2016年5月10日 衆院財務金融委員会 南シナ海領有問題、軍事的関与強める自衛隊機の貸与をやめよ
日本共産党の宮本徹議員は10日の衆院財務金融委員会で、自衛隊機のフィリピンへの貸与問題について政府の姿勢をただしました。
フィリピンへの自衛隊機の貸与は、安倍政権が武器輸出を解禁した「防衛装備移転3原則」の閣議決定(14年4月)後の初の武器貸与となります。
宮本氏は、「南シナ海は(比中など)5国1地域が領有権を主張しあう状況が続き、事態を解決するうえで、日本が果たすべき役割は、領有権争いの一方の側への武器の貸与ではない」と指摘。軍事的関与につながる自衛隊機の貸与をやめよと求めました。
若宮健嗣副大臣は、「軍事的関与ではない」と主張する一方、「人道支援、災害救援、輸送および海上状況把握など、比側から能力構築への強いニーズにこたえるもの」と答弁。同機が南シナ海の警戒監視に使用されることを否定できませんでした。
宮本氏は、南シナ海で、日米一体の軍事的関与が強められようとしていることを暴露し、これを批判。ASEAN(東南アジア諸国連合)が締結した「南シナ海行動宣言」(DOC)にもとづき、「南シナ海行動規範」(COC)を締結する外交的決着の後押しこそすべきだと主張しました。
木原誠二外務副大臣は、「(自衛隊機貸与)による関係国の能力向上がDOCやCOOの貫徹にとって重要だ」と強弁しました。
宮本氏は、「外交努力をだめにするのが、自衛隊機貸与による軍事的関与の強化だ。対話による解決を促すための外交努力を」と求めました。
≪第190回 衆院財務金融委員会第17号 2016年5月10日 議事録≫
○宮下委員長 次に、宮本徹君。
○宮本(徹)委員 日本共産党の宮本徹です。きょうは、自衛隊機のフィリピンへの貸与の問題についてまず質問させていただきたいと思います。連休のはざまの五月二日に、中谷大臣とフィリピンのガズミン防衛大臣との間で、海上自衛隊の航空機の貸与が合意されました。まず初めに財務大臣に確認しますが、安倍政権が定めた防衛装備移転の三原則に基づいて、自衛隊が国有財産である装備品を他国軍隊に貸与するというのは初めてのケースですよね。
○麻生国務大臣 一点だけ、防衛装備品ということになるかならないかというところは問題ですけれども、防衛装備品か否かという点については、目下、防衛省において、防衛装備するいわゆる搭載装備品を含めて今具体的な話が進んでいる、協議中であると聞いておりますので、今の段階で、これが防衛装備移転三原則の防衛装備に当たるか否かが今は判断はできておりませんので、今に対するお答えは、もしそれになった場合はという前提で申し上げますが、防衛装備ということになった場合は、初めてのケースということになろうと存じます。
○宮本(徹)委員 防衛装備品の場合は初めてのケースということになります。今、南シナ海をめぐっては、今度、武器貸与を合意したフィリピンを含めて五国一地域が領有権をそれぞれ主張するという状況が続いております。二〇〇二年に南シナ海行動宣言が中国とASEAN諸国の間で結ばれております。その中で、現在無人の島嶼、岩礁、その他のものへの居住は慎むということが決められ、さらに、紛争を複雑化あるいは激化させ、また、平和と安定に影響を与えるような行動を自制する、こういうふうに決められているわけですよ。この間、中国が、南沙諸島、スプラトリー諸島で人工島をつくっている、あるいはパラセル諸島でのミサイルの配備をやっているわけですが、こういう行動は明らかにこの南シナ海行動宣言に反するというのは言えると思います。私たちも、中国に対しては、南シナ海での一方的な現状変更と軍事的緊張を高める行動はやめるべきだということを求めております。同時に、二〇〇二年のこの南シナ海行動宣言が締結された後の十数年を見ても、各国・地域が埋め立てを行ったり空港の建設というのをこの地域の島々で進めてきているというのも事実なわけです。ですから、こうした事態を解決していく上で日本が果たすべき役割は、領有権争いの一方の側に自衛隊の装備品を貸与していくことなのか。私は、決してそういうことではないと思います。そこで、きょうは防衛副大臣もいらっしゃっていますが、自衛隊の装備品をフィリピンに、今回は貸与ですけれども、供与も含めて検討されたと思いますが、こういう話はどちらの国から出てきた話なんでしょうか。
○若宮副大臣 宮本委員にお答えさせていただきます。今お話しになりました、どちらから話が出たのかということでございますが、フィリピンとの間におきまして昨年の一月に行われました日本とフィリピンとの防衛大臣の会談におきまして、防衛装備そして技術協力の可能性を模索するために、事務レベルでの協議を開始することでまず一致をいたしたところでございます。この事務レベルの協議の過程の中で、特に、人道支援と、それから災害救援、それからまた輸送及び海洋状況の把握に係る能力の向上、これをしたいというフィリピン側の強いニーズが示されましたことを踏まえまして、私ども防衛省といたしましては、いかなる防衛装備の技術協力が可能かについて検討を重ねてきたところでございます。この検討の結果、本年の二月二十九日に日本とフィリピン間におきまして防衛装備品それから技術移転協定が署名されたことを踏まえまして、先ほど委員も御指摘になりました五月二日に、私どもの中谷防衛大臣とガズミン・フィリピン国防大臣との間で、フィリピン海軍へ最大五機の海上自衛隊の練習機TC90を移転することなどにつきまして、協力を具体化していこうということを確認したところでございます。ガズミン・フィリピン国防大臣を初めフィリピン政府は、TC90移転につきましては非常に大きな期待をお持ちのようでございまして、今般、本件につきまして両大臣間で一致をしたということは、極めて意義深いものがあるというふうに考えているところでございます。
○宮本(徹)委員 先ほどのお話ですと、一月以降の話し合いの中でフィリピン側からいろいろなニーズが示されたということですけれども、そもそも、二〇一四年春に安倍政権が武器輸出三原則を変えるまでは、例外はありましたけれども、日本は武器輸出が原則できないとなっていたわけですよ。そこから先ほどあった一月の合意までの間に、何度も防衛省の経理装備局装備政策課の職員がフィリピンに行かれていますよね。これは、いつ、何の目的でフィリピンに行ったんですか。
○堀地政府参考人 お答えを申し上げます。平成二十六年の四月一日に防衛装備移転三原則が閣議決定されました。それ以降、さまざまなレベルにおきまして、諸外国との防衛装備、技術協力に関する意見交換、また情報収集を実施しているところであります。御指摘の、防衛装備庁設立以前でございますから防衛省経理装備局装備政策課、当時の職員のフィリピン訪問につきましては、平成二十六年の七月、それから二十七年の一月に、防衛装備移転三原則の説明、また、先方の装備、施設に係る情報収集など、フィリピンの国防省関係者との防衛装備、技術協力に係る一般的な意見交換を目的として実施したところでございます。
○宮本(徹)委員 ですから、初めに若宮副大臣からは、二〇一五年一月以降にフィリピンとの話し合いの中で向こうからニーズが出てきたというお話でしたけれども、その前に、武器輸出三原則が変わりましたよ、防衛装備移転三原則に変わりましたよということを、わざわざASEAN各国を回って防衛省の職員が説明をしているわけですよね。その中で、日本の防衛装備品で欲しいものはありませんかというのを、ニーズを聞いて回ったわけですよね。それが事実ですよね。堀地さん、どうぞ。
○堀地政府参考人 お答え申し上げます。日本の装備政策に関する意思決定が装備移転三原則という形で閣議決定されましたので、それに関する趣旨を御説明して、これから装備移転三原則に係る趣旨に沿って装備協力等々のことを実現できるよう、可能性について、さまざまな形での意見交換を実施してきたというところでございます。
○宮本(徹)委員 つまり、日本から輸出できるようになりましたよ、日本は協力しますよということで、日本の側から積極的にアプローチをして、日本の側から御用聞きをして回って、その結果、昨年の一月に、日本とフィリピンの間で防衛装備移転についての話し合いが正式に始まるということになっていったわけであります。その上で聞きますが、今回の自衛隊の練習機TC90ですが、フィリピンはこれを何に使うと言っているんですか。南シナ海の警戒監視活動に使うんじゃないですか。
○若宮副大臣 お答えさせていただきます。フィリピン海軍がこのTC90というのを、人道支援、それから、先ほども申しました災害救難、それから輸送及び海洋状況把握のために使用する予定であるというふうには承知をいたしているところでございますが、実際にフィリピンの海軍が具体的に今後どういった活動に使うかということにつきましては、これは他国の運用の問題でございますので、私どもがお答えする立場にはないのではないかなというふうに考えているところでございますが、一般的に考えれば、海洋状況把握ということになりますと、災害対応、環境保全、あるいは海洋監視等が含まれるものではないかというふうに承知をいたしているところでございます。
○宮本(徹)委員 一般的に言えば海洋監視は含まれる、当然、南シナ海の海洋監視も含まれるということで若宮副大臣、よろしいですね。
○若宮副大臣 地域がどこかということは、私はちょっと、フィリピンの方がどういったところを海洋監視をするかということによるかと思いますので何とも申し上げるところではございませんけれども、一般的には、海洋の状況の把握ということには、やはり監視活動というのは入るものだというふうに思っております。
○宮本(徹)委員 では、南シナ海は除外はされていないですよね、一般的に言えば当然。
○若宮副大臣 フィリピンがどこの海に面しているかということにもよろうかと思いますので、太平洋も入るのではないかと思います。
○宮本(徹)委員 太平洋も入るかもしれないと言いますが、南シナ海も除外されていないというのは否定できないわけですよね。それで、私、一つ疑問なのは、今回自衛隊が貸与するTC90という練習機は、もともとはビーチクラフト社がつくっているもので、民間で世界で広く使われている航空機だ。ビジネス機なんかでも使われているということになります。しかも今回は、財政法との関係で、適正な価格で貸与、市場価格で貸与するという話を聞いているわけですが、そうすると、世界で民間航空会社もいっぱい使っていて、民間会社からリースできるものをなぜわざわざ日本の自衛隊が貸与するんですか。
○若宮副大臣 今回の海上自衛隊の練習機のTC90というのは、確かに今宮本委員がおっしゃったとおり、アメリカのビーチクラフト社の民間機のC90というものを海上自衛隊の機材として使用するために、通信機器等を搭載しまして改修を行ったものでございます。機体の性能そのものにつきましては、まさにおっしゃるとおり、民間機でありますC90と大きな差はないというふうに考えているところでございます。今般のTC90の移転ということにつきましては、冒頭も申し上げましたが、フィリピン側からの強いニーズを踏まえまして、フィリピン政府との間でいかなる防衛装備や技術協力が可能かについて協議を重ねてきた結果、関連する、例えば要員の教育ですとか、あるいは訓練や支援、そういった維持整備分野にも広がるかと思いますけれども、支援とともに具体化していくこととしたものでございます。いずれにいたしましても私ども防衛省といたしましては、このTC90の移転につきましては、海洋安全保障分野におけます日本とフィリピンとの間での連携強化に資するものではないかなというふうに考えているところでございます。
○宮本(徹)委員 今、この機体とあわせて、教育、訓練の支援、さらに維持整備についてもというお話がありましたけれども、これはパッケージになっているわけですよ。練習機の移転、この練習機に関連するフィリピン海軍要員への教育、訓練の支援、フィリピン海軍によるTC90の運用を持続していくための維持整備分野にかかわる支援ということを自衛隊が行うことになっているわけですよ。ですから、結局、南シナ海の警戒監視に使う飛行機の機体整備、パイロットの育成まで含めて自衛隊が行っていこう、フィリピン軍の南シナ海警戒監視部隊を日本の自衛隊が育成しようという方向に踏み出すのが、今度のガズミン大臣との合意ということになるんじゃないですか。だから、結局、日本の側から南シナ海の領有権争いに軍事的に関与していこう、こういう方向に踏み出すのが今回の決定なんじゃないですか。
○若宮副大臣 委員ももう十分御承知のところだと思いますけれども、私ども日本というのは、四面環海、まさに海でございまして、海洋国家である我が国といたしまして、平和と繁栄の基礎であります、開かれた安定した海洋、この秩序を強化するということは極めて重要であろうというふうに認識をいたしているところでございます。海上交通の安全の確保には、もちろん万全を期す必要があろうかと思っております。そういった観点からも、フィリピンを初めといたします沿岸諸国自身の能力の向上というのは、これは我が国にとりましても非常に重要なものであるというふうに認識をしているところでございます。また、フィリピンというのは多数の島々によって国土が成り立ちます島嶼国でもございます。ある意味、私ども日本もそうですけれども、災害の非常に多い場所でもございます。人道支援や、災害救援や、輸送あるいは海洋状況の把握に関する能力向上というのは、フィリピン自身にとっても非常に重要な課題ではなかろうかなというふうに承知をいたしているところでございます。このフィリピンの能力の向上ということが、この地域の安定にも大きくつながるものではないかというふうにも考えているところでございます。このTC90の移転につきましては、こうした背景のもとで、海洋安全保障分野におけます日本とフィリピンとの両国間の連携を強化する一環で行うものでございまして、御指摘のように、南シナ海の領有権の争いに日本が軍事的にかかわろうということでは全くございません。
○宮本(徹)委員 すなわち、フィリピンの海軍の能力向上をして地域の安定を図るんだというのは、まさにどこを相手にしているのかというのを考えれば、領有権争いに日本の側からかかわっていこうというふうに諸外国が捉えるのは当たり前だというふうに思いますよ。この間アメリカは、アジアへのリバランス政策を進めてきました。そして、アーミテージ・レポートなどさまざまな形でアメリカ側から日本に対しては、南シナ海の警戒監視活動に加わってほしいということを求めてきたわけですよ。こういう中で昨年は、自衛隊のP3Cもフィリピンとの共同訓練で南シナ海を飛ぶということもありました。さらに、この間アメリカは、この地域で航行の自由作戦を行っております。そして、ことしの四月十四日、カーター国防長官とアキノ大統領の会談では、南シナ海で米軍とフィリピン軍の共同哨戒活動の定期実施で合意しているわけです。このときのカーター国防長官の記者会見では、オーストラリア、日本とも共同哨戒を行いたい、こういうふうに表明をされています。ですから、結局、今進んでいる事態というのは、アメリカと日本が一緒になって南シナ海への軍事的関与を強めようということになっているんじゃないでしょうか。もう一つお伺いしますけれども、河野統幕長とアメリカのスイフト海軍幕僚部長との会談録、昨年の安保法制特別委員会で、私たち、内部文書として出させていただきましたが、その中で、米側からは自衛隊に対して、ASEAN諸国への戦略的寄港をどんどん行ってほしいということが求められておりました。そこでちょっと数を教えていただきたいんですけれども、自衛隊が南シナ海の海域で他国軍と行った共同訓練の回数、二〇一三年度、一四年度、一五年度、それぞれ何回か。そして、一六年度は何回を予定していて、これまで何回行ったのか。この数を教えていただけるでしょうか。
○笠原政府参考人 お答え申し上げます。南シナ海における共同訓練の回数についてでございますが、これは専ら親善を目的とした訓練を除いた数で申し上げますと、平成二十五年度、二〇一三年度ですが、これが二回、平成二十六年度、二〇一四年度が三回、平成二十七年度、二〇一五年度が六回実施をしているところでございます。また、今年度、平成二十八年度、二〇一六年度につきましては、これまでに二回実施をしております。今後の予定については未定でありますけれども、各国との共同訓練を通じて、自衛隊の戦術技量の向上を図るとともに、相手国との協力の強化を促進していくことは有益であると考えているところであります。防衛大綱におきましても、アジア太平洋地域における二国間、多国間による共同訓練、演習を推進する旨定めているところ、防衛省・自衛隊としては、南シナ海等において米国を初めとした各国と二国間、多国間の共同訓練、演習を実施し、これらを通じて、アジア太平洋地域の平和と安定に寄与してまいりたいと考えております。
○宮本(徹)委員 今お話しありましたけれども、二〇一三年度は二回、一四年度は三回、それで一五年度が六回、ことしはまだ一カ月ちょっとしかたっていないけれども二回。今年度は二回ということですから、どんどん南シナ海の領域での他国軍との共同訓練の回数もふえてきているわけですよ。ですから、この地域にどんどん自衛隊がいろいろな形で乗り出していっているということになっています。きょうは木原外務副大臣にも来ていただいております。日本は南シナ海の領有権争いの直接の当事者ではないわけですよ。その日本が南シナ海の問題への軍事的関与を大きく拡大していくことでこの地域の領有権争いというのは解決に向かうというふうに考えているんでしょうか。
○木原副大臣 お答えを申し上げます。もう既に若宮副大臣の方から御答弁いただいたとおりだというふうに思いますが、今般の防衛装備協力は、副大臣からも答弁あったように、人道支援・災害救援、輸送及び海洋状況把握等に係るフィリピンの能力向上のために実施するものであって、特定の国または地域を念頭に置いたものではないと承知をしております。したがって、今委員御指摘がございましたが、この南シナ海の領有権争いに日本が軍事的に関与するといった指摘は当たらないものというふうに考えております。他方で、この南シナ海における航行の自由及びシーレーンの確保というものは、我が国のみならず、地域の平和と繁栄に直結する課題でありまして、国際社会共通の関心事項であります。したがいまして、私どもは、海洋における法の支配を遵守する、こういう立場から、三つの原則を国際社会に訴えております。まず、主張するときは国際法にのっとって主張すべきであろう。二つ目は、武力の威嚇や力による現状変更は行ってはならない。そして三つ目は、問題を解決する際は平和的に国際法にのっとって解決すべきである。こうした三原則を外交を通じて国際社会で繰り返し主張し、多くの国から賛同を得てきたというふうに理解をしております。引き続き、海洋における法の支配の実現に向けて、外交努力を通じて関係国との協力を進めていきたいと考えております。
○宮本(徹)委員 やっているのが外交努力だけじゃないから私は質問させていただいているわけですよ。先日の日中外相会談でも、たしか中国の側から日本に対して、対抗するという考えを捨てるべきだということをこの南シナ海の問題にかかわって発言があった、こう報道もあったわけですよ。日本が外交で訴えることは対抗じゃないですよ。当然、南シナ海行動宣言に反する行動に対しては、これは言っていかなきゃいけない話ですよ。ただ、同時に、この地域に、フィリピンに対して自衛隊が武器を貸与していく、幾ら日本政府が否定しても、周りの国々は、自衛隊が軍隊に対して物を貸し出していっているわけですから、これは、軍事的関与を拡大していると見るのは当たり前の話だと思うんですよ。そして、南シナ海行動宣言を初めに紹介しましたけれども、紛争を複雑化あるいは激化させる行動を自制するとなっているわけですよ。これは中国に対しても当然そうですけれども、この精神からいったら、日本政府がフィリピンに対してこういうものを貸与していくということ自体も、これは紛争を複雑化するものになっているんじゃないですか。どうですか。
○木原副大臣 もう繰り返しになって大変恐縮ですが、あくまでも今回の自衛隊の練習機の移転というのは、こういう人道支援、災害救援、輸送及び海洋状況把握に係るフィリピンの能力向上のために実施するものであって、特定の地域、国を念頭に置いたものではないということであります。そして、いずれにしても、フィリピンがこういう能力向上を図ること自体はこの地域の安定に資するものである、このように考えております。また、COCあるいはDOCの話を今、特にDOCの話を挙げていただきましたが、私どもは、外交を通じて、中国はもちろんでありますが、ASEAN各国に対して、DOCをしっかり守ること、遵守すること、そして、行動規範であるCOCを早期に合意すべきであるということを双方に対して繰り返しさまざまなレベルで、また、さまざまな機会に呼びかけてきているというところであります。こうした努力を今後ともしっかりと続けてまいりたいと考えております。
○宮本(徹)委員 ですから、COCにDOCを発展させていく、そのための努力をやはり徹底してやるというのが本来日本政府がやるべき仕事なわけですよ。だから、それとは違う方向なわけですよ。DOCの考え方からも背くことを、今はこの自衛隊の練習機の貸与ということでやっているんじゃないですか。フィリピンは、一九七一年から南シナ海で実効支配しているパグアサ島について、ことしに入ってから、管制塔を設置するということを発表しました。そして滑走路の改修を急ごうとされています。ここには滑走路、千三百メートルのものが今はあるわけですよ。これだけ大きければ、当然、今度貸与するTC90の離発着だって楽々できる滑走路があるわけですよ。そうすると、ここを使って、海洋状況の把握ということで警戒監視活動を行っていくということになるわけですよ。ですから、軍事に対して軍事という動きが進んでいるわけです。それを後押しするようなことを日本はどちらに対してもやらない。どちらに対しても、DOCをちゃんと遵守せよ、COCに発展させるために真剣に話をするべきだ、こう働きかけるべきなわけですよ。もう一つ聞きますけれども、こういう自衛隊機をフィリピンに貸与していく、そういう形でこの南シナ海の問題にかかわっていくということについて、国民的コンセンサスがあるというふうに木原副大臣はお考えなんでしょうか。
○木原副大臣 これはもう明確に申し上げた方がいいと思いますが、私どもの最大の眼目は、国際法にのっとって平和裏にこの問題を解決していく、そしてその外交努力を尽くしていくということであります。他方で、議員御指摘のとおり、冒頭御指摘いただいたように、中国を初め、現状変更を一方的にするという試みが続いていることも事実であります。したがいまして、DOC、COCをつくる過程において、こういう一方的現状変更の試みが余り進まないようにしていくということも大変重要なことであります。そういう意味で、関係国を含めて全ての国が能力を向上させて、監視活動も含めてしっかりとした対応をとっていくということは、このDOCあるいはCOCをしっかり貫徹するという意味においても、非常に重要なことであろうというふうに思っております。そして、今、国民の理解というお話がございました。私どもは、やはり先ほど防衛副大臣からもお話がありましたが、四方八方を海に囲まれて、そして、海を通じてこの国の平和と繁栄を守っている国でありますし、このことは、海の航行の自由がしっかり確保され、そしてまた海において国際法が遵守をされるということは、我が国のみならず、国際社会全体の共通の利益であろうというふうに思います。そういう意味で、責任ある国として、海において国の法の支配が貫徹されるように、最大限努力をしていくということについて国民の皆様に十分理解を得られるもの、このように考えております。
○宮本(徹)委員 法の支配が貫徹されるようにすることとそこに対して自衛隊機を貸与していくというのは、かなり論理的な飛躍があるわけですよ。法の支配を貫徹するためにDOCをCOCに発展させるのは、やはり外交努力しかないわけですよ。相手側からすれば、自衛隊がここにいろいろな形でかかわって乗り出していく、そうすれば反発を呼ぶ可能性があるわけですよ。実際、一昨年ですか、アジア安全保障会議でも、議長国だったシンガポールのリー首相からは、やはりアメリカがあそこに入ってくることについて、それは対抗が対抗を呼ぶんだ、だから、そういう悪循環を絶たなきゃいけないんだというお話もあったわけですよ。ASEANの中でも、話し合いでの解決、努力というのはいろいろな形でやられているわけですよ。それこそ後押しすべきだというふうに思います。きのう、フィリピンの大統領選挙がありました。ドゥテルテ氏という方が次期大統領になって、報道では、南シナ海の問題では中国と直接話し合っていこうということで、現政権から方針が変わるのではないかという可能性も報じられております。やはり、フィリピンの中も軍事的対抗一本やりというわけでは決してないと思いますよ。だから、フィリピンの大統領選挙の結果も踏まえる。それから、フィリピンが、この間、国際海洋法条約で仲裁手続をやってきましたけれども、これの仲裁も遅くない時期に出るわけですよ。でしたら、やはり日本がやるべきは、そういう状況の変化を生かして、やはり五国一地域に真剣な話し合いのテーブルをつくっていく、そのための外交努力こそやるべきなんじゃないですか。
○木原副大臣 繰り返しになって大変恐縮ですけれども、今、比中間の仲裁裁判のことについてもお触れをいただきました。私ども、中国側に対しましても、そしてまたフィリピンに対しましても、いずれにしても、こういう仲裁裁判の結果についてはきちっと受け入れるべきである、そのことが法の支配を貫徹することにつながるということを繰り返し申し上げてきております。そして、私どもは、この問題は、いずれにしても、国際法にのっとって、そして、一方的な行動を伴わずに平和的に解決すべきであるということを繰り返しさまざまなレベルで、また、さまざまな機会に関係国に申し述べてきているところでありますので、まさに委員御指摘いただいたように、そういった外交努力をしっかりと続けてまいりたいというふうに思っております。
○宮本(徹)委員 ですから、そういう外交努力をだめにしてしまうのが、今回のような、自衛隊機を貸与して軍事的にかかわっていくやり方だということを重ねて指摘しておきたいと思います。さらに、ふえ続ける防衛費との関係で今回の問題をちょっとお聞きしたいんですけれども、今回、新たなヘリ用の訓練機を購入したので、TC90五機を用途廃止して貸与するんだというふうに聞きました。まだまだ使える練習機を用途廃止できるぐらい自衛隊は、無計画もしくはぜいたくに航空機の購入をしているということなんでしょうか。
○若宮副大臣 厳しい財政状況の中で無計画に、ぜいたくには決して、大事な大事な税金でございますので、使うようなことは全くございません。そのことは冒頭申し上げておきたいと思っております。この海上自衛隊の練習機のTC90でございますが、気象条件の制約のため、目視に頼ることなく、航空機の姿勢、高度、位置及び進路の測定を計器のみに依存して行う計器飛行の教育に使用いたしているところでございます。これまで、海上自衛隊におきましては、この計器飛行教育に使用できる回転翼機を有していなかったんです、委員が今御指摘になりましたけれども。固定翼機、回転翼機の双方の計器飛行教育においてこのTC90というのを使っておったところでございます。一方、回転翼機の計器飛行教育につきましては、今御指摘になりましたように、平成二十七年度の末に新たに導入されましたTH135、十五機をいよいよ購入をさせていただくことになりましたので、この回転翼機の操縦教育に加えまして計器飛行教育も実施できるようになったことから、このTC90が、十八機保有をいたしてございますが、取得時期の古い五機を早期に用途廃止することが、運用に係る経費を合理化する上でも適切ではなかろうかというような判断に至ったところでございます。その上で、このTC90がフィリピン海軍のニーズに、まさにフィリピン側から、冒頭も申し上げましたけれども、ぜひとも何とかならないかという強い御希望がございまして、それでこのTC90五機を早期に用途廃止して、フィリピン海軍に貸与することとしたものでございます。御指摘のように、ぜいたくかつ無計画に航空機を購入しているということは全くございませんで、厳しい財政状況の中、本当に切り詰めて切り詰めて、真剣に考えた上で選定をしているところでございます。しかしながら、この海洋安全保障分野におけます両国関係につきましては、やはり大きな強化をしていかなければいけないというふうに考えているところでございまして、このTC90の今回の貸与につきましては、大きな、資する意味があるのではないかなというふうに考えているところでございます。
○宮本(徹)委員 自衛隊がこのTC90を購入している契約価格、一番新しいのを見ましたら、一機当たり七億八百万円、かなり高額なものになっているわけですよ。TC90自体は、残りの十三機というのは使い続けるわけですよね、当然。それはなぜかというと、計器飛行の訓練で固定翼機の訓練も必要だから使い続けるわけですよ。用途廃止せずにこれを使い続ける。あるいは、維持費がかかると言うんだったら、しばらく倉庫に置いていてもいいですよ。そういう形でぎりぎりまで使い続ければ、次の購入の時期というのは延ばせることになりますよね。今伺っているのは、TC90の寿命は九千五百飛行時間だ、そのうち、貸与する飛行機は二千時間程度の飛行寿命がまだあるものをやるわけですよね。ですから、何年もTC90の次の購入時期を延ばすこともできるわけですよ。先ほど、用途廃止した方が経費は合理的だということを言いますけれども、そういうことには絶対ならないと私は思いますよ。機体の一機当たりの契約額は七億八百万ですけれども、そのうち機体そのものの輸入費用というのは四億三千二百万ですよ、計算したら。それに自衛隊で使用するための機器だとかを積んだり、あるいは改修で多額にお金をかけてつくっているわけです。自衛隊向けの付加価値がついた、高いものにこれはなっているわけですよ。それをフィリピンに市場価格で貸すとなったら、当然、この自衛隊向けの付加価値の部分なんていうのはほとんど換算されない。何ぼぐらいだと職員の方に聞いたら、ほんのわずかな、数千万という話、一機当たりということを言っていましたけれども、そういう額になってしまうわけですよ。ですから、およそこれが経済的に見て合理的な判断だということは言えないというふうに思います。その上で、最後に財務大臣にお伺いしますが、中谷大臣は今後の自衛隊の装備品について、無償供与だとか低額貸し付けという問題について記者会見で言及されております。実際、昨年防衛省が出している検討会の報告書では、「現状では、財政法第九条との関係で、適正な対価で売り払うことが必要であり、無償又は低価で装備品を譲渡することは基本的にできない。」「不用となった中古装備品、部品について、」「相手国のニーズに応じて無償又は低価で移転することを可能とする制度を整備する必要がある。」こういうふうにこの報告書には書いてあります。伺いますが、一つは、財務省はこの報告書ができるときに何らかかかわっていたのか、二つ目に、フィリピンへの貸与に当たって、この制度を変えること、無償もしくは低価で移転する制度について内部で検討した事実はあるのか、三つ目に、国民の貴重な財産を諸外国の軍隊の増強のためなどに使うべきではないというふうに思いますが、その三点について財務大臣に御見解をお伺いしたいと思います。
○麻生国務大臣 まず、御指摘の検討会ですが、防衛省の事務方、防衛装備・技術移転に係る諸問題について、これは外部有識者から意見をいただくということで、今後の政策立案に役立てるために開催したものと聞いておりますので、財務省等、この検討会の報告書の取りまとめに関与したということはありません。それから、国有財産法令上、用途廃止された航空機の貸与、貸し付け等々については、これは当該航空機を所管するいわゆる各省各庁の長が行うということにされておりますので、フィリピンの貸与につきましても、防衛省の判断のもとに実施されるものと承知をしておりますので、財務省として特段の検討を行ったわけではありません。三番目の、御指摘の、中古装備品等を無償または低価、安い価格で移転する制度について、具体的な制度案というものが示されていない段階において見解を示すということは困難であります。
○宮本(徹)委員 ニューズウィークの報道によりますと、制度案について検討したけれども、今回は、アキノ大統領退任までには間に合わないからそういう無償の制度にはしなかったというふうに書かれていますが、では、財務省がかかわっていないんだったら、防衛省でそういう検討をされたということですか。
○若宮副大臣 今の御指摘でございますが、私どもといたしましては、先ほどお示しされた有識者の検討会の報告書等々の提言を踏まえまして情報収集等を行っているところでございますけれども、今後、不用となりました中古の防衛装備品を無償または低価で移転する制度を創設すべきか否かということを含めて検討する必要はあろうではなかろうかということは考えているところでございます。
○宮本(徹)委員 これは財政法の縛りがありますので簡単にはできない、法改正がない限りできない仕掛けになっております。私、ここで国有財産の問題については、福祉施設への無償貸し付けの問題も繰り返し麻生大臣に質問もしてきましたけれども、法律に書いてあるような社会福祉法人への無償貸し付けすらやらずに、防衛装備品について無償貸し付けの制度をつくるなど言語道断だということを申し上げまして、質問を終わります。