今治と京都の提案の比較検討は本当におこなわれたのか? 大臣答弁を検証してみました。

 7月24日、25日の加計学園疑惑の集中審議でも、野党側の「加計ありきではないか」という追及に対して、政府側は「プロセスに一点の曇りもない」と繰り返しました。山本大臣は、1校に限ることになった時点で、12月下旬に今治と京都の提案書を比較して、今治が熟度が高いということで決めたと説明しています。

 私の先日の質問で、山本大臣が平成30年度開設という条件では加計学園以外間に合わないという意見がパブリックコメントでよせられていたことを知りながら、平成30年度開設を決定したことが明らかになりました。「加計ありき」で加計学園だけが通れる穴をあけていった疑いはいよいよ濃くなっています。12月下旬に今治と京都の提案書を比較して今治側に決めたという説明は虚偽の疑いが濃厚です。さらにいえば、この間の政府側の答弁・説明を聞いていると、12月下旬に今治と京都の提案書の比較など実際はやっておらず、あとからつくりあげた話である可能性が濃厚だと考えます。
以下にその理由を列挙します。

理由1
 2つの提案から1校にしぼるという重大な判断をおこなったにもかかわらず、その検討の議事録がない。

 補足的に説明しますが、内閣府の担当者にいつ検討の会議をおこなったのかと聞いても、12月下旬という以外に、具体的な日がでてきません。検討メンバーをきくと、大臣、審議官、事務局長など内閣府内で決めたといいますが、これでは府内で口裏を合わせればすむ話です。政府の言い分通りであれば、プロセスに1点の曇りもないと主張する国家戦略特区の民間委員のみなさんも、1校にしぼるというもっとも公平性が問われる場面からは排除され、ブラックボックスになっていたということになります。だいたい今治と京都の提案を比較するのに、獣医学やライフサイエンスや感染症の水際対策などの知見を持った専門家が誰一人参加せず、優劣の判断がつくはずがありません。かりに、政府説明のメンバーで優劣を決めたとしたら、それこそ、「加計ありき」で判断したということになります。

理由2
 提案書を比べて今治側が熟度が高いと説明した内容には、その段階の提案書には書かれておらず、今年1月にだされた応募書類に書き込まれた内容が盛り込まれていることをはじめ、不自然な内容が多すぎる。

 今治と京都の提案を比べて今治の熟度が高いと判断した詳細な内容が山本大臣が語ったのは、私の記憶では、6月13日の参議院内閣委員会から。その日の答弁は下のとおりです。

○国務大臣(山本幸三君) 本年一月四日の事業者公募の手続に入る前の年末年始の段階で、今治市の提案の中に、専任教員の数、あるいは地元との連携、教育内容の各点について、事業の早期実現性という観点から京都府の提案よりも今治市の提案の方が熟度が高いと判断して、今治市において構成員公募を行うことといたしました。
 具体的には、専任教員の確保については、今治市は専任教員を七十名確保するとしており、その確保先についても、海外製薬企業、中央官庁のほか国際機関での経験者、あるいは国際協力機構を含めて途上国経験を持った人材等が示されており、教員の確保の道筋が立っていると言えます。
 地元との連携については、水際対策について、今治市は、四国知事会等が要望するなど広域的な対策を強化する具体的なアクションを起こしております。他方で、京都府等は、獣医学部のある大阪府との連携が必ずしも確保されていないなど不十分と評価せざるを得なかったということであります。また、獣医学部の設置は地域の活性化に大きく貢献する必要があることから、京都府等の提案にその具体性がない反面、今治市は、まち・ひと・しごと総合戦略等に位置付けた上で、卒業生を地元の産業動物分野に就職させるための奨学金の仕組みなどの工夫を凝らしているところであります。
 京都府等はライフサイエンス研究を提案しておりますが、水際対策に関する部分が薄いと。他方、今治市は、現場体験学習などを通じて卒業後に産業動物を扱う分野に進むよう誘導するとともに、畜産業のみならず、地元の水産資源を対象とした感染症対策など、地元固有の資源に着目した、より具体的な内容になっていると評価できるところであります。
 このように、今治市の提案は事業の早期実現が見込まれると判断したものであります。

 今治市が熟度が高いと判断した根拠の第一に「専任教員の確保」を山本大臣はあげています。確保先について、「 海外製薬企業、中央官庁のほか国際機関での経験者、あるいは国際協力機構を含めて途上国経験を持った人材等が示されており」と述べていますが、国家戦略特区の提案書も構造改革特区の提案書のいずれにも、人材確保先についてこうした内容は記されていません。人材確保先が記されたものがでてくるのは、今年1月の応募書類の中身です。政府が今治にしぼったのは12月下旬ですから、全くなりたたない答弁です。もともとの今治の提案書には「専任教員を72名確保」とだけありますが、これは「確保したい」ということなのか「確保した」ということなのか、内閣府の担当者にうかがいましたが、どちらかわからないという説明でした。その後、内閣府からは、人材確保先の内容は、提案書にはないが、12月下旬に、今治市側に聞き取りをした内容だと説明がきました。提案書を比べて決めたという答弁がなりたたなくなると、説明内容を修正していく、これではいよいよ、12月下旬に比較検討をおこなって今治に決めたという説明がうさんくさくなっていきます。だいたいもし、今治市側に聞き取りをおこなったのであれば、京都側に聞き取りをおこなわなければアンフェアでありますが、次にみるように、京都側については比較検討のための聞き取りなどおこなった形跡はありません。

 今治市の熟度が高いと判断した根拠の第二が水際対策についての「地元との連携」を山本大臣があげています。そして、「京都府等は、獣医学部のある大阪府との連携が必ずしも確保されていないなど不十分と評価」と述べています。はっきりいってこれほど、事実をあべこべに描いている話はありません。 京都側の関係者からは、でたらめをいうな、という声も聞こえてきます。
 京都府・京都産業大学側が国家戦略特区のWGのヒアリング等にむけてまとめた非公開資料を掲載しましたので、ご覧いただきたいと思います。

京都産業大学総合生命科学部、鳥インフルエンザ研究センターが獣医学領域及び畜産業界に果たしてきた実績

 京都産業大学は獣医学部創設にむけて鳥インフルエンザ研究の重鎮を招聘し、2006年に鳥インフルエンザ研究センターをたちあげ、大阪、兵庫、京都、鳥取など周辺県の家畜防疫のための協議会等に委員をだすなど、すでにこの分野での多くの実績をあげています。どうしてすでに連携をとり実績がある側が不十分とされ、まだ実績はなくこれからやってほしいという要望段階の今治市の方がすぐれていると判断したのか、合理的な説明はおよそできないと考えます。大臣の答弁内容自身が、加計ありきで、京都産業大の実績の調査などなにひとつやらなかったということの証明になっています。

 もっとも大きな疑問は、獣医学部新設の規制緩和の第一の理由としてかかげられてきた、「先端ライフサイエンス」分野についての比較検討は山本大臣の答弁にはまったくでてきません。大臣の答弁では「京都府等はライフサイエンス研究を提案しておりますが」という一言があるだけで、具体的な内容については京都も今治もなにひとつ比較の際にはふれられていません。過去の答弁を振り返ると、山本大臣は野党の追及に対して、京都産業大の提案書の内容を使い、既存の大学では実験動物としてブタを扱うところがないので、ブタなどを扱うライフサイエンス分野の獣医師養成の必要性を力説していました。提案書や会議録をみると、京都産業大学はノーベル賞の山中教授のIPS細胞研究所との連携を提案していました。IPS細胞はガン遺伝子をつかうので、リスクがあり、再生医療などに生かしていくためには、マウスやラットだけでなく人に近いブタなどでの実験が不可欠で、実験用のブタを扱える獣医師の養成が必要だとWGのヒアリングで説明されていました。そしてWGの民間委員のみなさんも説得力があると感心されていました。
 ライフサイエンス分野の比較検討が語られない一方で、山本大臣の答弁では、なぜか、「獣医学部の設置は地域の活性化に大きく貢献する必要がある」という、獣医学部新設の規制緩和の理由とまったく離れた観点をもちだして判断したしています。まったく不可思議です。しかも、大臣の答弁には「京都府等の提案にその具体性がない反面、今治市は、まち・ひと・しごと総合戦略等に位置付け」とありますが、今治市の提案のどこをみても、、「まち・ひと・しごと総合戦略等に位置付け」などの文言はでてきません。内閣府からも後から、「提案書に記載はございません」と正式な回答がありました。

 以上、山本大臣の答弁内容を検証しましたが、昨年、12月下旬に今治と京都の提案を比較検討をまともにやったとはおよそ考えられません。 「プロセスに一点の曇りもない 」どころか、「今治・加計ありき」を隠すために、ごまかしにごまかしの答弁を積み重ねているのではないかと疑わざるをえません。

 疑惑究明のためにたださなければならない点はまだまだたくさんあります。このままでの幕引きなど決して許されません。臨時国会をただちにひらくことを求めます。

※ この論点をずっとつめていくと、おそらく、政府側は、中身ぬきの、「早期実現性」だけが今治市の優位性とこたえざるをえなくなると想像されます。しかし、2018年度開学に限る条件を付す必要はなかったのではないでしょうか。開設期間は常識的な準備期間を考量したものにすればよかったのです。獣医師会の反対で1校にしたといいますが、160名もの巨大な獣医学部を加計学園に認めるのではなく、80人、80人、京都産業大と加計学園で分けるという方法でも考えられたはずです。獣医師会側にとっても供給される獣医師の数が同等なら1校にこだわり続けるということもなかったはずです。政府が「早期実現性」を強調すればするほど、事前に内閣府と2018年度開学のスケジュール感を共有し、いわばフライングをして教員の確保やボーリング調査などはじめていた「今治・加計」のためだけに穴を開けたということになります。