうございます。市町村長同意については、先ほど日本精神神経学会が調査した結果を資料としてお配りしたとおりで、形骸化していて、さらに、入口の問題として、同意の問題として形骸化しているというだけではなくて、自ら入院に同意しておりながら、市町村の職員が患者さんに適切に会いに行くということが極めて乏しい、半年に一回会っているという人が一、二%しかいないという報告です。ですから、ここについては、もし市区町村長同意を家族がどうしても同意できない場合に変えていくということであれば、まず前提としては、先ほど申し上げたとおり、その前提事実として大丈夫なのかというところをしっかり調べていただく必要があると思うんですね。その上で、もし相変わらず形骸化しているということであるとすれば、じゃ、どうしたらその市町村長同意をもっと実質化できるのか。例えば、市町村のどの部署が、どういう担当者がどんなことをするのかとか、ある程度の努力義務なり義務づけをして、同意した場合はこうしなきゃいけないとかということをしておくことが最低限必要だと思います。ですから、そうしたものなしに、家族の負担を軽減するという側面があるとしても、逆に、では、形骸化した同意で入院させられる患者さんの権利の方はどうなるんだという話になってしまうので、そういうバランスを欠いた結果にならないようにしていただきたいというふうには思っています。
○宮本(徹)委員 続きまして、藤井参考人と池原参考人にお伺いしますが、精神医療審査会が患者の人権を守る役割を十分果たせていないという指摘があると思うんですけれども、これはどう改善すべきでしょうか。
○藤井参考人 御質問ありがとうございます。精神医療審査会についてのお尋ねですけれども、私も以前、精神医療審査会の医療委員としてかなり長く務めさせていただいておりましたけれども、常勤先がある中で非常勤としての勤務でございます。ですので、どうしても、例えば退院請求、処遇改善請求があったというときに、すぐにそれに対応するということができていない状況であった、それに非常にじくじたる思いがあったということを記憶しております。やはり、全て、忙しい業務を抱える中での非常勤の委員ですので、おのずと精神医療審査会の委員としてできることに限りが出てしまうというような状況ですので、もう少しフレキシブルに動ける委員がいる必要があるのではないかなというふうには考えているところです。さらに、感じていたところが、書類審査が非常に多く、これは医療保護入院の数が非常に多いこととも関係するとは思いますけれども、書類審査の数が非常に多く、それももちろん、ないよりはあった方がいいわけなんですが、実際に病院に訪問して、患者さん、入院されている方とお話をするというような機会が余りないというような現実がございます。これも、委員の数であったりとか勤務に当てる時間数が少ないというところも関係しているところですので、全体的な強化というものは必要だと思いますけれども、なかなか、実態を私の知る限りで申し上げると、事務局を担っている精神保健福祉センターもかなり人手不足の中で運営をしているというふうに伺っておりますので、全体的に人権擁護にかける予算であるとか人員というものが少ないというのが、医療審査会に限らず問題ではないかというふうに考えております。人権擁護をしっかりしていくためにはお金が必要であるということは、これはもう事実であると思います。非常に限られた予算の中で、予算を捻出するというのが難しいところだと思いますけれども、現に今、強制入院ということが制度としてある以上は、人権擁護がしっかりしているから強制入院をしてもいいという意味ではございませんけれども、強制入院があるということを前提として、しっかりとした人権擁護の仕組みをつくっていかなくてはいけないというふうに考えます。
○池原参考人 既に御承知かとは思いますが、先生方のお手元にある白表紙の資料の二百七十七ページに、精神医療審査会の審査結果についての統計資料が載っています。そして、入院又は処遇が不適当であるとかいう判断をされているのは毎年多くても五%程度ということで、ほとんどは入院相当の結論になってしまっているということなんですね。これはちょっと二つの観点で考えたいと思いますのは、一つは、現行制度を微調整することで何とかできる部分と、少し長期的にどうしていったらいいかということがあると思います。長期的な視点の方を先に申し上げますと、先ほど来何回か出ています障害者権利条約の総括所見においても、パリ原則に基づく人権機関をちゃんとつくりなさいということが言われておりまして、そういう意味では、精神医療審査会という知事の下にある審査会という形ではなくて、独立した一つの機関としての人権擁護機関というのをつくることが求められていて、これは実のところ、ほぼ、先進国ではどこの国でもある状態になっていて、日本だけがむしろないという非常に寂しい状態であります。ですから、すぐにつくるのは困難であるとしても、五年、七年という長さの間にはちゃんとしたパリ原則に基づく独立、公正な人権擁護機関といいますか、国内人権機関を通常の先進国並みにつくるということが必要で、それができれば、そこで、精神医療だけにかかわらず、障害のある人やそれ以外の人々の人権を審査する機関として、中立性が保たれたよい制度になると思います。ただ、それまでに時間がかかるので、当面どんな工夫ができるのかということですけれども、先ほど藤井参考人からも出ましたけれども、一つは、そこまではっきりおっしゃらなかったかもしれませんが、常設化するということもとても大事なことです。担当委員なりあるいは事務局なりが常にパートタイム的に関わるということで解決できるような問題ではありません。医療保護入院になっている人は十三万人ぐらいいますので、この十三万人の人の定期病状報告を精神医療審査会が毎回審査するというのも、ほとんどペーパーワークになってしまって、そのペーパーワークさえも、しっかり読み込むことができないような状態になっているわけですね。ですから、そういう意味では、本来、悪いサイクルになっちゃっているんですけれども、強制入院者を減らしていけば現状でももうちょっとまともな審査ができるということになるのかもしれなくて、そういう意味でいうと、先ほどの医療保護入院の入口を狭めていって、もうちょっと入院者を減らしていきましょうという方向を政策的に取ることが重要だと思います。それからもう一点は、若干、手前みその話で申し訳ありませんけれども、日弁連でも、精神医療審査会に対する退院請求あるいは処遇改善請求という申立て手続について、法律的な権利擁護者をしっかりつけていく、いわば刑事手続並みに弁護人がつくような手続にしていくということを提案しております。実際にそれをやっている福岡県とか弁護士がちゃんと権利擁護者としてついているところでは退院請求の認容率が高いということも報告されていて、私ども日弁連としては、できれば、国費による弁護人、精神医療の弁護人ですね、強制的な処遇を受けているわけですから、そういう制度を手続としてしっかりつくっていくということも必要だというふうに考えています。
○宮本(徹)委員 ありがとうございました。時間になりましたので、終わります。
○三ッ林委員長 次に、仁木博文君。
○仁木委員 有志の会の仁木博文といいます。今日は、参考人の皆さん、お疲れさまでございます。まず、藤井千代参考人の方に質問があります。日本の今までの精神科、特に医療面でいいますと、薬物療法というのがかなり主流であった結果、実際、最初、精神科にかかって、今においても、お薬が一つ二つで始まったものが気づくともう十種類になっている、多剤になっている。皆さんも御案内だと思いますけれども、お薬、特に精神科領域のお薬を飲むといろいろな合併症が、いわゆる副作用が出てきます。その副作用をまた抑えるためのお薬を飲んでいる、そういうことも原因とされていますので、他の、例えば諸外国の状況を見据えながら、より、行動認知療法であるとか、いわゆる作業を伴った療法であるとか、非薬物療法のような治療というのも推進していくべきであるというふうに思うわけですね。結局、薬漬けにして、薬漬けという言い方は悪いですけれども、薬物療法をして、そういった入院という、そういうふうなことが続いているのではないかという疑念があります。そういうことに関しまして、先ほども、ほかの診療科のスタッフ、ドクターも含めて連携というのは大切で、私も地元で訪問診療をやっていまして、精神科の先生が音頭を取って、地域包括ケアの中で、いろいろな患者さんの情報を共有しながら、精神障害をお持ちの患者さんに対応していくという体制、これもやりつつありますが、まだまだ、例えば今までの経緯からいっても、精神科のドクターとそれ以外のドクターとの交流あるいは情報交換、そういった勉強の場が少ないと思います。そういう二点のことはどう思いますか。
○藤井参考人 御質問ありがとうございます。御指摘のとおり、精神科に関しましては、薬物療法以外の精神療法でありますとか認知行動療法、作業療法、その他の非薬物療法が非常に重要でございます。患者さんによっては、薬物療法は必要なく、その他の治療法が必要である方も多数いらっしゃいますので、薬物療法だけというのは、今の精神科にいらっしゃる患者さんの治療を考えたときに、それは不適切であろうというふうに思います。ただ、問題は、今、外来で診なければならない患者さんの数、非常に多うございます。実際に、朝から夜まで外来を行っても、診察できる患者さんの数はおのずと限られてくるわけです。ですけれども、精神科受診のニーズは、特にコロナ禍において、若い方も中心に非常に増えているという現状もございます。そのような中で、限られた時間でたくさんの患者さんを診察しなければいけないということになると、薬物療法以外の治療法を十分に提供する時間がないという、これは精神科医の多くが抱えているジレンマというふうに言えるかと思います。そのような状況を解決する上での幾つか重要なポイントがあるかと思うんですけれども、まずは、精神科にいらっしゃる患者さん方、精神科医のみで治療を完結しようとしないということも必要かなというふうに思っております。もちろん精神科医と一対一の診療、薬物療法中心でよくなっていく方もいらっしゃいますので、全員とは申しませんけれども、薬物療法以外の支援が必要な方に関しては、多職種で対応するということが必要で、医師の面接がどうしても限られてしまうところを、ほかの方との面接も行うことによって、総合的に診療をしていく、治療を提供していくということができるようにならなければいけないと思います。ただ、現状では、外来で、医師以外の、例えば精神科の外来に勤務される看護師さんであるとか精神保健福祉士の方が外来で医師とは別に面接をしたり、連携のお手伝いをしたりということ、実際に行われているんですけれども、そこに対しては、評価がつかない、あるいは評価が非常に低いという状況でございますので、なかなか多職種での対応、先ほどケースマネジメントのことも少し触れましたけれども、多職種で、多機関で連携して支えていくという体制をまだ取りにくい状況にございます。それは改善していかなくてはいけないと思います。さらに、他科の医師との連携でございますけれども、これも今回の診療報酬でこころの連携指導料というものも創設をしていただきまして、他科との連携を促進していくというような方向性も見えてきてはおりますけれども、まだまだ、もちろん不十分で、実際に、日本では、精神科の専門医がプライマリーケアレベルの精神科の患者さんを診察しなければいけないわけですけれども、GPのシステムがあるような国では、軽度の精神疾患でありますとかもう安定している精神疾患の方はGPの方が診療するということになって、精神科専門医はセカンダリー以上の患者さんを診察するということになっていますので、十分に時間をかけられるわけです。そのようなことを、諸外国の状況も踏まえて、実際にたくさんの患者さんがいらっしゃる、そして、精神科医の数は限られているという状況を改善していくような対応を検討していかなくてはいけないと思っております。
○仁木委員 すばらしい御指摘、ありがとうございました。私もアウトリーチという面で質問しようと思っていまして、今おっしゃった、いわゆる他の、精神科専門医以外もアウトリーチの一員たる形で、患者さんの例えば就労に結びつけていくような、PSW、作業療法士、そういったことの医療的な側面から支援できるということも今日御示唆としていただいて、それはすばらしいなと思いました。やはり、我が国は、極端に言うと、精神病院があって、そして、いきなり世の中、社会、家庭がある。いわゆるそういったアウトリーチ、バッファーみたいなゾーンに人が少な過ぎる。今も精神科の外来というのは、私も存じていますが、特に新患だと本当に時間がかかりますよね。一日に何人も診られるわけじゃありません。例えば耳鼻科とか眼科とか、そういう状況とはまた違う現状があります。そういう中で、いろいろな方がサポートしたことに対してのいわゆる診療報酬等々のそういったバックアップ体制が行政的にないということも御指摘されたと思うので、その辺は進めていきたいと思います。ちょっと話を変えますが、小児慢性特定疾患のことなんですけれども、それに並んで、例えば、子供の健全な発達に必要なサポートをし得る、小児科の分野において、小児精神科医というのは日本は少な過ぎると思いますので、またこれは要望ですけれども、藤井参考人におかれましては、そういった形の応援もお立場でまたやっていただきたいと思います。これはちょっと質問ではありません。次に移りたいと思います。ちょっと突然ではありますけれども、私、皆さん議員の方も関係する選挙のことについて、精神障害者の政治参画ということについてお尋ねしたいんですけれども。まず桐原参考人に対しまして質問しますが、もし知っていたらというか情報でいいんですけれども、例えば、今、全国に三十万人近く入院されている精神疾患をお持ちの方がいらっしゃいまして、そのうち半分ぐらいが自分の意思で例えば投票に行けない、つまり、病院から出られない状況ですよね。そういう中で、例えば国政選挙、今日もこの束ね法案云々のことを冒頭熱く訴えられていましたけれども、そういう、御自身が障害を持たれているけれども政治参画するということに関しまして、実態はどういう感じでしょうか。知っていましたら。御存じでしたら。
○桐原参考人 参政権は選挙権と被選挙権がありますけれども、入院中の選挙権の行使については、通常は病院の中で投票を行うか郵送で投票します。ただ、投票用紙が届いていないというような相談を選挙の都度、相当数受けておりますので、何かしら起きているのだと思います。ただ、原因ははっきりとは分かっていません。被選挙権に関しては、地方議員の方で精神障害であるということを公表して当選している方というのは、全くいないわけではないですけれども、非常に少ないです。国連のアジア太平洋社会経済委員会が、各国の議員で障害を持っている人がどれくらいいるかということを調査したデータを出していましたが、日本は非常に少ないという結果になっております。
○仁木委員 ありがとうございました。次に、同じような質問を岩上参考人の方にしたいわけでございますけれども、介護施設とかいろいろな形で障害者向けの施設というのを経営されているんですけれども、そういった選挙になりましたら、不在者投票、先ほど桐原参考人の方から御答弁がありましたが、例えば、介護の分野では、要介護五だったら郵便投票をするような案内というのは出せるわけで、来るわけですけれども、実際のところ、例えば、最近でしたら、若年性の認知症の方、アルツハイマー病等々の方々が精神科の病院に入院されていることも結構ありまして、そういうときに、この方は、例えば、自分の判断で候補者を選んで投票できる、あるいはできないからもう案内をするのもやめておこうという形で、不在者投票の情報を、その患者さんに誰かの判断でしないこともあるんですね。例えば、御施設はどういった基準でそういったことをされているか、ちょっとお答えできるようでしたらお願いしたいと思います。
○岩上参考人 ありがとうございます。私のところはグループホームに入られている方が対象になると思いますが、基本的には、皆さん、選挙に行っていただくということをしています。
○仁木委員 私、このことを午後の委員会の方でも少し質問に立つ予定でございますけれども、やはり、障害者の権利を担保する、より充実した、誰も取り残さない社会をつくろうという今回の障害者総合支援法の一つの趣旨だと思いますけれども、そういう意味でいうと、その人が判断能力があるかどうか、例えばさっき要介護五とかいうのが出ましたけれども、例えば、本当に認知症がひどかったり、あるいは、精神科の、状態が病態として悪くて、そういった選挙における判断能力がない方々をどういうふうに救済して、全国約十五万人ぐらい、そういった不在者投票をすることになる精神疾患をお持ちの方もいらっしゃるわけでございますので、そういったことも、今各官僚の方にレクを受けて、午後答弁をいただく予定になっておりますので、そのこともただしたいというふうに思っております。最後に、辻参考人の方に質問します。この前もありがとうございました。難病、特にオーファンドラッグということに象徴されるように、オーファンディジーズ、つまり数が少ないであるがゆえに、本当にいろいろな新薬を開発してその治療に結びつけようとしましても、やはり莫大なお金がかかる。莫大なお金がかかって、いわゆる承認されて、上市されても、使われる数が少ないから、企業にとってはなかなか厳しい現実もあります。そういう意味で、今回のこの法改正に伴って、データベースをより活用して、そういった創薬とか等々にもつなげていこうという議論がありまして、先ほども参考人の方から、質問がありましたけれども、私は、情報が漏れるという、セキュリティーがしっかり安心できる、そういう状況が生まれたら、皆様方というか団体の皆さんは、やはり、こういった自分のデータが、自分のことはもちろん、仲間たちあるいは今後同じような難病になる方に対して、新薬の開発により貢献できるんだというふうなことにも取れると思うんですね。そういうことでいいますと、やはり日本の数々の問題というのは、そういった臨床研究であるとか治験がやりにくいということがあります。そういうことにおいて、データベースの活用、これに対して前向きなお考えなのかどうか、ちょっと、改めてセキュリティーが担保された上でのお考えというのを聞かせていただきたいと思います。
○辻参考人 御質問ありがとうございます。難病患者の願いは、治療法の開発、特に根治療法の開発でございます。なかなか根治療法の開発に至らないまでであれば、重症化を抑える、若しくは重症化を遅らせる、この治療法の開発です。ですので、多くの難病患者は治療研究に対して非常に協力的であり、患者団体もそのような形になっています。ただ、個人情報の保護については、当然差別を受けやすいというようなところもありますので、当然、きちっとした法整備とそれから運用が必要であるというふうには考えておりますが、基本的には、先ほどオーファンドラッグのお話もありましたけれども、なかなか進まない治療研究や薬の開発に、患者の方はできるだけ協力したいというのが本音でございます。マイナンバーの連携につきましても、そのメリットについて十分認識した上で、そこについてのしっかりとした個人情報の保護がきちんとしているのであれば、当然連携も推進していくべきではないかというような意見も多々あります。ただ、説明がちょっと不足しているので、患者側の方で今こうあるべきだというのはちょっとまだ示せていないというような状況です。欧米に比べまして、本当に、難病の薬もそうなんですけれども、最近はドラッグロスということで、欧米での研究開発は進んでいるけれども、日本の研究開発は非常に遅れ始めているというふうに聞いております。そういう意味でも、患者が参画して、いいお薬を日本の中でしっかりと作っていける環境を患者の方としても望んでおりますし、是非協力させていただきたいというふうに思っております。以上です。
○仁木委員 本当に貴重な御回答というか御意見、ありがとうございました。それと、やはり最後に申し上げたいのは、いろいろ難病をお持ちの方というのは、それを専門に診られるドクターも少ないものですから、例えば遠いところに家族と一緒に行く、家族が仕事を休んで行く、経済的な負担も大きいわけでございますので、今この間の与党は、伴走的な支援というのを経済対策でよくうたっています。そういう意味で、こういった分野にも伴走支援というのをかなり組み入れていくことを私は目指すような政治をしていくことをお誓い申し上げまして、私の質問を終わります。ありがとうございました。
○三ッ林委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。この際、参考人の方々に一言御挨拶を申し上げます。参考人の方々におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。(拍手)午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。