厚労省「通知」混乱広げる 靴型装具など治療ピンチ
厚生労働省が「医療保険の不正請求防止のため」として出した、治療用装具にかかわる「通知」が、患者や装具を提供する技術者に混乱を広げています。
この通知は「治療用装具の療養費支給申請に係る手続き等について」。2018年2月に同省保険局医療課長名で出されました。前年の治療用装具にかかわる不正請求の報道がきっかけです。不正のけん制のために、装具を作製した義肢装具士の氏名を領収書に書くことなどを義務付けています。
しかし現実には、医師の指示にもとづいて提供された治療用装具には、義肢装具士でない技術者・専門職人が作製したものが数多くあります。
43歳の時にリウマチを発症した埼玉県の女性(85)も、義肢装具士でない技術者から装具の提供を受けてきた一人。「当時は‶たちの悪い難病”といわれて、絶望した」といいます。変形した足にあう靴で歩けるようになりたいと、義肢装具士を含めいろいろとあたりましたが、うまく歩けるようになりませんでした。
24年前、「足と靴の相談室エルデ」(東京都新宿区西落合)を知りました。靴文化の先進地・ドイツの技術を7年半かけて身につけた渡辺さ江さんが、その技術を生かして女性にあう「歩ける靴」を作り上げました。「天の岩戸が開いたようでした。私が今まで生きてこられたのは、靴のおかげです。さ江さんはびっくりするほどよく勉強しておられました」
渡辺さんが医師の指示で作成した多くの靴型装具も、これまでは保険の適用を受けてきました。ところが、通知が出て以降、装具にかかる保険請求が却下されるケースが出ています。
たとえば、法律(「高齢者の医療の確保に関する法律」)の支給要件を満たしているのに、装具の提供者が義肢装具士でないとの理由で、保険者の東京都後期高齢者医療広域連合が支給を却下(18年12月)しています。その一方で広域連合は、同じケースなのに支給を決定する(19年12月)という混乱や、不公平な事態を引き起こしています。
今年4月と5月の衆院厚生労働委員会で日本共産党の宮本徹議員がこの問題をとりあげました。
宮本さんは「法律を変えたわけでもないのに、これまで保険でつくれたものが突然つくれなくなる。こんなおかしな話はない」とこうただしました。「通知を出した際に、義肢装具士の資格はないが、医師の信頼を得て、整形靴作製の高い技術を持った靴屋さんがいることについて、議論されたのですか」
厚労省の濱谷浩樹保険局長は「していない」。宮本さんは「実態を知らずに通知を出して、今大変な被害を障害者の方は受けている」と、通知の見直しを求めました。
また、全国的にも通知を理由に不支給が相次いでいることを指摘。「やっていることは人権侵害ですよ。そういう自覚がないことは大変問題だ」
5月には「義肢装具士以外による治療中の患者の採型(型どり)や採寸(寸法計測)は事実上違法行為」という厚労省保険局見解について質問。「(1987年の)義肢装具士法施行前にも、国会資格のない装具作成者が医療現場で採型、採寸をしてきている。そのすべてが違法ということになり、問題がどんどん拡大する」と指摘しました。
不公正な行政の是正を求めてきた靴総合技術研究所(東京都)の渡辺好庸事務局長は訴えます。「2年以上患者をないがしろにした深刻な事態が続いている。根本原因は、義肢装具士には作れない治療に役立つ靴を、保険医が義肢装具士でない技術者に作らせて治療している現実を、行政が無視していることです。法律に基づく早急な対応をしないと、混乱はいっそう広がります」
以上2020年12月12日付赤旗日刊紙より抜粋