米朝緊迫時、防衛省は朝鮮半島有事の安保法制の発動について検討していたが、検討内容は回答拒否
5月17日付朝日新聞に退任した河野統幕長のインタビューが掲載されました。
もっとも緊迫したのはいつか、と問われて、次のようにこたえています。
「17年です。北朝鮮が弾道ミサイル発射の距離を延ばし、射程内にグアム、ハワイ、ワシントンとエスカレートさせてきた。米朝の首脳同士で『ロケットマン』『老いぼれ』と言葉の応酬が始まり、9月の国連総会でトランプ大統領は、北朝鮮が挑発をやめなければ『破壊する』と言った。違った段階に来ていると思いました」
「電話で米軍のダンフォード統合参謀本部議長と2、3日に1度、ハリス太平洋軍司令官とも準備態勢の情報を交換しました。米軍が軍事行動に踏み切り朝鮮半島有事になる可能性を考え、16年に施行された安保法制の下で自衛隊がどう動くか、私の責任で統合幕僚監部で頭の体操をしました」
米軍が攻撃するレッドラインについて問われて次のようにこたえています。
「具体的に言えません。北朝鮮を放置すれば米国の国益を大きく損ねる段階を見極めるということです。やる、やらないを決めるのはトランプ大統領と安倍総理。幸い米軍から軍事行動をするという連絡はなかったが、総理には随時米軍の態勢を報告していました」
私は、このインタビューを読んで、戦慄を覚えました。当時、トランプ大統領はあらゆる選択肢をテーブルの上においているといい、北朝鮮に軍事的プレッシャーをどんどん強め、一方、北朝鮮はミサイル発射実験を繰り返し、緊張がエスカレーションする状況がありました。あのとき、トランプ政権は軍事行動を本当に選択肢にしており、アメリカが攻撃に踏み切れば、自衛隊も安保法制で米軍とともにたたかうことを検討していたというのです。
さいわい、韓国のムンジェイン大統領先頭にした努力で、2018年、オリンピックを機に、南北首脳会談、米朝首脳会談と、戦争の危機から対話の局面にきりかわりました。しかし、河野統幕長のインタビューが示していることは、安保法制ができたことによって、アメリカが軍事行動をはじめれば、日本が参戦する仕組みがまぎれもなくできているということです。
このときいったい、いかなる検討をどういう段階でやったのか、米軍とどういうやりとりをしていたのか、インタビューが出た5月17日、防衛省に、資料要求をおこないました。防衛省からは、省内で検討しているので待ってほしいという連絡が繰り返されたあげく、昨日6月7日、「わが国の安全保障上、これ以上の詳細のお答えは差し控えさせていただきます」という返答がきました。
省内の検討に3週間もかかったということは、どういうことなのでしょうか? しかも防衛省は「わが国の安全保障上」といいますが、わが国有事でなく、他国の有事に参戦する話であり、「わが国の安全保障条」という言い方もおかしな話です。