2023年5月17日 衆院厚生労働委員会 感染研の法人化反対 宮本徹氏「命・健康に関わる」

 国立感染症研究所(感染研)と独立行政法人国立国際医療研究センターを統合し、特殊法人化する国立健康危機管理研究機構法案が17日の衆院厚生労働委員会で、自民、公明、維新、国民などの各党の賛成多数で可決されました。日本共産党、立民は反対しました。共産党の宮本徹議員は、業務の効率化を法定化し、事業や人、予算を削ることになれば、「国民の命と健康にかかわる」と批判し、予算や研究体制の抜本的拡充を求めました。
 感染研は、国の研究機関として、希少感染症も含め感染症法の届け出が必要な全ての感染症の研究・検査や疫学調査、ワクチンの国家検定などを行っています。これまでの行革でも、政府は、感染研が国の重大な危機管理に直結する業務を行っているために国立としてきました。
 法案では、厚労相が定める中期目標として「業務運営の効率化」が掲げられています。宮本氏は「研究や業務について毎年1%などの効率化が求め、運営費交付金が削られるのではないか」と告発。浅沼一成審議官は「現在の事業の特性も生かしつつ検討していく」と否定しませんでした。
 宮本氏は、感染研で電気代が払えない事態も生じているとし、「競争的研究費だのみになっていて、個々の研究者の基盤研究費は全く足りないという認識をもっているか」と迫りました。加藤勝信厚労相は、「予算を確保し、研究の遂行に支障がないと認識している」と答弁。宮本氏は「現場の研究者から直接意見を聞いてほしい」と強く求めました。

以上2023年5月19日付赤旗日刊紙より抜粋

≪2023年5月17日 第211国会衆院厚生労働委員会第14号議事録≫

○三ッ林委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。質疑を続行いたします。宮本徹君。
○宮本(徹)委員 日本共産党の宮本徹です。今回の法案は、感染研と国際医療研究センター、NCGMを統合して、特殊法人とします。資料一枚目を御覧いただきたいと思いますが、橋本行革のとき、災害等国の重大な危機管理に直結し、直接国の責任において実施することが必要な事務事業は、国が自ら主体となって直接実施しなければならない事業だとして、感染研は国立とするという判断をしてきたわけでございます。私は、国立というのは当然、本来続けるべき形態だと思いますが、なぜ国立をやめてしまうのか。今日あるいはこの間の議論を聞いていましても全く説得力がある説明はなされていないと思いますが、いかがですか。
○浅沼政府参考人 お答えいたします。平成九年の行政改革会議最終報告書が取りまとめられた際ですが、国立感染症研究所につきましては、感染症に係る国の重大な危機管理に直結する業務を行っている一方、独立行政法人は国が自ら主体となって直接実施しなければならない事業を対象業務としないものであるため、独立行政法人化しなかったものと認識しております。国立健康危機管理研究機構につきましても、感染症有事には、特に政府対策本部の方針等に従い、病原性の高い病原体の検体採取、患者の入院治療等を迅速、柔軟に行う役割を担うこととしており、国の関与を必要最小限とする独立行政法人にはなじまない一方、感染症危機対応時に質の高い科学的知見を迅速に獲得できるようにするためには、国際的に卓越した人材を確保する必要があり、人事、組織などの運営を柔軟に行える組織であることが必要であることから、これらの両方の側面を考慮し、大臣が強い監督権限を持ち、かつ国の組織よりも柔軟性のある組織に相ふさわしい法人といたしまして特殊法人とするものでございます。
○宮本(徹)委員 柔軟性のためにと言うんですけれども、柔軟性のためにの、その先の理由は余り説得力あるものが示されていないわけですよね。せいぜい言われるのは、高度人材のための給与の話が出てくるわけで、それだったら、ちゃんと公務員の給与の体系について考えればいいだけの話ですし、何よりも、やはり感染症対策に当たられている研究者の皆さんというのは、一番大事なのは使命感ですよね。使命感で皆さん研究をやられていると思います。その点、特殊法人って、これは総務省のホームページを見ましても、こう書いていますよ。その事業の性質が企業的経営になじむもの、これが一番初めに書かれているわけですよ。およそ感染症対策が企業的経営になじむものなんというのは、私は言えないと思いますよ。その上で、法案では、厚労大臣が定める中期目標として業務運営の効率化、これが掲げられております。機構が定める中期計画でも、業務運営の効率化に関する目標を達成するため取るべき措置が明記されております。これは国立大学法人法などと同じなわけですね。国立大学では、効率化の名の下に長期にわたり運営費交付金が削減され、研究力の低下を招きました。資料の二ページ目を御覧いただきたいと思いますが、今回、統合の一方でございますNCGM、赤線を引いたところを御覧になっていただければと思いますが、研究費以外の運営費交付金で支えられております補助金見合い事業を除く研究研修事業及び情報発信事業、運営基盤確保事業は、毎年一%の効率化が求められて、事業費が削られる構造になっているわけですよ。そうすると、新法人でも、事業運営の効率化の名の下に、NCGMや感染研の事業や研究について毎年一%などの効率化を求め、運営費交付金、事業費が削られる、この構造が継承されていく、こういうことになるのじゃありませんか。
○浅沼政府参考人 お答えいたします。現在の国立国際医療研究センターにおきましては、主に臨床研究を含む研究を推進する事業、国際医療協力や研修医、看護師を育成する事業、情報発信や教育研修その他の事業を行っておりまして、御指摘の毎年一%の効率化を求められている事業は、情報発信や教育研修等の事業でございまして、センターの重要な役割である研究開発や国際医療協力等の事業につきましては、その重要性等に応じて増額も行っているところでございます。また、制度的にも、現在の国立国際医療センター等の研究開発法人につきまして、主務大臣が定める中長期目標は、研究開発成果の最大化を第一目的とし、効率化目標の設定についても、研究開発の特性を踏まえた柔軟な運用を行うこととされており、さらに、特殊法人である国立健康危機管理研究機構の中期目標の設定につきましては、本法案におきまして、第一に感染症の発生及び蔓延に備えるための体制整備に関する事項を規定し、そのための研究開発の成果の最大化に関する事項を定めた上で、業務効率化等の一般的事項について定めることとしております。いずれにいたしましても、機構の具体的な事業やそれに伴う予算等につきましては、次の感染症危機に備えて機能強化を図る観点から両機関を統合するため、両機関の現在の事業の特性も生かしつつ検討をしてまいりたいと考えております。
○宮本(徹)委員 検討をしていくということで、これが続くのかどうかということについては明言されないわけですよね。ちなみに、NCGMは、平成二十二年当初、運営費交付金は八十四・五億円ありましたけれども、二〇一九年には五十八・八億円まで減っているんですよね。大規模に削減をされております。二〇一〇年、新型インフルエンザ対策総括会議報告書で、感染症危機管理に関わる体制の強化が指摘されました。特に国立感染研究所については、米国CDCを含め、各国の感染症を担当する機関を参考にしてよりよい組織や人員体制を構築すべきであるとして、人員体制の大幅な強化、人材の育成などを求めておりました。ところが、感染研では、二〇一一年をピークにコロナパンデミックが起きる前まで常勤研究者は削られ、経常的研究費も削られていったわけであります。そうした体制が弱体化した中で、今回のコロナパンデミックを迎えるということになりました。この法案で、わざわざ中期目標で業務運営の効率化というのを掲げていくということになって、一律の効率化を求めていけば、同じ過ちを繰り返すことになるんじゃありませんか。
○浅沼政府参考人 お答えいたします。まず、国立感染症研究所の人員につきましては、令和元年度までは若干の減少傾向であったものの、令和三年度におきましては、新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた大幅な増員を行ったところでございます。また、研究費につきましても、平成二十八年度まで若干の減少傾向が続いておりましたけれども、平成二十九年度よりおおむね増加傾向、令和三年度におきましては大幅な増となっておるところでございます。本法案におきまして、厚生労働大臣が定める国立健康危機管理研究機構の中期目標には、感染症の発生及び蔓延に備えるための体制整備に関する事項を掲げ、研究成果の最大化に関する事項を定めた上で、業務効率化等の一般的事項について定めることとしており、これに基づき、機構が人員、予算の計画を含めた中期計画を作成することとなります。法案が成立すれば、施行に向けまして、機構に求められる、平時から政府に質の高い科学的知見を提供する役割や、有事におきまして政府と一体的に感染症対策を担う役割を全うすることができるよう、厚生労働大臣が中期目標を、機構が中期計画を検討し、必要な人員、予算等を確保してまいりたいと考えております。
○宮本(徹)委員 必要な人員、予算を確保するとおっしゃるんですけれども、その確保の中身が語られないわけですよね、抽象的なことばかり掲げられて。現に、今まで法人化された様々なところでは、運営費交付金が削減されてきた。あるいは感染研についても、国立でありながら削減されてきた。いや、そういうことはもう今後一切ないんですと言うんだったら、そう言ってもらえばいいんですよ。それを一切言わずに今後の検討課題だということを言うから、不安が広がっていくわけです。資料の六ページ目を御覧いただきたいと思いますけれども、日本版CDCと今回法律で通称を言われているわけですけれども、感染研は、感染症については、アメリカのCDC、NIH、FDAにまたがる機能を担っているわけであります。例えば、国立の研究機関として、大学などでは研究者がいない希少感染症も含めて、感染症法で届出が必要な全ての感染症の研究を行っております。あるいは、民間の検査会社や地方衛生研究所では行えない、メジャーでない感染症も含めた検査業務も担っているということになっているわけですね。感染症の研究、検査という点では最後のとりでの役割を果たしているのが感染研です。仮に、効率化の名の下で切り捨てられる希少感染症があれば、それにかかった国民の命にとって重大な事態になるわけです。これらの希少感染症等の研究の継続というのは、法律上、どう担保されるんでしょうか。これも中期目標で左右されるということになるんでしょうか。
○浅沼政府参考人 お答えいたします。国立感染症研究所は、現在も、例えばエボラウイルスやジカウイルス、その他国内での発生がまれな感染症を含めた様々な感染症に対応できるよう、研究や検査などを研究所の予算や厚生労働科学研究費等において実施してきたところでございます。本法案では、国立健康危機管理研究機構が国立感染症研究所の業務を確実に引き継いで実施するため、機構法に必要な規定を置いておりまして、こうした感染研以外では実施が困難な事業も着実に実施していくこととしております。法案が成立すれば、中期目標の策定等を進めることになりますけれども、機構に求められる役割を確実に果たすことができるように、しっかりと検討をしてまいりたいと考えております。
○宮本(徹)委員 これはもう本当に、希少感染症も含めてしっかりとした体制を取っていただきたいと思うんですね。現状でも、感染研で希少感染症の専門家が退職しても、当該分野の専門家が補充されずに、関連する分野を専門とする研究者がフォローするということも現状でも広く起きているんですよ。それが、新しい体制になって、業務運営の効率化だとなったときに、本当に専任の研究者がしっかり配置されるのか、大変大きな懸念があります。さらに、現状の感染研でいいますと、国立研究機関として負っている任務からいいますと、国からの研究予算というのは全く足りない状況にあります。基盤的研究費というのがありますけれども、今年度の予算でいえば一億弱であります。これは人頭割で、それぞれの部に下りていくそうですけれども、ある部の方にお伺いしますと、一人四十万円掛ける二十人で八百万円来るけれども、共有しているコピー機や部長の秘書の給与などになって、この基盤的研究費で個人の研究で必要な試薬を買うなど、こういうことにはほとんど回ってこない状況にあるわけですね。ほぼゼロだと言っています。では、どうやって皆さん研究しているのかと聞きましたら、自ら競争的研究費を獲得するしかない、しかし競争的研究費は取れない場合もある、とりわけ希少感染症などは競争的研究費が取りにくい、その場合は競争的研究費を取った研究者から融通してもらうなどしなければ自らが責任を負っている分野の研究はできない、こういうことになっているというお話を聞きました。資料の五ページのところですか、労働組合の皆さんのアンケートも載せておきました。基盤的研究費を増やしてほしいという切実な声が上がっております。七七・五%の人が増やしてほしいと。百万円でも二百万円でも、あれば本当に助かるんだということで、声を上げていらっしゃるわけですね。ちょっと大臣の認識もお伺いしたいと思いますけれども、感染症法に基づいてやるべき研究が競争的研究費頼みになっていて、基盤的研究費は全く足りない、こういう認識、大臣はお持ちでしょうか。
○加藤国務大臣 国立感染研究所では、感染症に関する情報収集、解析及び基礎研究、また感染症危機時における検査対応や疫学調査などを行っており、これらの研究業務を遂行するために必要な予算は措置してきたところであります。御指摘の基盤的研究費でありますけれども、特に特定の研究目的に縛られない研究費ということでありますが、これについては、例年、一定の水準の予算額を確保しておるというところであります。国立感染症研究所の研究予算全体としては、新型コロナを踏まえ、令和三年度に大幅に増額するなど必要な予算を確保してきたところであり、同研究所全体として、研究費が不足したり、その結果、研究の遂行に支障が生じる状況ではないというふうに認識をしているところでございます。
○宮本(徹)委員 その答弁を聞いたら、現場の研究者の皆さんは、本当に大臣は現場を知らないとお思いになると思いますよ。ワクチンの国家検定も、予算は前年度実績でしか来ないので、ワクチンの多い年は国の予算だけでは足りずいろいろ融通している、こういう話も聞きました。コロナパンデミックで感染研の人員と予算は確かに増えました。しかし、資料の六ページ目の感染研の全体の図を載せているのを見ていただければ分かりますように、数字が入っているところが増えた人数ということになっていますけれども、増えた人数の大半は、疫学関係、危機管理関係のところが増えているわけですね。基礎的な研究のところの人の配置はほとんど増えていない。そして、研究費は増えたといっても、全体の、電気代始めそうした運営費に充てられていて、個々の研究者の基盤的研究費は全く足りない。減り続けているわけですよ、この基盤的研究費は。ですから、この間、電気代が払えない事態が生じて、節電のためにディープフリーザーを停止した、こんなことも感染研では起きているわけですよね。その一方で、研究に必要な試薬は高騰している。十年で二倍以上に値上がりしているものも少なくないという実態にあるわけですよ。逆に言えば、十年前の半分しか、同じ予算でも試薬は買えない状況がある。私、大臣の先ほどの答弁を聞いて本当に思ったんですけれども、是非、現場の研究者から直接、大臣、状況をお伺いした方がいいと思いますが、いかがですか。
○加藤国務大臣 例えば、基盤研究費が不足する際には、他の研究費の残余を充当するということも可能であり、実際そういったこともやりくりしながら、感染研における研究の遂行に支障が生じないよう対応しているというふうにお聞きをしているところでございます。引き続き、現場の状況はしっかり把握しながら対応していきたいと考えています。
○宮本(徹)委員 その足りているという認識は、本当に、現場の皆さんからしたら、大変がっかりな認識だと思われると思います。全く足りません。それで本当に今ので足りるという認識でいたら、これから皆さんがつくろうとしているこの新しい法人というのはどんなものになるのか、大変心配な状況にますますなります。更にお伺いしますけれども、希少感染症も含めて、感染症危機対応のためには、平時は役に立たないように見えてもしっかり人員を配置する、このことが必要不可欠であります。効率化を求めて人や研究費を減らしたならば、危機時の対応能力が下がってしまう。この点は大変自明なことだと思います。そこで、次に、資料の七ページ目のところに毎日新聞の記事を載せておきました。科学論文全体で見ると、デジタルサイエンス社の調査で、日本は世界の五位ということになっておりますけれども、感染症の研究論文で見ると十二位なんですね。ここには日本の感染症研究予算の少なさが反映している、こういう自覚は、大臣、お持ちでしょうか。
○加藤国務大臣 我が国の感染症に関する研究開発について課題があることは承知をしておりますが、それに関しては、疫学研究、臨床研究等で医療情報を利活用するための枠組みが不十分であったこと、情報や試料を研究者が入手できなかったこと、平素の疫学研究や臨床研究の体制が整備されていなかったことなどの課題が示されているところでございます。こうした課題に対しては、令和三年度より、国立国際医療研究センターと国立感染症研究所において、協力医療機関から臨床情報、検体を収集、病原体や人のゲノム情報の解析、利活用を希望する国内の大学を含めた研究機関、企業等の研究者へのデータの提供をするための新興・再興感染症データバンク事業、いわゆるREBIND、こうしたことも実施をしているところでございます。また、この法案によって、機構においては、基礎研究と臨床研究の一体的な実施を可能とし、また、国内外の研究機関等による治験等のネットワークを構築して、ワクチン等の開発に対する貢献も期待をされているところでございます。さらに、研究費のお話がありましたが、研究費については、新型コロナを含めた新興・再興感染症研究に対して、厚生労働科学研究、またAMEDの事業を通じて、令和二年度から令和四年度までの三か年で少なくとも約四百二十五億円の予算措置をしてきたところでありますし、また、ワクチン開発・生産体制強化戦略に基づいて予算措置も行っているところでございます。特に、AMEDに設置されたSCARDAにおいて感染症ワクチンの中長期的な研究開発を推進するため、国内企業やアカデミアへの戦略的な研究費の配分も行っているところでございます。厚労省としては、この法案が成立し施行されれば、機構を中核として関係省庁が連携しながら、必要な予算を確保して、厚生労働科学研究、またAMEDの事業なども通じまして、感染症研究をしっかり進めていきたいというふうに思っています。
○宮本(徹)委員 その中心になる感染研の予算は、先ほど、増やしたというお話をしましたけれども、今年度の予算は九十二億円ですよね。例えば、平成二十一年度の当初予算でいうと、九十八億円ですよ。コロナを経ても、ちょっと前の予算と比べても、それよりも少ないというのが現状なんですよね。それで、今回、NCGMとの統合ということになるわけですけれども、NCGMは、事業会計を見ますと、コロナパンデミック以前は、二〇一九年度までは、研究事業、研修事業は損益がマイナスで、診療事業による収益がその二つを支える構造に大体なっているわけですよね。そうすると、国は余り予算を出していない、感染研も出していない。感染研とNCGMが統合して、感染研が担ってきた研究の部分まで診療事業の収益で支えるということになったら、これはもう到底無理な話だと思います。これは本当に国自身が抜本的に予算を拡充するしかないと思うんですけれども、大臣、いかがですか。
○加藤国務大臣 現在の国立感染症研究所では、必要な研究費を予算計上し研究を実施するとともに、同研究所の目的に合致するような外部の競争的資金も積極的に獲得して研究が実施されているものと承知をしております。また、国立国際医療研究センターにおいては、独立法人となった平成二十二年度以降、教育研修事業は全て赤字である一方、研究事業及び診療事業に関しては年度によって黒字、赤字と異なるため、必ずしも、今御指摘があったように、診療事業の収益が研究事業及び教育研修事業を支える構造となっていないというふうに認識をしているところであります。その上で、国立健康危機管理機構に求められる、平時から政府に質の高い科学的知見を提供する役割、あるいは有事において政府と一体的に感染症対策を担う役割、また、これまで継続して実施することとされている役割、これを全うすることができるよう、各事業の性質などに応じて機構全体として必要な予算などを確保できるように努力をしてまいりたいと考えております。
○宮本(徹)委員 資料の三ページにNCGMの運営費交付金、経常収益、経常費用を載せていますけれども、研究事業についてもほとんどの年が赤字で、収益が上回っている年は少ないわけですよね。これはしっかりと見ておいていただきたいと思います。の上で、感染研は、ワクチン、血液製剤の国家検定、レファレンス業務、実地疫学調査などなどを行っております。今回、業務の運営の効率化というのが法律で定められるわけですけれども、こうした分野で効率化を求めるということになったら、必要な業務ができなくなり、国民の命を守れなくなる、こうなっていくと思います。これらの事業の効率化まで求めていくのか、あるいは、現在感染研が担っている業務の中で、効率化や予算削減を求めないと決めている業務があるのか、この点をお伺いしたいと思います。
○浅沼政府参考人 お答えいたします。国立健康危機管理研究機構は、御指摘いただきました業務を含めた、いわゆる感染研が行う様々な事業を引き継ぐこととしておりまして、本法案におきましては、国立健康危機管理研究機構法に必要な規定を置いているところでございます。こうした事業は確実に実施されなければならないと考えております。他方、機構は国民の税金も充てて運営されている法人となる以上は、限られた資源の中で予算配分や人員配分が適切に行われることが重要でございます。全体の予算額、人員数等、業務運営の効率化は必ずしもトレードオフの関係ではありませんし、両方を目指しながら検討を進めてまいりたいと思います。いずれにいたしましても、機構に求められる役割を確実に果たすことができるよう、令和七年度以降の創設に向けてしっかり取り組んでまいりたいと考えています。
○宮本(徹)委員 その答弁も大変不安になりますね。トレードオフじゃないということを言いますけれども、やはり効率化を求めてお金を削っていったら、当然、必要な業務、必要な人的体制に影響が出るわけですよ。ここはもう、絶対そこは予算は減らさないんですということをここでやはり言ってもらわなきゃ困ると思うんですね。ちょっと角度を変えます。法人化後、感染研が行う国家検定について、PMDAに順次移していく、こういう検討が進んでおります。日本も含めて、ワクチンなど同じものを製造するのが化学合成品より格段に難しい生物学的製剤を製造する国では、ロット毎の国家による試験検査を経て出荷を認める制度を維持しております。試験検査能力のないPMDAに国家検定業務を移管して、必要ならば試験による検査は外部委託となれば、試験の軽視が進むことになりかねないと思います。これでは国民の安心、安全は後退するんじゃないでしょうか。
○八神政府参考人 ワクチンの国家検定についてお尋ねをいただきました。お答え申し上げます。ワクチンなど高度な製造技術や品質管理が必要な医薬品等につきましては、出荷する際に、企業の自家試験だけでなく、国立感染症研究所による国家検定を実施し、その品質、有効性、安全性の確認を行ってまいりました。その検定の手法には実地試験と書面審査があり、ワクチンの国家検定の多くは実地試験を実施してまいりましたが、近年、医薬品メーカーの品質管理、試験技術が大幅に向上しており、国の機関により重ねて実地試験を実施せずとも、品質の確認、確保ができるようになってきております。また、ワクチンの国家検定に関して、WHOのガイドラインがございます。ロットごとに製造工程と品質管理試験の記録を書面で確認をし、評価するということが推奨され、必ずしも実地試験を行うことを求めていないなど、国際的にも、検定の実施方法が実地試験から書面でのデータの評価を重視したものに合理化が図られてきており、実際に米国等では、全ロットでの実地試験を実施していない。こうした我が国の医薬品メーカーの状況ですとか国際的な動向を踏まえまして、国立健康危機管理研究機構の発足後において、機構が書面で審査できると評価した製品の国家検定から順次PMDAに移管をするという予定としてございます。ただし、引き続き、実地試験等必要な製品、あるいは製品の品質や安全性が疑われる場合には、PMDAへの移管後も実地試験部分を国立健康危機管理研究機構に委託をして実施をする予定であり、引き続き、ワクチンの安全性確保について重層的な確認ができる体制を確保するということといたしております。
○宮本(徹)委員 必要なものは実地試験をやるというわけですけれども、私が聞いたのは、実地試験が外部委託となったら、これは試験の軽視になっていくんじゃないのか。実際、実地試験で問題があるということではじかれたロットもあるわけですから、ここは国民の安全、安心が非常に関わる問題だと申し上げておきたいと思います。加えて、感染研で実施されております書類審査には、ワクチンの試験担当者としての専門性が生かされております。これまでは、書類審査と実際の試験結果を踏まえて、実際に両方に関与した研究者が慎重に判断してまいりました。専門性の知見を生かして検査結果の動向の分析等を審査方法や検査法の改良に役立ててきた有機的なつながりを断ち切ることになりかねない懸念があります。実際に試験を実施しているからこそ深い審査ができるという面があると思いますけれども、PMDAに移管後は、この専門性が生かせなくなり、これは、ワクチンの安全、安心を守る体制としては後退することになるんじゃありませんか。
○八神政府参考人 お答え申し上げます。厚生労働省では、従来から、効率的な国家検定業務の在り方につきまして、国立感染症研究所とも連携をしつつ検討を進め、これまで実地試験を行ってきた品目についても、国立感染症研究所により書面のみで審査が可能と評価できたものについては、書面審査への移行を進めてまいりました。国立健康危機管理研究機構設立後は、書面でできると評価した製品の検定から順次、製品の審査、安全対策を一貫して実施できるPMDAに移管することとしております。これによりまして、PMDAにおいても医薬品の製造プロセスの調査や品質審査を担っていることから、国立感染症研究所と同様に十分な専門性を有しており、その専門性を生かしてPMDAが書面審査を担うことができる。一方、機構では、検定業務に時間を割かれることなく、ワクチン、治療薬の研究開発などのより専門性の高い業務に専念できるということで、安全性、品質の確保と迅速性、効率性の徹底を図りつつ、ワクチン産業の負担軽減、競争力向上等にも資すると考えております。引き続き、PMDAにおける検定実施体制の整備を進めるとともに、国立感染症研究所においては、書面のみで審査が可能である品目の評価を着実に進めてまいりたいと考えております。
○宮本(徹)委員 試験を実地にやっている人がやらなくても同様に審査ができるというのは、これは今の研究者の皆さんが聞いたら大変侮辱的な発言にも聞こえるんじゃないかなと思いますね。従来、国家検定の基準や試験の方法は、感染研が申請者と協議をして決めてまいりました。感染研が専門的な蓄積を有してきたからであります。感染研には試験法の開発や改良の研究を行う研究者がおり、その研究者が実際に検定を行っております。PMDAが基準作り、感染研が委託されて試験と分けることで、日本の品質管理の水準が下がっていくことになるのではないか、大変懸念しております。さらに、感染研は、資料をお配りしておりますけれども、WHOの協力センターとしても、この面でも大きな役割も果たしておりますし、ワクチンの国際共同治験への参画もしております。国家検定の試験が単なる委託試験となった場合、ワクチン等の品質管理、研究者としてのモチベーションを維持することや、人材の確保、養成も困難となるのではないかという懸念の声も出ております。この面からも、安心、安全を守る体制の後退につながるんじゃありませんか。
○浅沼政府参考人 お答えいたします。現行ワクチン等の国家検定に当たりましては、厚生労働省が国立感染症研究所の意見を聞きつつ、審議会での審議を経て作成している生物学的製剤基準を基準に実施しているところでございまして、感染症対策の専門機関である国立健康危機管理研究機構が創設された後もこの体制は維持することとしております。また、検定業務の移管後は、医薬品の製造プロセスの調査や品質審査を担っているPMDAがその専門性を生かして書面審査を担うこととなっているため、ワクチン等の品質管理の質が低下することはないと考えておるところでございます。また、人材確保の面の御指摘もございましたけれども、ワクチン等の検定がPMDAから機構に対して委託試験となった場合でも、業務の内容には変わりはないことから、機構においてしっかりと職員の確保、養成を行ってまいりたいと考えております。また、機構における具体的な職員の採用、教育訓練やキャリアパスの描き方を含めた人材確保戦略につきましても、国会での御審議、両機関の関係者や有識者の御意見等も踏まえながら、ワクチンの国家検定制度の見直しの状況も見ながら検討してまいりたいと考えています。将来的には、検定業務のPMDAへの移管によりまして、機構では、定期的な検定業務に時間を割かれることではなく、ワクチン、治療薬の研究開発等により専門性の高い業務に専念できることを期待しているところでございます。
○宮本(徹)委員 よく現場の研究者の意見を聞いていただきたいと思うんですね。ウイルス学者だからこそ、そしてまた実地の試験もやっているからこそ深い審査ができるんだというお話も伺っております。こうした話がどこから出てきたのかというと、資料を最後に見ていただきたいですけれども、十ページ、十一ページ目の、自民党の小委員会が、ワクチン産業の負担軽減、そのためにこの試験をPMDAに移管しよう、こういう話が出てきたわけですよね。製薬産業政治連盟からは、加藤大臣も、勉強会のパーティー券なんかも毎年のように買ってもらっていると思いますよ。ぱっと見たら百万円ぐらい買ってもらっていますよね。そういう業界の皆さんの要望を受けて、ワクチン産業の負担軽減、こういう角度から物事が考えられて、ワクチンの安全、安心の体制が後退する、こういうことがあっては決してならない、このことを強く申し上げまして、時間になりましたので質問を終わります。