2019年10月30日衆院厚生労働委員会 パワハラ指針素案 該当しない事例削除を  

 日本共産党の宮本徹議員は10月30日、衆院厚生労働委員会で、厚生労働省が労働政策審議会雇用環境・均等分科会に示した職場のパワハラに関する指針の素案の問題点を指摘し、「パワハラに該当しない例」の記述を削除するよう求めました。
指針素案は、「パワハラに該当しない例」の一つとして「経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること」と記されています。宮本氏は「違法な配転・降格、追い出し部屋など違法なリストラを行う際の弁解として、使用者側がしばしば行う主張だ」とただしました。加藤勝信厚生労働大臣は「使用者側がご指摘のような主張をする場合もあると承知している」と認めました。
宮本氏は、指針の記述のような事例が裁判で人事権の乱用だと何度も断罪されてきたとし、「これがこのまま指針に明記されたら、違法なリストラが正当化されてしまう危険がある」と批判。加藤厚労相は「今の段階で確定しているわけではないので、引き続きしっかり議論をしたい」と述べました。

以上2019年11月4日付赤旗日刊紙より抜粋

≪第200回2019年10月30日衆院厚生労働委員会第2号 該当部分議事録抜粋≫

○宮本委員 ほかのテーマに移りたいから、ここで次に行きますけれども、やはり一つ一つの病院の役割を一番わかっているのは、厚労省でもありません。一面的なデータを出すのではなくて、やはり地域の医療関係者、そして何よりも住民、この意見を踏まえて、必要な病院は必要だということでやっていかなきゃいけないということを強く申し上げておきたいと思います。次に、先週、労政審の雇用環境・均等分科会で、パワハラ防止についての指針の素案が厚労省事務局より示されました。これに対し、この指針素案ではパワハラを助長しかねないと批判の声が上がっております。指針素案には六つの行為類型ごとにパワハラに該当しない例が記載されておりますが、これにも、使用者の弁解カタログだ、こういう強烈な批判が出ております。先ほどもお話ありましたけれども、例えば、素案では、過小な要求に該当しない例として、経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務につかせること、こう記されております。これは大臣の認識をお伺いしたいと思うんですが、使用者側が、違法な配転や降格、あるいは追い出し部屋など違法なリストラ手法をとって裁判で争いになった際に、経営上の理由により、一時的に、解雇阻止のためのやむを得ない措置だと裁判でしばしば主張してきたというのは御存じですか。
○加藤国務大臣 配転、降格等に関する裁判で、使用者側が業務上の必要性などの主張を行うに当たって、御指摘のような主張を行う場合もあるというふうには承知をしておりますが、それらも踏まえて最終的な判例が積み重ねられているというふうに承知をしております。
○宮本委員 大臣がお認めになったとおり、大体、いつもそう主張するんですよ。例えば、リコー事件。希望退職募集への応募を断った開発部門の技術者が子会社に出向を命じられ、商品のこん包、ラベル張りなどに従事させられました。リコーが退職に追い込もうとした事件であります。これについて、東京地裁は、人事権の濫用だとして出向を無効とする判決を下しました。そのときの使用者の主張は、本件出向命令のように、復帰が予定されていないわけでもなく、かつ、厳しい経営状況の中、緊急的な施策として実施された雇用維持、調整目的の出向命令は、より一層高度な業務上の必要性が認められるというべきであると。こう主張していたわけですけれども、人事権の濫用だとされたわけです。ベネッセの事件。人財部付で単純労働させたことについて、これも地裁判決では、実質的な退職勧奨になっている、配転は効力無効だとしました。このときのベネッセは、一時的な配属なんだ、こういうふうに言ったわけですね。プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件。これも、退職勧奨を拒否した従業員に対して、特別任務として仕事を与えない、さらに次は、単純な事務作業の部署への降格という配転命令が、人事権の濫用として裁判で無効とされました。このときも、使用者は、業務上の必要性がある、当面の措置だと言ったわけですよ。ですから、今回、過小な要求だ、経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務につかせることということを記されておりますけれども、これはまさに、追い出し部屋だとか、違法なリストラをやるときにやってきた使用者側の主張をそのまま書かれているわけですよ。そして、それは大臣もお認めになりました。それをこのまま明記すると。今、素案ですけれども、指針に明記するということになったら、違法な配転や降格、追い出し部屋などを行う使用者側の弁解が正当化されることになってしまうんじゃないですか。
○加藤国務大臣 今のこと、今のパワハラの例を含めて、この素案では、昨年十二月の建議、また平成三十年三月にまとめられた職場におけるパワーハラスメント防止についての検討会報告書、これは労使も参画したものでありますけれども、そうした内容を踏まえて、御指摘の例を含めて、職場におけるパワハラに該当しないと考える例としてお示しをさせていただいたところでありまして、この例を含めて、それ以外も含めて、まだ引き続き分科会で御議論をいただいているというふうに承知をしております。なお、委員の御指摘、先ほど私が申し上げたのは、使用者側からはそうした主張がなされているけれども、それが正当な主張なのかどうかということがまさに裁判等においては争われているのではないかというふうに承知をしております。
○宮本委員 この該当しない例はどこから出てきたのか。もともと、職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書だったわけです。ここでも十二分に議論されていないんです。私、議事録を見ましたけれども、この検討会は十回やられていますけれども、該当しない例が初めて出てきたのは九回目だと。そのときも、委員から例に無理があるという意見が出て、座長はそのときに、これは少し、多分きちんと議論しなければいけないので、きょうだけでは済みそうにない、とりあえず、こうやって盛り込まれている。とりあえずの話なんですよ。それをこういう素案ということに今回盛り込んでいるわけですけれども、裁判で人事権の濫用だと何度も断罪されている、これをこのまま指針に載せていくということになったら、使用者側がみずからの違法なリストラの正当化に使う可能性があるわけですよ。使わないということを保証できるんですか、大臣は。できないでしょう。
○加藤国務大臣 ちょっと済みません、委員の御指摘がよくわからないんですけれども。いずれにしても、どういうガイドラインをつくっても、そのガイドラインを一つの理由として何か行為をなされるというのは、これはいろいろなところであるわけで、その主張をされたから全部ガイドラインを変えるということにはならなくて、問題は、そのガイドラインに沿った主張なのかどうかということがきちんと判断されて、それがパワハラに当たるか当たらないかという議論がなされていくということなんだろうと思いますので、そういった点も含めて、ただ、今の段階で確定しているわけじゃありませんから、この分科会において引き続きしっかり議論をさせていただきたいというふうに思います。
○宮本委員 だって、何度も何度も裁判の判決でそうした主張は退けられてきているわけですよね。退けられてきているわけですよ。そういう例がたくさんあるわけですよ。それをわざわざ該当しない例ということで例示すること自体が間違いですよ。私は、そんな、該当しない例ということを並べること自体、おかしいと思いますよ。セクハラだったら、該当する例は載せますけれども、指針の中で該当しない例は載せていません。なぜパワハラだけ、該当しない例を載せるのか。これも私は全くおかしな話だと思いますけれども、該当しない例というふうに載せるんだったら、どんなことがあっても該当しないという例以外は載せちゃだめでしょう。裁判で何度も断罪されているような手法を該当しない例ですと載せたら、これは該当しないんだと思って、やる企業が出てくるんじゃないですか。そういう懸念を大臣は持たれないんですか。
○藤澤政府参考人 お答え申し上げます。御指摘の指針の素案でございますけれども、御指摘のような例に関する記載の前提といたしまして、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、そういった旨も記載をしてございます。御指摘のような、違法な配置転換あるいは降格といったようなことを正当化する趣旨ではないところでございます。いずれにいたしましても、引き続き分科会において議論を深めていただいて、その結果を踏まえて指針を策定してまいりたいと考えております。
○宮本委員 ですから、状況によって判断が異なり得る場合もあるようなものを該当しない例として堂々と載せるというのはいかがなものですかという話をしているわけですよ。状況によってこれはパワハラに該当するということがある例を、しかも実際にそういう判決も何回も出ている例を、これは該当しない例ですと、堂々と該当しない例の代表格として載せるなんて、どう考えてもおかしいでしょう。本当に、このままいったらパワハラ防止どころかパワハラ助長になりかねないという多くの皆さんの懸念をしっかり受けとめて今後議論をしていただきたいということを申し上げまして、時間になりましたので、質問を終わります。ありがとうございました。