2016年4月26日 衆院財務金融委員会 軽い経理ミス悪質か
宮本徹議員は26日の衆院財務金融委員会で、中小零細企業の軽微な経理ミスまで〝悪質な所得隠し〟として重加算税を課税する国税庁の税務調査のやり方をただしました。
国税通則法70条では「偽りその他不正の行為」があった場合、7年間さかのぼって税の更生・決定処分を下すことができるとしています。同条改正では、「高額かつ悪質な脱税者に重点をおき、中小企業を苦しめることのないよう特段の配慮をする」との付帯決議もつけられています。
宮本氏は、税の実務がおいつかず7年間で約590万円の過少申告と指摘されたAさんの事例を紹介。「このような事案は『高額かつ悪質』といえるのか」とただしました。
国税庁の星野次彦次長は「個別にわたる事柄」だとして明確に答えませんでした。
宮本氏は、Aさんは国税庁から7年間分の修正申告を勧奨され、重加算税の適用対象とされたと指摘。Aさんが税務調査に誤りを発見し、証拠書類を提出して更生を申し出たにもかかわらず、最も古い7年前の所得については「『職権による減額更正』の期間を過ぎている」との理由で構成されなかったとして、救済措置の検討を求めました。
以上2016年4月28日付赤旗日刊紙より抜粋
≪第190回 衆院財務金融委員会第15号 2016年4月26日 議事録≫
○宮下委員長 次に、宮本徹君。
○宮本(徹)委員 日本共産党の宮本徹です。きょうは、まず初めに、国税通則法の第七十条の運用の問題について質問させていただきたいと思います。一九八一年の法改正で、偽りその他の不正行為があった場合は、国税の更正決定を遡及して処分できる期間が五年から七年に延長されました。そのとき、八一年四月二十四日の衆議院大蔵委員会では、附帯決議が全会一致で上がっております。その際、沢田広委員は、代表して附帯決議を読み上げる際に、次のように述べています。本附帯決議案は、この法律案が航空機汚職事件に端を発し、国民の多くの批判を受けたことを契機とする脱税に対する経緯にかんがみ、高額かつ悪質な脱税に対し厳しくしたことは一歩前進とみなすことができます。ただ、このことにより営々として働く中小企業者をも含めて厳しくすることを求めたものでなく、特に政府の特段の配慮を要請するとともに賦課、徴収、帳簿の保存期間の延長等についてもきめの細かい配慮を要請するものであります。こう述べております。つまり、ロッキード事件にかかわった田中角栄首相らへの批判がある中、高額な脱税事件の摘発期間を延ばすというのがこの法案の趣旨だったわけですね。そして、附帯決議にも同じ中身が入っています。今回の改正により延長された更正、決定等の制限期間における調査に当たつては、高額、かつ、悪質な脱税者に重点をおき、中小企業者を苦しめることのないよう特段の配慮をすること。こう書き込まれました。当時の渡辺美智雄大蔵大臣も、「ただいま御決議のありました事項につきましては、政府といたしましても御趣旨に沿って、誠意を持って対処いたしたいと存じます。」と答弁しております。ですから、時の立法府は、法改正の趣旨に従って、高額かつ悪質な脱税者に重点を置くことを要求した上で、この遡及期間を五年から七年に延長することを認めたという経緯だと思います。きょうは国税庁に来ていただいておりますが、現在も、税務調査においてはこの附帯決議の内容というのは尊重されているんでしょうか。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。先生御指摘になられました国税通則法七十条の規定で、税務署長が更正または決定をすることができる期限は、原則として法定申告期限から五年を経過する日とされておりますけれども、八一年、昭和五十六年の税制改正によりまして、偽りその他不正の行為により税額を免れたり税額の還付を受けた者の更正・決定については、法定申告期限から七年を経過する日がその期限とされたところでございます。また、その際につけられました附帯決議につきましても、承知をしているところでございます。国税当局といたしましては、高額、悪質な納税者に重点を置いて税務調査を行っております。偽りその他不正の行為により税額を免れた者等につきましては、法令に則して七年前に遡及して更正・決定を行うなど、適正、公平な課税の実現に努めているところでございます。
○宮本(徹)委員 しかし、実態がそうなっているかということなんですね。実態は、中小零細企業のなけなしの収入に対して税務調査後に七年間分の修正申告を勧奨して、少額の利益にも重加算税を課税するケースがふえているのではないか。東京税理士会の会報を見ますと、税理士の安藤光宏さんが、「最近の税務調査、特に法人税の調査では、軽微なミスで故意性の感じられないものまで重加算税の賦課対象とされているような気がする。」こういう指摘もあります。きょうは私、一つの事例を紹介したいと思います。本やCDなどのインターネット販売を行っているAさん、二〇一四年の税務調査で重加算税の適用対象とされました。税務職員が作成した過去七年分の修正申告書に署名捺印を求められ、言われるがままに署名し、印鑑を押したということであります。そのときの税務調査により指摘されたAさんの七年間分合計の所得税額は約八百五十万円、確定申告で納税していた額を引くと、七年間の過少申告の総額は五百九十万円、七年で割れば一年で八十五万円程度ということになります。ちなみにこれは後で議論しますが、税務調査で指摘されたこの所得税額自体が間違っていたというのがわかるわけですけれども、これは後で議論します。それでこのAさんは、聞きますと、勤めていた会社が倒産したので、妻と子供の生活を守るために、本やCDなどの販売、インターネットで行って小遣いを稼ぐ程度で始めたのが、仕事が見つからなかったので本業として始めることになった。初めての事業だったわけで、税金の知識など全くなかった。そのため、開始時の二年間は申告もされていなかったということであります。国税庁にお伺いしますけれども、一般的に言ってこういう事案というのは、附帯決議が言う、七年間も遡及すべき高額かつ悪質というのに当たると言えるんでしょうか。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。委員御指摘の個別の事例に即しての答弁については差し控えさせていただきたいと思いますけれども、一般論として申し上げれば、国税当局においては、税務調査は、主として高額、悪質な納税者に重点を置いて実施しているところでありますけれども、税務調査の結果、偽りその他不正の行為により税額を免れたり税額の還付を受けたりしたものに該当した場合には、法令の規定にのっとり、七年間遡及して更正等を行っている事例がございます。
○宮本(徹)委員 私は初めに法改正の趣旨と附帯決議も紹介しましたけれども、今回のこれでいえば、高額でもなく、悪質とも言えないというふうに私は思うんですよ。今のAさんの事例も参考にしながら、国税通則法七十条四項の運用が適正に行われているのかと見てみたいと思います。このAさんの例でいえば、一つは、金額が七年間で約五百九十万円過少申告していたこと、二つ目に、税務調査により無申告であることが発覚したこと、三つ目に、倒産により突然始めた事業で、納税に関する知識がほとんどなかったこと、これが七十条四項の要件として該当するかどうかということになると思うんです。これを、他の報道などで公になっている例と比べてみたいと思います。まず金額の問題ですけれども、鳩山由紀夫元総理のケースと比べてみたいと思います。鳩山元総理のケースでは、七年間以上、母親から毎月資金が提供されていることについて指摘があったわけです。鳩山元総理は、二〇〇二年から二〇〇八年までの七年間分、合計十一億七千万円分を対象に修正申告を提出して、贈与税約五億七千五百万円を納付しました。ここのポイントは、鳩山元総理は七年間分の修正申告書を提出したということなんです。通常の税金の時効は五年なわけですよ。ただし、隠蔽、仮装の場合は七年ということになります。ですから、七年間分の修正申告書を出したということは、みずから隠蔽、仮装を認めたに等しい手続を鳩山元総理の場合はやられました。しかし、これに対して国税庁は隠蔽、仮装とは認めなかった。五年間の贈与について贈与税が発生したということで、本税は四億三千六百万円、プラス延滞税と無申告加算税が課税された。報道ではこうなっているわけですよ。ですから、これは国税庁に一般論としてお伺いしますが、ある納税者本人が十二億円の贈与の事実を隠蔽していた。それを事実上認める手続として七年間の修正申告をした場合にもかかわらず、国税庁は、第七十条四項の偽りその他の不正行為、もしくは、重加算税の要件である隠蔽や仮装と認定しなかった。では、七年間で五百九十万円分の所得税の過少申告というだけで、偽りその他の不正行為や隠蔽、仮装というふうに言えるんでしょうか。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。個別にわたる事柄についてお答えすることは差し控えさせていただきたいですけれども、一般論として申し上げますと、繰り返しになりますが、偽りその他不正の行為により贈与税等々について税額を逃れていた場合における国税につきましては、法定申告期限から七年間、修正が可能ということになっておりますけれども、仮に七年たちますと、国税の徴収権は、七年間行使しないことによって、時効により消滅するといった場合がございます。一般論として申し上げますと、そういった時効の規定、また、先ほど申しました七十条の規定、こういった規定に基づきまして、法令を個々の事実関係に当てはめて処理をしているということでございます。
○宮本(徹)委員 ですから、この鳩山さんの例と比べてみても、これだけで七十条四項の要件に該当するというのは、私は到底考えられないというふうに思います。それから、先ほど要件として挙げました二つ目の、税務調査により無申告であることが発覚したこと、それから三つ目の、倒産により突然始めた事業で納税に関する知識がほとんどなかったことについて、今度は脳科学者の茂木健一郎さんのケースとちょっと比べてみたいと思います。報道によりますと茂木さんは、税務調査を受けて、二〇〇六年から二〇〇八年までの三年間の所得の申告漏れが発覚しました。茂木さんはそれ以前はみずから確定申告をしていたということですので、税務についての知識はあったと思われます。報道によると、仕事に追われて書類を整理することができず、申告する暇がなかったと言われています。そして、報道によりますと、このケースについては、重加算税ではなくて無申告加算税が適用された。つまり、単に仕事が忙しかった、納税する暇がなかったというのは仮装、隠蔽に当たらない、こういう判断を国税庁は当時されたということだと思います。一般論で聞きますが、無申告だというだけでは悪質とは判断しない、つまり、無申告は即偽りその他の不正行為とみなさないということですね。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。個別にわたる事柄についてお答えすることは差し控えさせていただきたいと思いますけれども、一般論として申し上げますと、繰り返しになりますけれども、法令上、偽りその他不正の行為により税額を免れたり税額の還付を受けたものの更正または決定期限は、法定申告期限から七年を経過する日とされております。この法令の規定に当てはまるかどうかということにつきまして、個々の事実関係に即して対応しているということでございます。
○宮本(徹)委員 ここは、一般論で聞いているので一般論で答えていただければいいんですけれども、無申告のみでは悪質だと判断しないということですよね。それぐらいは答えてください。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。偽りその他不正の行為が何に当たるかということは個別の事例に即して判断をすべきだと考えておりますけれども、例えば例示を挙げますと、二重帳簿の作成でございますとか、単純無申告の納税者による法定申告期限後の虚偽の申告ですとか、あるいは、税務職員の質問または検査に対する虚偽の陳述、虚偽の事実の提示などが挙げられるものと考えております。
○宮本(徹)委員 つまり、無申告のみでは、それだけでもってするということだとはならないということだと思うんですよ。ですから、初めに紹介しましたAさんのケースというのは、今、有名人二人の修正申告の事例と比較してみましたけれども、この例について、七十条四項の要件を適用して、七年間遡及して修正申告の勧奨をして、さらに重加算税を適用する、こういうことをやるべきではないケースだということが私は言えると思うんですよ。その上で、安易に七年間遡及するような税務調査が横行すると、問題となるのは、税務調査の側が間違っていた場合ですよ。税務調査に不備があった場合、これは大変な問題が私は起きると思っています。一般的な運用について聞きますが、税務調査の結果、職員の勧奨に従って納税者が七年間の修正申告を行います、その後、納税者の主張により偽りその他不正の行為が認められないという事実が発覚した場合、この六年前だとか七年前の修正申告は、国税庁はどういう扱いにされるんですか。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。偽りその他不正の行為により税額を免れたり税額の還付を受けたものにつきましては、法定申告期限から七年を経過する日まで増額更正することができるということでございますが、こうした増額更正等につきまして減額すべき一定の事由が生じた場合には、法定申告期限から七年を経過する日まで、税務署長の権限により減額更正を行うことができるということでございます。
○宮本(徹)委員 税務署長の権限により減額更正ができるということですね。それでもう一つ聞きますけれども、修正申告から一年以上過ぎても、税務署長の権限による、職権による減額更正というのは全部可能になりますか。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。今申し上げた一般的なケースで想定しているものは、税務署、国税当局が、偽りその他不正の行為が行われたということで七年さかのぼって増額更正を行ったケースにおきまして減額すべき一定の事由が生じたということで、この増額更正を行う際にそれに付随して行われる減額につきまして、署長の権限により減額更正を行うということでございます。その際、こういった申告を行った事情を記載した書面などに証拠となる資料が添付され、それを、適正な課税を実現する見地から見て必要であると認められた場合には、今申し上げました権限に基づいて調査したところにより、減額更正をするということでございます。
○宮本(徹)委員 私が聞いているのは、もうちょっと聞きますけれども、税務調査の結果、修正申告が七年間の期間制限のぎりぎりだった場合、どうなるのかということですよ。その後に税務調査の誤りがあったとしても、一番古い七年前の修正申告は時効となって、職権による減額更正の対象とならないケースというのが出てくるんじゃないですか。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。ただいま申し上げましたとおり、法定申告期限から七年を経過する日まで、税務署長の権限により減額更正を行うことができるケースがございますけれども、この減額更正を行うためには一定の調査期間が必要でございまして、七年を経過した時点で期限が徒過をするということでございますので、その期限徒過の前に一定の合理的な調査をする期間を確保した上で、先ほど申し上げた書類等々、証拠を提出していただく必要があろうかと考えております。
○宮本(徹)委員 つまり、税務署の側が、七年間の期間のぎりぎりのときに修正申告を出せと言われた場合、いろいろ手続をとっても救済されないケースがあるということですよね。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。七年の期限を設けているわけでございますので、この七年の期限内に更正を打てるように、その判断ができるように、一定の合理的な期限の前に証拠等を出していただく必要があるのではないかということを申し上げたわけでございます。
○宮本(徹)委員 その一定の合理的な期間に証拠を出さなきゃいけないという税務調査が間違っていた場合に、何を言っているのかという話を今の答弁を聞いていて思うわけですけれども、一定の合理的期間がない場合は、税務調査の方が間違っていた場合、救済されないわけですよ。私が今初めに述べましたAさんの例ですけれども、修正申告の直後に税務に詳しい方にこの方は相談されました。御自身で、税務署が作成した申告書類を改めて確認された。そうしたら必要経費が入っていなかった。外注工賃、旅費交通費、通信費、消耗品費など、一切経費として計上されていなかった。これに疑問を持ちましていろいろな手続をとられるわけですけれども、ちなみにこの領収書は、税務調査のときに税務署に全部渡している領収書ですよ。そこで、Aさんは七年分の更正の請求を行いました。六年分までは主張が認められました。そして職権による減額更正が行われました。そして、この六年のうち、ちなみに三年分は所得税額がゼロになりましたよ。ただし、七年前の修正申告については、職権による減額更正の期間が過ぎているということで減額更正がされなかったんです。こういう事案が起こるということを国税庁は認識していますか。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。誤った申告を行った事情を記載した書面に証拠となる資料が添付され、提出され、その内容が適正な課税を実現する見地から見て必要と認められる場合には、その権限に基づいて調査したところにより、増額の更正を行った後でも減額更正をされる場合がございます。ただ、これは、今申し上げたとおり、内容が適正な課税を実現する見地から見て必要だということが判断できる期間が必要でございますので、証拠となる資料がそういった期間前に適切に提出される必要があろうかと考えております。
○宮本(徹)委員 だから、その期間を保障しないようなときに税務調査をやって、修正申告させているわけじゃないですか。そうでしょう、税務署の側がそういうことをやっているからこういう問題が起きるわけですよ。こういう問題について救済措置の検討というのは必要なんじゃないですか。
○星野政府参考人 お答え申し上げます。繰り返しになりますけれども、減額更正をするケース、七年さかのぼって増額更正をしたその中身につきまして、内容が適正な課税を実現する見地から見て適当ではない、そういう証拠となる資料が添付され提出した場合には、それを検討し、権限に基づいて減額更正をする場合がございますけれども、こうした判断をする上で必要となるタイミングでもって証拠となる資料を提出していただく必要がございます。七年経過すれば期限が徒過いたしますので、それ以前の合理的な時期にそういった資料を提出していただく必要があるということを繰り返し説明させていただいております。
○宮本(徹)委員 そういう態度じゃだめだと思うんですよ。だって、もともと間違った税務調査をやって、その間違いに基づいて税務署自身がつくった修正申告書にサインさせられて、署名を出して、その後、これはおかしいなと思って調べて是正を求めたら、税務署は六年分までは間違っていましたと言いながら、あと一年分は期間が過ぎていますからだめですなんて、こんなばかな話、ないじゃないですか。幾ら聞いても同じことしか答弁されませんので、ちょっと真剣に、この問題どうすべきかというのを研究、検討をしていただきたいと思うんですよ。麻生さん、一時期ちょっと席を立たれていましたけれども、どう思われますか、麻生大臣。突然振って申しわけないです。
○麻生国務大臣 席を立っていたときの話をいきなり聞かれても、どう思われますかと言われて答えられたらおかしいでしょうが。質問されるんだったら、質問したいで、あらかじめきちんと質問通告をされた上でされることをお勧めします。
○宮本(徹)委員 後で議事録、また説明させていただきいというふうに思いますので、副大臣、聞かれていたと思いますので、御検討をよろしくお願いしたいというふうに思います。
大体、税務署が間違って、その救済もできないんですから、この国会の附帯決議に反したような、中小零細業者に対して無理な税務調査はやるべきでないということを強く求めておきたいというふうに思います。次に、格差の拡大と税制のあり方について質問させていただきたいと思います。「金融財政ビジネス」の一月十四日号に、一橋大学の小塩隆士教授の「アベノミクスで拡大する所得・資産格差 懸念される二極分化の兆し」という興味深い論文が出ておりました。アベノミクスが始まってから格差が拡大したかどうか、総務省の家計調査をもとに分析されております。家計調査の集計データをもとにしたものなので粗い計算だと断りながらも、ジニ係数について、所得については、安倍政権以前の十年間、二〇〇二年は〇・三〇二、二〇一二年は〇・二九七と若干低下した。アベノミクス期になって、二〇一四年は〇・三〇〇と上昇したと分析されております。そして貯蓄残高のジニ係数、安倍政権前の十年間は、二〇〇二年〇・五四八が二〇一二年は〇・五六四に上昇、アベノミクス期になると、二〇一四年は〇・五七五と上昇のペースは加速しております。アベノミクスのもとでの格差の拡大について、大臣はお認めになりますか。
○麻生国務大臣 格差に関する捉え方というのはこれはさまざまなんだと思いますが、格差の程度については、これは一概に申し上げることは困難ですが、例えば、これまでの当初の所得に比較して税や社会保障による再分配後の所得の格差というのはほぼおおむね横ばいで推移しておるというのは、数字としては言えると思っております。内閣府が行っております世論調査によりましても、国民の中流意識というのは根強く続いておりまして、大きな意識の変化は確認されていないということであります。安倍内閣においてデフレ脱却を目指していわゆる経済再生に取り組む中で、格差が固定しないようにさまざまな取り組みを行ってきたところでありますけれども、例えば家計調査によれば、所得の面で見た場合に、先生よく言われましたが、昔から、世帯収入の低い方の四百万円ぐらいのところだったかな、の割合の方が高くなっているじゃないかというお話を前にもしておられましたが、この調査をよく見ますと、同じ期間で世帯収入が四百万円以下の世帯においても、世帯主の平均年齢が高齢化しておりますので当然のこととして高齢者が増加するというほか、世帯の人員数の絶対数が減少しておりますので、こういうことを勘案いたしますと、この割合は必ずしも、いわゆる中間層が減少するとか、二極化しているとか、貧しくなっているとかいうようなことではない。貯蓄残高の話も今されておられましたけれども、アベノミクスの二年間で平均貯蓄残高は約百四十万円増加しておりますので、世帯分布で見ましても、千万円以下の世帯の割合が二〇一四年では二〇一二年より減少しておりますので、国民全体の貯蓄額は底上げされているというように考えられるのではないかとも思っておりますので、これはいずれにいたしましても、今後、アベノミクスの経済成長によります成果というものが国民に、より広く行き渡っていくように対応していくということだと思っております。
〔委員長退席、神田委員長代理着席〕
○宮本(徹)委員 きょう、小塩教授のつくられたグラフも資料として配付させていただきましたけれども、これは、薄いグレーのところが安倍政権以前の十年間、濃いグレーのところがアベノミクス期というふうになっております。先ほど、大臣は中間層は減っていないというふうにおっしゃいました。このグラフを見ていただければわかりますけれども、確かに、高齢化の要因だとかいろいろなことというのは、これは、アベノミクス以前のときからグラフに反映している面というのはあると思います。それと同時に、この上の所得のところでごらんになられればわかりますように、四百万から七百万のところがアベノミクス期になって減っているんですよ。これは、先ほど大臣がおっしゃった高齢化だけでは私は説明できないんじゃないかというふうに思います。その部分が減っている分、低所得者層と高所得者層、比較的収入が多い層がふえているというのがこのグラフから見てとれるというふうに思います。それから下のグラフ、貯蓄の方ですけれども、これは資産格差の広がりを示すものだと思いますが、家計調査の十九の貯蓄残高階級を九つに集約しています。金融資産については、これは安倍政権以前から三百万円未満の世帯がふえています。一方で三千万円以上の世帯もふえているわけですが、アベノミクスの二年間で顕著なのは、貯蓄残高、金融資産三千万円以上の世帯が増加する勢いが加速している。以前は十年かけて一・一ポイントの増だったのが、二年でさらに一・一ポイント増ということになっています。ですから、小塩教授は、資産格差の拡大がアベノミクスで加速していると分析されておられます。私もそう思いますが、大臣はこの指摘についてどう思われますか。
〔神田委員長代理退席、委員長着席〕
○麻生国務大臣 これは重ねて申し上げるようで恐縮ですけれども、四百万円以下の割合というのは、これは間違いなく二〇一二年に比べて二〇一五年の方が多くなっているというのは、もう間違いない事実だ、私どもの数字でもそうなっておりますが、ただ、高齢者が増加しているというのは、これは年金で食べている人の比率がふえてきているということを意味していますし、世帯人員が減少してくる。世帯で計算しておりますので、世帯収入四百万円ということになりますと、世帯の人員が減少すれば当然のこととしてそこのところも減少してまいりますので、この割合というものは必ずしも、いわゆる中間層が減少しているとか二極化しているとかいうことの根拠とはちょっとなりにくいんじゃないかというのが正直な実感です。
○宮本(徹)委員 高額な資産を持たれる方がふえる勢いが加速しているという認識は同じですか。
○麻生国務大臣 貯蓄残高ということにもなるんだと思いますが、アベノミクスのこの二年間で、少なくとも、平均貯蓄残高というのが百四十万円増加をしております、私どもの持っておる数字では。世帯分布で見ましても、貯蓄残高千万円以下という世帯の割合が、二〇一四年では二〇一二年に比べて減っておりますので、少なくとも、平均貯蓄残高、二〇一二年で一千六百五十八万が二〇一四で一千七百九十八万といった形でふえてきておりますし、いわゆる千万円以下の比率も、二〇一二年五一・七一%から四九・九六%、減ってきておるという数字もありますので、そういった意味では、国民全体の貯蓄額というものが底上げされているということにも考えられるのではないかという面も言えると思っております。
○宮本(徹)委員 このグラフを見れば、高額なところで資産の積み増す勢いが加速しているのは、資産格差が拡大しているというのは間違いないというふうに言えると思います。そこで、残りの時間が短くなったんですけれども、政府税調でも、所得再分配機能を回復するのが税制で重要だということをおっしゃっておられます。その上でも、私たち、金融所得課税の強化というのを何度も提案してまいりました。株式譲渡益配当については、日本は所得税一五%、住民税五%、合わせて二〇%、国際的にも大変低いわけです。そしてこのことが、日本の所得課税が、所得一億円を超えると実際の負担率が下がるということを指摘されていた原因だというふうに言われております。そこで私たち、高額な株式譲渡益については税率を三〇%に引き上げることというのを質問させていただいて、三月二十三日の参議院の財金委員会で小池議員の質問に対して、検討させていただくと大臣は答弁されました。そのときに、勤労所得とのバランスとかリスク資産への投資促進という面も踏まえて金融所得課税全体のあり方を考えないといかぬ、こう大臣は答弁されているわけです。ちょっと確認したいんですけれども、こう答弁されたということは、現在の配当や株式譲渡益への課税というのは、勤労所得への課税とバランスはとれていない、こういう認識だということでよろしいんでしょうか。
○麻生国務大臣 今御指摘のありました私の答弁は、金融所得課税全体のあり方を検討するに当たっては、勤労所得に対する課税とのバランスやリスク資産への投資促進などといったさまざまな要素を総合的に勘案する必要があるということの趣旨で申し上げたというように記憶をいたしております。このうちで、勤労所得に対する課税とのバランスについて申し上げさせていただければ、これは、株式などの譲渡益の中には、長い間に積み重ねてこられた益が売却することによって一度に実現するといったようなこともありますので、これは当然、一定の配慮というものが必要であろうと思っております。また、金融資産というのは、御存じのように、これは譲渡性というか流動性が極めて高いものですから、過度の税負担を求めると、自動的にキャピタルフライト、出ていっちゃう、キャピタルフライトが生じるというおそれがありますので、そういったことを考えますと、現行のいわゆる金融所得課税の課税方式や税率の水準には、これは一定の合理性がある。すなわちバランスがとれていると考えております。なお、今後、金融所得に対する税率の水準につきましては、いわゆる景気情勢や市場の動向とか、税制などによって所得分配の動向などを勘案してこれは検討する必要があるということで、過日の、行われたあの政府の税制調査会の中間的な論点整理の中においても、こういった点を検討する必要があるということが言われているんだと理解しております。
○宮本(徹)委員 景気情勢、市場の動向ということをおっしゃっているわけですけれども、二〇一四年に一〇%から二〇%に戻されましたよね。証券優遇税制を廃止されて戻されました。このことが景気情勢や市場の動向に何か重大な悪影響を及ぼした事実というのはあるんでしょうか。
○麻生国務大臣 一概に申し上げることは困難ですけれども、景気や市場の動向というのは、金融所得に対する税率の水準のみで決まるものではありませんので、上場株式などの配当とか譲渡益等々については、軽減税率一〇%というものを廃止して二〇%のいわゆる本則税率というものに戻したことによって景気や市場に重大な影響を及ぼしたか否かというについては、これは一概に申し上げることはできません。
○宮本(徹)委員 いや、一概に申し上げていいんじゃないかと思いますけれども、何かそんな、政府がこれを二〇%に戻したことによって景気や市場に大変な影響があったという議論は、私、どこでも聞いたことがないですよ。大体、投資家のあのウォーレン・バフェット氏が、かつてニューヨーク・タイムズでこうおっしゃっています。私は六十年も投資家たちと仕事をしてきたが、一九七六年、七七年にキャピタルゲインの税率が三九・九%だったときでさえ、税率を理由として投資から遠ざかる人は見たことはない。六十年間、一人も見たことがない。人々はもうけるために投資する。税が投資を怖がらせることはなかった。世界的に有名な投資家の方がそうおっしゃっているわけです。実際、二〇一四年、一〇パーから二〇パーに引き上げたことによって、税収はふえてこれは大変よかったというふうに思いますが、これが景気情勢に何か影響を与えたということは私はなかったと思いますし、実際、大臣も一概に申し上げられないと言うだけで、何か具体的な話は大臣からも一つもなかったということだと思います。ですから、重ねて、やはり日本のこの今の不公平な、所得が一億円を超える人の実質の税負担率が下がっているこの状況を改めて、そして税収も確保していくために、株式の高額な譲渡益については税率を三〇%に引き上げる、配当については総合課税も含めて検討していく、こういうことが必要なんじゃないでしょうか。
○麻生国務大臣 全然見解を私とは異にしております。
○宮本(徹)委員 検討を求めまして、質問を終わります。