2019年10月30日 衆院厚生労働委員会 公的病院再編統合リスト撤回を
厚生労働省が全国424の公的病院などの実名をあげて再編統合を視野に入れた再検証を求めた問題で、日本共産党の宮本徹議員は30日の衆院厚生労働委員会で、病院リストには合理性のかけらもないと撤回を求めました。
宮本氏は名指しされた東京都内の病院から聞き取った実態を紹介。奥多摩病院の場合、年間400回の往診も含め、山あいの地域に365日24時間密着してあらゆる医療を提供しています。先日も台風被害で孤立した地区に薬を届けました。宮本氏は「この病院がなければ近くの救急病院まで救急車で1時間以上かかる集落もある。住民の健康は守れない」と指摘しました。
国立病院機構村山医療センターの場合、脊椎(せきつい)・脊髄(せきずい)の手術症例数は全国トップクラス。全国から患者が訪れます。宮本氏は、難病医療などを担う病院もリストにあげられているとして、国民に必要な医療が提供できなくなりかねず、病床削減の数ではなく、現場の実態と患者のニーズから出発すべきだと強調しました。
加藤勝信厚労相は、リストについて「全国的一律的に、しかも、ある時期のデータをベースとしている」と述べ必ずしも実情に沿っていないと認め、市民の心配を喚起したことは反省するが、不足があれば別のデータも含めて議論してほしいなどと答弁。さらに「地域にとってなくてはならない医療機関も入っている」と認めました。宮本氏は「そんなリストを出すこと自体が間違いだ」と撤回を求めました。
以上2019年10月31日付赤旗日刊紙より抜粋
≪第200回国会2019年10月30日衆院厚生労働委員会第2号 議事録≫
○盛山委員長 次に、宮本徹君。
○宮本委員 日本共産党の宮本徹です。まず、年金について伺います。年金の今度発表されました財政検証を見ますと、年金の給付水準の引下げが基礎年金に集中しているわけですよね。ケース三の場合で見ると、所得代替率は、基礎年金は二八%削減、報酬比例部分は三%削減。国民年金だけや、あるいは報酬比例部分が少ない方、低年金の人ほど年金の削減が大きくなる。この現状は放置するわけにはいかないと思います。この基礎年金の方がなぜ削減が大きいのかというと、財政状況のよくない国民年金勘定をもとに基礎年金の削減率を決めているからであります。きょう提案したいのは、基礎年金の減額を抑制するために、国民年金と厚生年金の財政統合について検討していただきたいということです。私、厚労省に試算を出してほしいという話をしたら、試算を出してもらえませんでしたので、配付資料をお配りしました。これは、国際医療福祉大学教授の稲垣誠一先生の試算、概算です。御承知のとおり、稲垣先生は厚生労働省の年金局でも勤められた方でございます。裏表ありますけれども、一番右側が財政統合した場合どうなるかということですけれども、ケース三で見れば最終的な年金の削減は九%ということですから、今の仕組みでは基礎年金はマイナス二八%、三割近く減ってしまうわけですけれども、財政統合すれば九%ということです。モデル世帯で見れば、マイナス二〇%が財政統合すればマイナス九%ということであります。それから、表面、戻っていただきまして、所得代替率はどうなるのかということですけれども、ケース三でいけば、今の仕組みでいけば五〇・八%になるわけですけれども、財政統合すれば所得代替率は五六・一%ということで、現行よりもかなり改善するということになります。これは、基礎年金は、ふえればその分国庫負担も増加するからこうした効果が出てくるわけでありますけれども。大臣にきょうは提案したいのは、やはり国民年金と厚生年金の財源を一本化すればこうした効果が出てくるわけでありますから、ぜひこの財政統合についても検討していただきたい。試算も、ぜひ厚労省としてもやっていただきたいと思います。いかがでしょうか。
○加藤国務大臣 今回の財政検証と前回と比べて、基礎年金の減額といいますかの状況は、若干でありますけれども、どのケースを比べるかですが、二〇一四年のケースEと今回のケース三を比べれば、若干は改善されていると言える姿ではありますけれども、ただ、委員の御指摘のように、このマクロ経済スライドの中で、基礎年金の下がる率が報酬比例部分に比べて大きいというのは、これは事実な御指摘であります。その上での話でありますけれども、ただ、そもそも、この基礎年金制度というのは、全国民に共通する給付を支給する制度として導入をされて、費用も被保険者全体で公平にということで、基本は定額、もちろん被用者の場合にはそれは所得比例で負担をしているわけでありますけれども、そもそもそれぞれが異なる仕組みになっているわけでありますから、それを一緒にするかどうかということについて、確かにそういう主張をされる学者の方もおられるのは私も承知をしておりますけれども、さまざまな御意見があるということであります。また、現在、当面は、厚生年金、基礎年金それぞれにマクロ経済スライドがかかるということ、またマクロ経済スライド自体が徐々に給付水準を調整するということでありますから、今直ちに何か対応しなければ、統合しなければならない、こういう状況にはないというふうには思っております。また、今回、被用者保険のさらなる適用拡大等の議論もあります。この適用拡大は、国民年金財政をも改善させるという結果も、先般、財政検証の結果において確認をされているわけであります。また、基礎年金は、所得の多寡にかかわらず一定の年金額を保障する再分配機能を有する給付であって、その再分配機能を大きく損なわないようにしていく、その視点は非常に大事だというふうにも思っております。そういった意味で、まずは被用者保険の適用拡大に向けた検討を進めるとして、今後の課題としては、所得再分配機能の維持のためにどのような方策が可能なのか、これについては今後とも引き続き議論はしていかなければならないというふうに考えています。
○宮本委員 これは、学者の提案だけじゃなくて、元厚労大臣の田村さんもいろいろなメディアなんかでも、きょう、今はいらっしゃらないですけれども、主張されている話ですよ。与党の中からもそういう意見が出ているんじゃないですか。ですから、これは本当に、基礎年金の減額が大変だから適用拡大という話も今一生懸命議論されているんでしょうけれども、この改善の効果、グラフを見ていただければわかりますけれども、適用拡大は当然必要ですけれども、それに増して大きな、基礎年金の削減率を抑える効果が財政統合にはあるわけですよね。大体、なぜ、国民年金勘定の財政状況で基礎年金の削減率を決めなきゃいけないのか。この仕組み自体、合理的根拠は私はないと思うんですよね。基礎年金は、だって、国民年金加入者だけじゃないんですから。厚生年金に加入している方も含めて支給されるわけですから、財政状況の悪い国民年金勘定で基礎年金の削減率を決めていくという今のやり方をどう改めるのかというのは真剣に検討していただきたい。緊急な課題じゃないというお話をされましたけれども、私は緊急に検討すべきだと思いますし、さらに、私たち、この間、先日の選挙でも提案しましたけれども、厚生年金の保険料の標準報酬月額の上限を引き上げるということを訴えていますけれども、それを考えても、財政統合をやれば、この厚生年金の保険料を引き上げていくということも、削減率、カットの率を小さくしていく上では大きな力になっていくというふうに考えておりますので、どうやって基礎年金をしっかり守っていくのかという観点で検討をお願いしたいと思います。次の問題に行きます。地域医療構想の問題であります。先ほど来議論になっております。四百二十四の公的病院の実名を、厚生労働省が名前を挙げて、再編統合を視野に入れた再検証を求めました。先ほど私ちょっと議論を聞いていましたけれども、ちょっと大臣に事実だけお伺いしたいんですけれども、これが公表されてから、大臣御自身は、この四百二十四の病院のどこかの院長先生からお話を直接伺ったりとかされましたか。
○加藤国務大臣 直接は伺っておりません。院長先生からという意味においては。
○宮本委員 ぜひ話を伺っていただきたいと思うんですね。東京でいえば、十の病院が名指しされております。私、この間、名指しされた都内の病院のうち、台東病院、村山医療センター、奥多摩病院のお話を伺ってきました。話を聞けば聞くほど、それぞれの病院が地域住民にとっても日本国民にとってもなくてはならない病院だということがよくわかりました。今回、全国で多くの過疎地域の病院が対象になっております。東京の奥多摩病院は、近隣の救急病院まで救急車で四十分かかります。奥多摩町には峰谷という中心から離れた集落がありますけれども、そこから数えると、奥多摩病院がなければ一時間以上救急車でかかるということになります。そういう中で、奥多摩病院は、三百六十五日二十四時間、四人の常勤医で地域に密着したあらゆる医療を提供しております。高齢化が進んでいます。通院困難もある。そういう中で、年間四百回の往診を行っている。訪問看護は千七百回。町中心部から離れた二つの集落にも診療所を設けて、毎週そこで患者さんを診るということもやっています。さらに、今回、台風被害で日原地区というところが孤立しました。五十世帯ぐらいあります。山道を徒歩で通るしかなくなったわけですね。そのときに、どうこの集落の方々の健康を守るのかということで、町の保健師が山道を通って、全戸訪問で一軒一軒回ったわけですよ。そして、他市の病院にかかっている人も含めて、体調を伺い、必要な薬は何なのか、こういう話を聞いて回って、奥多摩病院が他市の病院とも確認をとって、奥多摩病院の患者はもちろんのこと、他市の病院にかかっている方も含めて、地域連携で薬を届けるということをやりました。四十分も救急車で離れたような病院では、同じサービス、住民の健康を守る同じ仕事というのはとてもできないと思いますが、大臣、いかが思われますか。
○加藤国務大臣 委員から奥多摩病院のお話がありました。ちょっと、私自身、奥多摩病院、直接存じ上げているわけではないので、個別について評価をするというのは差し控えたいというふうに思いますけれども。今回の分析においては、診療実績が特に少ないか否か、またあるいは類似かつ近接にそういう医院がないか、こういう視点に立って分析をさせていただいたわけでありますけれども、当然、その中にはそれ以外の診療を中心にやっているところもあります。また、地域にとってなくてはならない医療機関というのも当然入っているわけでありますので、それはそれぞれの地域の中でそうした観点からしっかりと御議論をいただいて、見直すべきことは見直し、維持すべきものは維持していただく、こういう議論をしていただければと思っております。
○宮本委員 四百二十四のリストに地域にとってなくてはならない医療機関が入っているんだったら、そんなリストを出すこと自体、間違いじゃないですか。奥多摩病院の院長先生も、厚労省の出したあの基準で評価されたら正直心が折れる、こうもおっしゃっておられました。さらに、もう一つお伺いしますが、国立病院機構の村山医療センター、脊椎、脊髄の手術症例数は全国トップクラスの病院になります。リハだとか整形でも大変大きな実績がある病院です。お医者さんも最近かなりふえて、経営も安定している状況です。病院も満床のときもあります。患者は、北は青森、南は沖縄まで来ております。そして、脊損患者の病棟もあって、入院患者は全介護が必要な人も多いという状況です。こういう病院を再編統合の対象にしたら、私は国民全体が困ると思いますよ。大臣、そう思われませんか。
○加藤国務大臣 今回、我々はこの病院を廃止しろとかそういうことを申し上げているわけではありませんが、ただ、そういうふうに受けとめられたことも確かに事実でありますから、その辺は、他の委員にも申し上げたように謙虚に受けとめて、また今後、そうならないように、しっかりと取り組んでいかなきゃいけないというふうに思います。特に、今回は、がん、救急、小児、周産期、災害医療などの高度急性期あるいは急性期機能に着目した分析を行ったわけでありますので、今回の対象とならなかった回復期、慢性期医療あるいは他の専門的な医療について、これについてはそれぞれの地域においてそうした論点を補っていただきたいというふうに思いますし、そうしたことを踏まえながら、それぞれの地域の限られた医療資源の中でその地域にとって必要な医療はどうやったら提供されていくのか、それに向けて議論を進めていただければと思っておりますし、我々は、それにしっかりと対応するというか、そうした議論あるいはそうした取組を支援をさせていただきたいというふうに思っております。
○宮本委員 廃止しろとは言っていないと言いながら、大臣が先日の経済財政諮問会議に出した資料を見ても、ダウンサイジングや機能連携・分化を含む再編統合について、来年九月までの再検証を要請するということで、これには、再編統合ですから、廃止も含めた話ですし、そうでなくてもダウンサイジングということですね、ベッドを減らしなさい、それを要請するんだとはっきり書いているじゃないですか。村山医療センターに聞きましたら、診療報酬でいくと、脊損病棟を見ると、ここだけでは赤字だと言うんですよね。他の部分の黒字で補って支えているという話であります。四百二十四の病院のリストを見ますと、難病だとか重症心身障害児への医療だとか、いわゆる政策医療を担っている病院も少なくないわけですよ。国立病院機構などでいえば、政策医療の分野も補助金もない、その分野だけでは赤字が多いわけですね。その分、一般医療の黒字で補って病院が経営されている場合が多いわけですよ。こういう病院に対して、一般医療のところでいいからダウンサイジングしろということをやったら、病院自体が経営ができなくなっちゃうわけですよ。そうなれば、国民にとって必要な政策医療も提供できなくなる、こういう事態を招くんじゃないですか。
○加藤国務大臣 確かにそういう御指摘もありますけれども、ただ、全体として地域医療を見たときに、どういう資源配分をしていくのかという議論、そして、その中で、限られた資源の中でこれからの地域の医療ニーズに応えていく、そういう議論を私どもはお願いをさせていただいているわけでありますし、また、それを踏まえた形でそれぞれの地域から地域医療構想が既に出てきているわけでありますから、それに向かってしっかり御議論をしていただきたいというふうに思いますし、その中においては、もちろん、今回のデータ分析等も踏まえながら、また、各地域におけるそれぞれの特定領域あるいは地域の実情、そういったこともあります。それらも踏まえた議論をしていただきたい。また、その議論に、先ほどとかぶりますけれども、我々としてできる支援はしっかりやらせていただきたいというふうに思っています。
○宮本委員 ですから、今回出したデータで、一面的な基準で見るということがいかに実情と合っていないのかという話を、私、今させていただいているわけですよ。私は、病院のお話を伺ってきました。大臣は、聞かずにやってきているわけでしょう。現場で実際にどういう役割をそれぞれの病院が担っているのか、そして患者がその地域でどういう病院を求めているのか、そこから出発しないとおかしなことになるんですよ。何か頭の中で、数の話から始まって、削減ありきというところからいくから、こんな一面的な基準で、それこそ、今一生懸命治療をされている先生方が心が折れそうになるというようなことをもたらしているんじゃないですか。私は、今度の一面的な評価というのは全く合理性に欠けると思いますよ、今回の基準というのは。大臣はそう思われませんか。
○加藤国務大臣 先ほどから申し上げておりますけれども、そもそも、地域医療をどうしていくかというのは、まさに地域の中で地域の実情あるいは今後の動向を見ながら御議論いただくということで、我々として、まず、地域医療構想をそれぞれの地域でおまとめいただいたわけであります。その実現に向けて、公立・公的病院等、あるいはこれから民間の議論も当然出てくると思いますけれども、そうした全体を調整し、見直す中で、最初に掲げた地域医療構想の姿を実現をしていく、こういう流れになっております。そういう流れの中で、先般、公立・公的病院等についても具体的方針が出されているわけでありますけれども、こうした一連の流れから見て、急性期からの転換が進んでいないではないか等の御指摘もあって、今回、こうした医療データをお出しすることによって、それをも含めて活用していただいて、これからの議論、あるべき姿をどうしていくのかをしっかり議論していただきたいというふうに思っているわけで、一律に減らすとかいうのではなくて、やはり将来において必要な医療がその地域において提供されていく、そうした体制の実現に向けて、これは地方を当然主体にしながら、国もしっかりそれを応援をさせていただく、こういう趣旨でございます。
○宮本委員 ですから、活用できるデータじゃないじゃないですか。全然実情を踏まえていないんですから。その点を聞いているんですよ。
○加藤国務大臣 いや、活用していただきながら必要な補足をし、そして、これにおいて不足があればまさにさまざまなデータに基づいて議論をしていただく、まさにそういった一助になればということでありますので。もちろん、今回は、全国的、一律的に、しかもある時期のデータをベースに出しておりますから、その時期に、これまでも他の委員からありましたけれども、病院を新しく新築している、あるいは災害等があった、それぞれの事情があると思います。それはそれで、それぞれの地域でそれを補正をしていただきながら、また、必要があれば違う観点からの分析をしていただきながら、また、我々の方からこういうデータを出せということであればそうしたデータも我々は出させていただきながら、まさに今委員御指摘のように、データに基づきながら、やはりこれからどうなっていくのか、そういう議論をしっかりとしていただければというふうに思います。
○宮本委員 ですから、このデータでは不足があるとか、違うデータも必要だったら出しますよと言うんだったら、こんな一面的なデータに基づいた四百二十四のリストは撤回すべきですよ。
○加藤国務大臣 出すに当たって、いろいろな御批判があったり、また、それに伴う、この病院は廃止してしまうんではないかという市民の皆さんの心配を喚起したり、そうしたことは我々も真摯に反省しなければいけないというふうに思いますが、ただ、申し上げているのは、やはりこれから、二〇二五年を見据えながら、あるいはその先を見ながら、地域の医療をどうやっていくのか、それをそれぞれの地域でしっかり御議論いただく、そのためにはこうしたデータも踏まえて御議論をいただく必要があるということでお出しをさせていただきましたので、このデータも含めて、また、地域におけるいろいろなデータや視点もあろうかと思います、それも加えながら、加味しながら、それぞれの地域の中でしっかり御議論いただき、必要があるところにおいては具体的な方針の見直し等も行っていただければというふうに思っております。
○宮本委員 ほかのテーマに移りたいから、ここで次に行きますけれども、やはり一つ一つの病院の役割を一番わかっているのは、厚労省でもありません。一面的なデータを出すのではなくて、やはり地域の医療関係者、そして何よりも住民、この意見を踏まえて、必要な病院は必要だということでやっていかなきゃいけないということを強く申し上げておきたいと思います。次に、先週、労政審の雇用環境・均等分科会で、パワハラ防止についての指針の素案が厚労省事務局より示されました。これに対し、この指針素案ではパワハラを助長しかねないと批判の声が上がっております。指針素案には六つの行為類型ごとにパワハラに該当しない例が記載されておりますが、これにも、使用者の弁解カタログだ、こういう強烈な批判が出ております。先ほどもお話ありましたけれども、例えば、素案では、過小な要求に該当しない例として、経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務につかせること、こう記されております。これは大臣の認識をお伺いしたいと思うんですが、使用者側が、違法な配転や降格、あるいは追い出し部屋など違法なリストラ手法をとって裁判で争いになった際に、経営上の理由により、一時的に、解雇阻止のためのやむを得ない措置だと裁判でしばしば主張してきたというのは御存じですか。
○加藤国務大臣 配転、降格等に関する裁判で、使用者側が業務上の必要性などの主張を行うに当たって、御指摘のような主張を行う場合もあるというふうには承知をしておりますが、それらも踏まえて最終的な判例が積み重ねられているというふうに承知をしております。
○宮本委員 大臣がお認めになったとおり、大体、いつもそう主張するんですよ。例えば、リコー事件。希望退職募集への応募を断った開発部門の技術者が子会社に出向を命じられ、商品のこん包、ラベル張りなどに従事させられました。リコーが退職に追い込もうとした事件であります。これについて、東京地裁は、人事権の濫用だとして出向を無効とする判決を下しました。そのときの使用者の主張は、本件出向命令のように、復帰が予定されていないわけでもなく、かつ、厳しい経営状況の中、緊急的な施策として実施された雇用維持、調整目的の出向命令は、より一層高度な業務上の必要性が認められるというべきであると。こう主張していたわけですけれども、人事権の濫用だとされたわけです。ベネッセの事件。人財部付で単純労働させたことについて、これも地裁判決では、実質的な退職勧奨になっている、配転は効力無効だとしました。このときのベネッセは、一時的な配属なんだ、こういうふうに言ったわけですね。プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件。これも、退職勧奨を拒否した従業員に対して、特別任務として仕事を与えない、さらに次は、単純な事務作業の部署への降格という配転命令が、人事権の濫用として裁判で無効とされました。このときも、使用者は、業務上の必要性がある、当面の措置だと言ったわけですよ。ですから、今回、過小な要求だ、経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務につかせることということを記されておりますけれども、これはまさに、追い出し部屋だとか、違法なリストラをやるときにやってきた使用者側の主張をそのまま書かれているわけですよ。そして、それは大臣もお認めになりました。それをこのまま明記すると。今、素案ですけれども、指針に明記するということになったら、違法な配転や降格、追い出し部屋などを行う使用者側の弁解が正当化されることになってしまうんじゃないですか。
○加藤国務大臣 今のこと、今のパワハラの例を含めて、この素案では、昨年十二月の建議、また平成三十年三月にまとめられた職場におけるパワーハラスメント防止についての検討会報告書、これは労使も参画したものでありますけれども、そうした内容を踏まえて、御指摘の例を含めて、職場におけるパワハラに該当しないと考える例としてお示しをさせていただいたところでありまして、この例を含めて、それ以外も含めて、まだ引き続き分科会で御議論をいただいているというふうに承知をしております。なお、委員の御指摘、先ほど私が申し上げたのは、使用者側からはそうした主張がなされているけれども、それが正当な主張なのかどうかということがまさに裁判等においては争われているのではないかというふうに承知をしております。
○宮本委員 この該当しない例はどこから出てきたのか。もともと、職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書だったわけです。ここでも十二分に議論されていないんです。私、議事録を見ましたけれども、この検討会は十回やられていますけれども、該当しない例が初めて出てきたのは九回目だと。そのときも、委員から例に無理があるという意見が出て、座長はそのときに、これは少し、多分きちんと議論しなければいけないので、きょうだけでは済みそうにない、とりあえず、こうやって盛り込まれている。とりあえずの話なんですよ。それをこういう素案ということに今回盛り込んでいるわけですけれども、裁判で人事権の濫用だと何度も断罪されている、これをこのまま指針に載せていくということになったら、使用者側がみずからの違法なリストラの正当化に使う可能性があるわけですよ。使わないということを保証できるんですか、大臣は。できないでしょう。
○加藤国務大臣 ちょっと済みません、委員の御指摘がよくわからないんですけれども。いずれにしても、どういうガイドラインをつくっても、そのガイドラインを一つの理由として何か行為をなされるというのは、これはいろいろなところであるわけで、その主張をされたから全部ガイドラインを変えるということにはならなくて、問題は、そのガイドラインに沿った主張なのかどうかということがきちんと判断されて、それがパワハラに当たるか当たらないかという議論がなされていくということなんだろうと思いますので、そういった点も含めて、ただ、今の段階で確定しているわけじゃありませんから、この分科会において引き続きしっかり議論をさせていただきたいというふうに思います。
○宮本委員 だって、何度も何度も裁判の判決でそうした主張は退けられてきているわけですよね。退けられてきているわけですよ。そういう例がたくさんあるわけですよ。それをわざわざ該当しない例ということで例示すること自体が間違いですよ。私は、そんな、該当しない例ということを並べること自体、おかしいと思いますよ。セクハラだったら、該当する例は載せますけれども、指針の中で該当しない例は載せていません。なぜパワハラだけ、該当しない例を載せるのか。これも私は全くおかしな話だと思いますけれども、該当しない例というふうに載せるんだったら、どんなことがあっても該当しないという例以外は載せちゃだめでしょう。裁判で何度も断罪されているような手法を該当しない例ですと載せたら、これは該当しないんだと思って、やる企業が出てくるんじゃないですか。そういう懸念を大臣は持たれないんですか。
○藤澤政府参考人 お答え申し上げます。御指摘の指針の素案でございますけれども、御指摘のような例に関する記載の前提といたしまして、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、そういった旨も記載をしてございます。御指摘のような、違法な配置転換あるいは降格といったようなことを正当化する趣旨ではないところでございます。いずれにいたしましても、引き続き分科会において議論を深めていただいて、その結果を踏まえて指針を策定してまいりたいと考えております。
○宮本委員 ですから、状況によって判断が異なり得る場合もあるようなものを該当しない例として堂々と載せるというのはいかがなものですかという話をしているわけですよ。状況によってこれはパワハラに該当するということがある例を、しかも実際にそういう判決も何回も出ている例を、これは該当しない例ですと、堂々と該当しない例の代表格として載せるなんて、どう考えてもおかしいでしょう。本当に、このままいったらパワハラ防止どころかパワハラ助長になりかねないという多くの皆さんの懸念をしっかり受けとめて今後議論をしていただきたいということを申し上げまして、時間になりましたので、質問を終わります。ありがとうございました。